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 私の母国であるアルタリア帝国は、異民族国家の支配から二十年前に独立した。

 百年ほど前に東方から突如現れたハマーン族は、瞬く間に海の向こうの大陸諸国を支配した後、さらに海を渡って島国であるアルタリアも支配した。

 その後、アルタリアはずっと抵抗運動を続けていたが、二十年前に大陸で大きな暴動が起きた隙に乗じて、独立を勝ち取ったのだ。

 独立後に皇帝となった先帝は、二年前に病で急死されてしまったが、独立運動で中心的な役割を果たし、独立の父と呼ばれている。父は軍師として先帝を助け、独立軍を勝利に導いた。

 私は独立した年に産まれて、産まれたときから先帝の長男のジョージの婚約者になったのだが、父は私に花嫁修行をさせることはなく、軍事、外交、政治などの戦略論や戦術論を叩き込んだ。

 私も父の教えが面白くて、夢中になった。そんな私にとって、陛下は愚鈍で、物足りなかったのだ。

 父から呼び出しを受け、私は正直に話した。

「そうか、やはり陛下はアホか」

「はい、アホです」

「だからこそ、お前がついていないといけないのだが、我慢できないということか」

「お父様、アホと一緒だとものすごく疲れるのです」

「そうだろうな。分かった。後宮には戻らなくてよい」

「本当ですか!?」

「ああ、ただ、マルクスは引き続き支援してやってくれ。そうしないと、ハマーンにまた支配されてしまうぞ。私には片付けなければいけない大きな課題があってな。今はそちらに忙しいのだ」

「そうですか……」

 正直、気が重いが、後宮に戻らなくていいと父が譲歩しているのだ。これ以上のわがままは言わないでおこう。

「顧問料はもらえよ。それと、恐らくこの男が訪ねてくるだろう」

 父は私にある人物のプロファイルを渡した。私はすぐに目を通した。

「ジーク・レンブラントですか?」

「そこに書いてある通り、隣国レンブラント王国の第七王子だ」

 レンブラント王国は海を渡った対岸の国だ。未だにハマーンの支配下にあった。

「お父様、私もう結婚は……」

「誤解するな。お前からきっぱりと断ってくれ、という意味だ。どこで見初めたのか、お前が離縁されたら、是非とも妃にと毎年使者を送ってくるのだ。いくら断っても、諦めないのだ」

「そんな方がいらしたのですか」

「ああ、昨年は本人が来たぞ。もうそろそろ離縁されるはずだとな。失礼なことを言う男だと思ったが、本当にそうなった。男前で知的な感じの男だったぞ」

「はあ……」

 男は甘ったれでわがままで自分よがりで、しばらく相手したくないのよね。

「あとな、カイザー将軍のところの息子たちが、また騒がしくなると思うぞ。私からはお前の居場所は言わないでおく」

 カイザー将軍も六功臣の一人で、先帝の軍事面での懐刀だった。五人いる子供が全て息子であるためか、私を自分の娘のように可愛がっている。

 私が離縁されたと知れば、怒るよりも喜ぶだろう。そして、自分の息子の誰かの嫁にと動くに違いない。

 あの筋肉親子は人はいいのだが、とにかく暑苦しくて、私は苦手だ。

 そうか、陛下は虫除けにはなっていたのか。

 お花畑から逃げられたと思ったら、虫がいっぱいまとわりついてきそうだ。
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