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リンガでのディナー

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 お昼は山頂で取る予定だったが、山賊の追撃の危険性があるため、昼食は携帯食を食べながら移動して、リンガの街まで急ぐことにした。

「シーファ様のおっしゃる通りでした。警戒はしてはいたのですが、人数が想像以上に多かったです」

「どれぐらいいたの?」

「十五、六人だと思います。しかも、かなりの手練で、苦戦しました。アンを助けて頂き、ありがとうございます。ブランからアンを守るよう指示を受けていたのですが、数人に囲まれてしまって、助けに行けませんでした。本当に助かりました」

「私はただ隠れていただけだから、ガガの手柄よ」

「ガガはシーファ様に蹴飛ばされたと言ってました」

「おほほほ、ガガったら、何か勘違いしているのよ」

「そうですね。勘違いでしょう。リンガに入ったら、私たちは冒険者組合に山賊発見の報告をしますので、シーファ様は宿でブランと食事をしながら、お待ちください」

「え? ブランと?」

「はい。報告にはフレグランス全員で行く必要があるんです。その間、シーファ様の警護はブランが行います」

***

 私たちは夕刻にリンガの宿に到着した。

 部屋割りはテントと同じだが、フレグランスの面々は、体を拭いて、着替えをした後、すぐに冒険者組合に出かけていった。

 私はブランと宿屋のレストランで待ち合わせた。

 宿屋はリンガで一番の高級宿で、レストランのドレスコードもそれなりに厳しかったため、私がドレスを着てレストランに入って行くと、正装に身を固めたブランが入り口で待っていて、私をエスコートしてくれた。

 私は思い出した。

 ブランが誰かに似ていると思ったら、帝国の皇帝サウザーに似ているのだ。

 私は若い頃にサウザーと面識があり、当時の彼の強引で積極的なアプローチに困惑した経験があった。

「ブラン、あなた、帝国の皇帝陛下に雰囲気がよく似ているわね」

「シーファ様、妙なことをおっしゃらないでください。シーファ様こそ、王国の王妃様に瓜二つですよ」

「そうね、お互い妙なことは言わないでおきましょう」

 私たちは席についた。

 ウェイターがワインリストをブランに見せている。

「シーファ様、リンガは港町で新鮮な魚介類がお勧めです。ロブスターはお好きですか?」

「ええ、お任せするわ」

「では、こちらのワインを頂きます。前菜はこちら、メインはこちらをお願いします」

 ウェイターにも丁寧に対応する彼の態度は非常に好ましかった。

「何を注文したの?」

「実はレストランのボーイに何が美味しいかを事前に聞いてまして、前菜はリンガフィッシュという小魚のマリネがいいということで、それを頼みました。メインは私のお勧めなんですが、リンガロブスターです。身が引き締まっていて、非常に美味なんです」

 ソムリエがワインを持って来た。

 白ワインをテイスティングするブランの格好が非常にサマになっている。

「ねえ、ブラン、あなた本当に十八歳なの? ワインにも詳しいみたいね」

「そんなことないです。ただ、私は本当にこのリンガロブスターが好きで、それに合うワインだけは詳しいのです。リーファ様にもきっと気に入っていただけると思います」

 ワインのエチケットを見たが、私の知らない産地のものだった。

「聞いたことのない産地だわ。あら、フルーティで飲みやすいのに、水っぽくなくて濃厚なのね。蜜のように舌に絡まってコクがあるわ」

「シーファ様、あなたこそ本当に十六歳ですか?」

「歳のことも言わないでおきましょう」

「そうですね。ありのままの二人でワインと食事を楽しみましょう」

 そう言って、ブランは私に軽くウィンクをした。

 ブランとの食事はとても楽しかった。

 彼は女性が興味を持ちそうな話題を豊富に持っていて、色々と話して聞かせてくれた。

 私は自分からはあまり話さない方なので、彼の静かで優しい話ぶりはとても心地よかった。

「明日、少し時間を作って、真珠を見に行きましょう。リンガは真珠が名産です。ささやかながら、今回のお礼に私からプレゼントさせてください」

 あ、最後だけ少し強引なのね。

「ええ、では、遠慮なく頂くわ。楽しみにしているわ」

 ウェイターがフレグランスの面々が帰って来たことをブランに伝えに来た。

「名残り惜しいですが、皆んなが帰って来たようです。今日はお時間頂き、ありがとうございました」

 そう言って、ブランは席を立ち、私を部屋までエスコートしてくれた。

 ニーナがドアを開けて、笑顔で迎えてくれる。

 ああ、人生ってこんなにも楽しいものだったのね。随分と長い間、忘れてしまっていたわ。
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