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婚約の報告

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 マリアンヌは王都郊外の王墓に来ていた。

 婚約の報告を歴代の王の祖先にする王家の習わしに従うためだ。

 マリアンヌが衛兵に案内されて霊廟に入っていくと、先にシクススが来ており、二人はダンス以来の対面を果たした。

 先に話しかけたのはシクススの方だった。

「マリアンヌ嬢、婚約できて嬉しく思います」

「殿下、私も夢のようです」

「僕の噂はあまり良くない筈です。まさかあなたの方から働きかけてくれて、僕の方こそ夢のようです」

「噂など信じないです。ダンスのときに殿下のお人柄は分かりました。優しく暖かいお方だと」

「僕の方こそ、勤勉で家族想いのあなたのお人柄をダンスをしていてひしひしと感じました。神様が理想の女性にめぐりあわせてくれたのだと、運命に感謝しました」

「私も運命と思いました。ただ、その後、私と目も合わせて頂けなくて、随分と心配致しました。何か私に至らぬ点があったのかと」

「申し訳ございませんでした。母から反応しないようにと厳しく言われてもおりまして。そうした方が愛が深まると言うのです」

「まあ、王妃様の思惑通りですわ。とにかくお話ししたくて、殿下への思いは募る一方でしたわ」

「実は私もです。気がつけば、あなたのことばかりを考えておりました。こうして同じ空間にいるだけで、とろけそうな気分です」

 その場にいる全員がとろけてしまいそうな会話だった。

***

 俺はマリアンヌを送り届けた後、墓の入り口に停められた馬車の中でマリアンヌを待っていた。

 馬車には俺一人だったので、女神様に話しかけた。

「あの王子、聡明で野心家と評されていますが、妹のことは大切にしてくれるんですかね?」

(あの王子は心優しくて、マリアンヌが大好きみたいよ)

「マジっすか」

(あっ)

「どうしました」

(誰か怪我をしたわっ。ああっ、怪我人が増えて行く。何かあったわよ!)

「え?」

(急いで、誰か死んだわ)

 俺は馬車を飛び出して、無我夢中で霊廟に飛び込んだ。

 中に入ってみると、衛兵同士で争ったらしく、数人が倒れていた。

「マリはっ」

 俺は急いでマリアンヌの姿を探した。

「あっ、ロンメルク殿、突然衛兵が襲って来て、マリアンヌ嬢が僕を庇って大怪我をっ」

 シクススがぐったりしたマリアンヌを抱えて、泣きそうな顔をしていた。

 死亡したのは襲って来た衛兵のようだ。残っている衛兵は命には別状はないようで、マリアンヌの方を心配そうに見ている。

 俺はすぐにマリアンヌの手を取った。冷たい。手が信じられないぐらいに冷たい。

「女神様、マリが、女神様、助けて下さいっ」

 俺は女神様に必死になって頼み込んだ。シクススは俺が気が触れたと思ったらしく、しっかりして下さいと叫んでいる。

「うるさいっ。マリアンヌは俺が絶対に助ける。お前は黙って、マリアンヌを安静に保っておけ。女神様っ」

(分かっているわよ。まだ死んでないわよ。とりあえず、止血したわ。あなたの血も送っている。でも、このままではダメだわ。エリクサーを作るわよ)

「エリクサー?」

(説明している時間はないわ。あなたの精巣に女神の涙を充当したわ。出して)

「え? 精巣? 出す? ここでですか? マリが死にかけていて、クソ王子の見ている前で!?」

(エリクサーには強力な生命力が必要で、精子が一番いいのよ。私が手伝うから早く出しなさい)

「ええい、ままよ」

 いきなりパンツを脱ぎ出した俺を見て、シクススがあんぐりとしているが、知ったことか。

 でも、女神様が手伝うって、脳内でおっぱいでも見せてくれるのだろうか。

(こらっ、誰がゴシゴシしろって言った。このアホが。ハンカチでそれを包みなさい。私が出してあげるから)

 俺は慌ててハンカチでものを包んだ。

 どうやって出すのかと思っていたら、金色の液体が勝手にどろりと出てきた。手伝うってこういうことか。違う想像をしていた。

(エリクサーよ)

「まさかこれをマリに飲ませるんですか?」

(あなた変態? それを妹さんの傷口に塗るのよ)

 俺はハンカチの液体をマリアンヌに塗ろうとした。するとシクススが首を懸命に振ってダメだと抵抗し始めた。

 気持ちはすごくわかるので、俺はハンカチの中身を見せた。目を背けそうになったシクススだが、光り輝く金色の液体に気付いた。目を見開いて驚いている。

 こいつ、こんなときもイケメンだな。

「これはエリクサーという特効薬だ。出て来たところがアレだが、時間がない。これをマリに塗れば助かるんだっ」

 シクススはマリアンヌとエリクサーを交互に見て、抵抗をやめた。

 俺はマリアンヌの上着をめくった。真っ白い肌とドス黒い傷口が現れた。

 俺はすぐに傷口にハンカチを当てた。

 マリアンヌの顔色が徐々に良くなって行き、呼吸もゆっくりと安定して来た。

(大丈夫よ。助かるわ。危なかったわね)

「はあ、助かったあ。危なかった…」

 俺は力が抜けて、その場でへたり込んでしまった。
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