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プレゼント

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 翌朝、約束通り、町の宝石店にブランが連れて行ってくれた。

 フレグランスの面々は宿屋で待機だ。

「シーファ様の白銀の髪と瞳には、白銀に輝く真珠がお似合いだと思うのです。大粒のものはもう少し私が出世してからということで、今日はこちらのイヤリングをプレゼントさせて下さい」

 いつの間に用意したのだろう。

 真珠のイヤリングを店の奥から店員が持って来た。

「素敵……」

 上品で美しい真珠が白金の台座にのっている。

 私は一目で気に入った。

「ありがとう、ブラン。大切にするわ」

 私はすぐにイヤリングを耳につけて鏡を見ながら、満面の笑みを浮かべた。

 同じ鏡にブランの優しげな眼差しが写っていた。

 忙しくてあまりじっと見る機会がなかったが、本当に十六歳の頃の私の顔だ。

 ふと思ってしまった。

 ブランは四十歳の私を見ても、同じようにプレゼントをしてくれただろうか。

 急に暗い気持ちになってしまったが、せっかくのプレゼントが台無しにならないよう私は明るく振る舞った。

 だが、ブランには気づかれてしまったようだ。

「どうかなされましたか? お気に召しませんでしたでしょうか……」

「ううん、そんなことないわ。素敵なプレゼントよ。ただ、今日で護衛が終わってしまって、あなたともフレグランスの皆さんともお別れだと思うと、寂しくなってしまって……」

 それも本当の気持ちだった。

「またすぐにいつでも会えます。お約束します」

 ブランは力強く答えた。

 私は真珠のイヤリングをつけたまま、宿屋に戻ってから、帝都に向けて出発した。

***

 馬車でニーナがイアリングをチラチラと見ている。

「どうしたの、ニーナ。このイヤリングに何かあるの?」

「ブランには私が話したことは黙っていていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

「よろしくてよ」

「ブランはその真珠のイヤリングをずっと大切に宝石店に預けていたのです」

「そうなの?」

「はい。これまで私たちは何名もの貴婦人の送迎を行なって来ました。ブランが料理人として私たちに随行するようになったのは、先日申しました通り、一年ぐらい前からですが、それ以前はリンガと帝都を往復するエージェントをしておりました」

「ブランって何者なの?」

「すいません。それは申し上げられないのですが、私たちのような貴人警護の冒険者チームの総元締めです」

「え? 十八歳で!?」

「その、ブランのお父上が非常に力を持ったお方で、ブランは十五歳のとのときから総元締めの任務に就いています」

「なんとなく正体が分かってきたけど、黙っておくわ。イヤリングの話に戻しましょう」

「ブランは幼少の頃から王国の王妃様に憧れてました。絵を見て一目惚れしたそうです」

「あの王国中に出回っている絵画かしら?」

「いいえ、帝国にも何故か王妃様の若かりし頃の絵画があり、王妃様は帝国の貴族出身という噂もあるのです。ブランはそちらの絵を見たそうです」

 それ、間違いなく私ね……。

「王様が第二夫人を迎えると知ると、酷く心を痛めまして、いつか俺が助けるとか言っちゃって、ボス、頭大丈夫かな、と思ってました。ところが、先日、王妃様がお亡くなりになられて、それはもう憔悴してました」

「そんなとき、王妃そっくりの私が現れたってこと?」

「はい、ただ男性でしたので。ブランは弟のように可愛いがりたいって言ってましたが、正直、ちょっとキモいって思ってました」

 ニーナって結構ズバズバ言うのね。

「でも、私が女だったと」

「はい。ブランはシーファ様の前では平然を装ってますが、天地がひっくり返ったほどの大騒ぎでしたよ。王妃様の生まれ変わりだとはしゃぎ回って、頭おかしくなっちゃったのかと心配しました」

「そ、そうなのね……」

「そもそもブランが貴人送迎の総元締めをしているのは、ブランの頭の中では王妃様は帝国出身で、いつか王妃様が帝国に秘密裏に帰国されると信じていたからなんです」

「そこまで行くと、すごいとしか言いようがないわね」

 実際、そうなっているのもすごいけど。

「はい。そのときにプレゼントするんだって言っていたのが、そのイヤリングです」

「やっと話がイヤリングに辿り着いたわね」

 思ったよりも重い思いが込められたイヤリングなのね。
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