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第一章 逃亡
職業選択の自由:ルイーゼ視点
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晩御飯は宿屋の食堂で三人で一緒に食べた。
アンリとはかなり打ち解けたが、リンクとはほとんど話をしていない。
私からリンクに話しかけた。
「『逃がし屋』はアンリとお二人でやられているのですか」
リンクは私よりも明らかに年上と思われるため、敬語で話した。
「いいえ、巨大な組織で、他にも仲間は沢山いますが、ルイーゼ様に直接接触するのは私とアンリの二人です」
「私以外の他の方の逃走の手助けもされているのですか」
「ええ。ただ私たち二人はルイーゼ様専属です」
このリンクという男は、見れば見るほど綺麗な顔をしている。アルバート皇太子も端正な顔立ちだったが、顔だけ見れば、圧倒的にリンクに軍配が上がる。
アルバートのことを思い出してしまった。でも、婚約者選定のときは、もう少し誠実な感じがした。まさかあのような性癖の持ち主だとは、想像も出来なかった。
「アルバート皇太子のことを思い出しておられますか? 我々の調査によると、あの男は最悪です。現時点で隠し子が八人います。隠し妻は二十八人です。今日お会いになったお二人は、ルイーゼ様には伝えられていないようですが、正式に認められている側室です」
全く知らなかった。私はそんな男に嫁ぐところだったのか。
「両親は知っていたのでしょうか」
「ええ、間違いなくご存知でした。知らなかったのはルイーゼ様だけかと思います」
両親はやはり権力欲に取り憑かれてしまったようだ。
「その依頼主というのは絶対に明かせないのでしょうか」
「はい、この商売には守秘義務というのがございまして。ただ、一つ伝言がございます。逃亡の依頼をしたことについては、恩に感じる必要はまったくないそうです。私共を存分にお使い下さいませ」
とりあえず依頼主の正体については、しばらく置いておくしかないか。
「わかりました。それで、酒場の娘から始める、ということは、この先、別の職業にもつくということかしら?」
「はい、その予定ですが、ルイーゼ様がずっと酒場の娘でいたいということであれば、そのまま続けていただいて構いません。最初にこの職業を選択したのは、ルイーゼ様から素早く貴族の色を落とせると考えたからです」
「そんなに私は貴族っぽいのかしら?」
「ルイーゼ様に限らず、貴族の方の言葉遣い、アクセント、単語、姿勢、立ち振る舞いなど、貴族であることがバレバレです。その重いものを持ったことのないきれいな手も貴族のものです」
私と同じアクセントで話すこの二人も貴族出身なのだろうか。
そう思っていたら、料理が出て来た。私が見たこともない料理ばかりだった。
アンリが料理の説明をしてくれた。はっきり言ってあまり美味しくはなかった。
「ルイーゼ様にはこういった料理も含めて、庶民の常識も身につけて頂きます。貴族をやめるということではないです。お望みであれば、王になることすらできます。最終的にどんな職業につくにしても、人の99%が庶民です。庶民の生活を知っておいて損はございません」
そうか、貴族の生活をしていると庶民のことをすっかり忘れてしまうが、国を支えているのは彼らだとお父様がおしゃってたっけ。
「今後、我々から色々な職業をご紹介させて頂きますが、選択されるのはルイーゼ様です。『職業選択の自由』です」
「職業選択の自由……」
両親が敷いたレールの上を進むことしか知らなかったルイーゼにとって、全く想像の出来ない未来が広がった。
アンリとはかなり打ち解けたが、リンクとはほとんど話をしていない。
私からリンクに話しかけた。
「『逃がし屋』はアンリとお二人でやられているのですか」
リンクは私よりも明らかに年上と思われるため、敬語で話した。
「いいえ、巨大な組織で、他にも仲間は沢山いますが、ルイーゼ様に直接接触するのは私とアンリの二人です」
「私以外の他の方の逃走の手助けもされているのですか」
「ええ。ただ私たち二人はルイーゼ様専属です」
このリンクという男は、見れば見るほど綺麗な顔をしている。アルバート皇太子も端正な顔立ちだったが、顔だけ見れば、圧倒的にリンクに軍配が上がる。
アルバートのことを思い出してしまった。でも、婚約者選定のときは、もう少し誠実な感じがした。まさかあのような性癖の持ち主だとは、想像も出来なかった。
「アルバート皇太子のことを思い出しておられますか? 我々の調査によると、あの男は最悪です。現時点で隠し子が八人います。隠し妻は二十八人です。今日お会いになったお二人は、ルイーゼ様には伝えられていないようですが、正式に認められている側室です」
全く知らなかった。私はそんな男に嫁ぐところだったのか。
「両親は知っていたのでしょうか」
「ええ、間違いなくご存知でした。知らなかったのはルイーゼ様だけかと思います」
両親はやはり権力欲に取り憑かれてしまったようだ。
「その依頼主というのは絶対に明かせないのでしょうか」
「はい、この商売には守秘義務というのがございまして。ただ、一つ伝言がございます。逃亡の依頼をしたことについては、恩に感じる必要はまったくないそうです。私共を存分にお使い下さいませ」
とりあえず依頼主の正体については、しばらく置いておくしかないか。
「わかりました。それで、酒場の娘から始める、ということは、この先、別の職業にもつくということかしら?」
「はい、その予定ですが、ルイーゼ様がずっと酒場の娘でいたいということであれば、そのまま続けていただいて構いません。最初にこの職業を選択したのは、ルイーゼ様から素早く貴族の色を落とせると考えたからです」
「そんなに私は貴族っぽいのかしら?」
「ルイーゼ様に限らず、貴族の方の言葉遣い、アクセント、単語、姿勢、立ち振る舞いなど、貴族であることがバレバレです。その重いものを持ったことのないきれいな手も貴族のものです」
私と同じアクセントで話すこの二人も貴族出身なのだろうか。
そう思っていたら、料理が出て来た。私が見たこともない料理ばかりだった。
アンリが料理の説明をしてくれた。はっきり言ってあまり美味しくはなかった。
「ルイーゼ様にはこういった料理も含めて、庶民の常識も身につけて頂きます。貴族をやめるということではないです。お望みであれば、王になることすらできます。最終的にどんな職業につくにしても、人の99%が庶民です。庶民の生活を知っておいて損はございません」
そうか、貴族の生活をしていると庶民のことをすっかり忘れてしまうが、国を支えているのは彼らだとお父様がおしゃってたっけ。
「今後、我々から色々な職業をご紹介させて頂きますが、選択されるのはルイーゼ様です。『職業選択の自由』です」
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両親が敷いたレールの上を進むことしか知らなかったルイーゼにとって、全く想像の出来ない未来が広がった。
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