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晴耕雨読
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こうなることを見込んで、私はせっせと貯金を貯め、郊外の湖畔にある小さな城を購入しておいた。使用人を数人雇ったとしても、人生五回分ぐらいの蓄えはある。夢にまで見た晴耕雨読の生活を始めるのだ。実際に耕すのは使用人たちだが。
このレイクウッド城は、跡取りのない伯爵未亡人が、皇后様に是非ともお譲りしたいとおっしゃってくれた物件で、私も一目見て気に入って、夫人から購入したものだ。執事とメイドには少し先に城に入ってもらい、城の維持管理をしてもらっていた。
城に入って、執事のセバスチャンにこれからここにずっと住むことを告げた。
「皇后を首になったのよ。これからよろしくね」
「左様でございますか。皇后様、今後は何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
セバスチャンはひょろっとして背が高く、頭の薄い壮年の男性だ。イケメン執事にしたかったのだが、能力重視で採用したらこうなった。
「フローラでいいわ」
「かしこまりました。フローラ様」
「明日の朝食はここで頂くけど、天気が良ければ、お昼は湖の近くで頂くわ」
「かしこまりました。料理長とメイド長に伝えておきます」
「よろしくね。私は温泉に入ってから休むわ」
私がこの城を気に入った理由の一つは、いつでも源泉掛け流しの温泉につかれることだ。この国は火山が多く、温泉が各所で楽しめるが、このように自宅でも自由に温泉が楽しめる物件は珍しい。
「あ~気持ちいい。やっとあのお花畑の二人から解放されたわ。極楽、極楽」
私はいつもあの二人の決めた政策の尻拭いに奔走していたのだが、これからはそんなことは考えなくていい。
実家のスタンレー家が何か言ってくるかもしれないが、皇帝の決めたことだ。私が好きで後宮を出たことにはなっていないはずだ。
(そうだ。明日は湖の絵を描いてみよう。湖のほとりで写生なんて素敵よね)
***
翌朝、目を覚ましたら、土砂降りだった……。
私は窓の外を見て、呆然としていたが、何とか気を取り直した。
「ふふふ、先は長いわ。今日は湖での写生は中止よ。その代わり、読書するわ」
朝食後、書斎に入った。ほんのりとインクの香りがする。
(いけない。どうして本の匂いを嗅ぐと、私はお花摘みに行きたくなるのかしら)
さっきからどうにもやりたいことがスムーズに出来ない。もう一度、気を取り直して、書斎に入ろうとすると、セバスチャンが私を探していたようだ。
「フローラ様、お客様がおいでです」
「え? こんな土砂降りのなか? っていうか、私がここにいることを知っているのは伯爵夫人とあなた達ぐらいよ。夫人はお亡くなりになられているし、いったいどなたが来られたの?」
「マルクス様です」
(げっ、宰相だ。さては尾行したわね)
「アポ無しのお客様にはお会いしません」
「はい、それはご承知のようで、アポを取りにこられたそうです」
「使いの方が来られたのかしら?」
「いいえ、ご本人様です」
「宰相自らアポ取りのために、この雨の中をわざわざお越しになったというの?」
「はい、そのようで。いかが致しましょうか」
「もう、仕方ないわね。会うわよ。応接室に通してくれる?」
「はい、すでにお通ししました」
「セバスチャン、これからは私の許可なく応接室に誰も通さないでね」
「申し訳ございません。以後、気をつけます」
もう、セバスチャンに当たってどうするのよ。ああ、会いたくないなあ。
このレイクウッド城は、跡取りのない伯爵未亡人が、皇后様に是非ともお譲りしたいとおっしゃってくれた物件で、私も一目見て気に入って、夫人から購入したものだ。執事とメイドには少し先に城に入ってもらい、城の維持管理をしてもらっていた。
城に入って、執事のセバスチャンにこれからここにずっと住むことを告げた。
「皇后を首になったのよ。これからよろしくね」
「左様でございますか。皇后様、今後は何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
セバスチャンはひょろっとして背が高く、頭の薄い壮年の男性だ。イケメン執事にしたかったのだが、能力重視で採用したらこうなった。
「フローラでいいわ」
「かしこまりました。フローラ様」
「明日の朝食はここで頂くけど、天気が良ければ、お昼は湖の近くで頂くわ」
「かしこまりました。料理長とメイド長に伝えておきます」
「よろしくね。私は温泉に入ってから休むわ」
私がこの城を気に入った理由の一つは、いつでも源泉掛け流しの温泉につかれることだ。この国は火山が多く、温泉が各所で楽しめるが、このように自宅でも自由に温泉が楽しめる物件は珍しい。
「あ~気持ちいい。やっとあのお花畑の二人から解放されたわ。極楽、極楽」
私はいつもあの二人の決めた政策の尻拭いに奔走していたのだが、これからはそんなことは考えなくていい。
実家のスタンレー家が何か言ってくるかもしれないが、皇帝の決めたことだ。私が好きで後宮を出たことにはなっていないはずだ。
(そうだ。明日は湖の絵を描いてみよう。湖のほとりで写生なんて素敵よね)
***
翌朝、目を覚ましたら、土砂降りだった……。
私は窓の外を見て、呆然としていたが、何とか気を取り直した。
「ふふふ、先は長いわ。今日は湖での写生は中止よ。その代わり、読書するわ」
朝食後、書斎に入った。ほんのりとインクの香りがする。
(いけない。どうして本の匂いを嗅ぐと、私はお花摘みに行きたくなるのかしら)
さっきからどうにもやりたいことがスムーズに出来ない。もう一度、気を取り直して、書斎に入ろうとすると、セバスチャンが私を探していたようだ。
「フローラ様、お客様がおいでです」
「え? こんな土砂降りのなか? っていうか、私がここにいることを知っているのは伯爵夫人とあなた達ぐらいよ。夫人はお亡くなりになられているし、いったいどなたが来られたの?」
「マルクス様です」
(げっ、宰相だ。さては尾行したわね)
「アポ無しのお客様にはお会いしません」
「はい、それはご承知のようで、アポを取りにこられたそうです」
「使いの方が来られたのかしら?」
「いいえ、ご本人様です」
「宰相自らアポ取りのために、この雨の中をわざわざお越しになったというの?」
「はい、そのようで。いかが致しましょうか」
「もう、仕方ないわね。会うわよ。応接室に通してくれる?」
「はい、すでにお通ししました」
「セバスチャン、これからは私の許可なく応接室に誰も通さないでね」
「申し訳ございません。以後、気をつけます」
もう、セバスチャンに当たってどうするのよ。ああ、会いたくないなあ。
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