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肩をチェックしてます

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 あの日から、ルークが私に対して腫れ物に触るような態度になってしまった。あれは失態だった。今考えても、顔から火が出るかと思うぐらい恥ずかしい。

「あの、ルークさん。先日は取り乱してしまいましたが、もう大丈夫です。今まで通りに接して頂けますか?」

 私は思い切って言ってみた。

「はい。でも、特に僕はエリーゼ様への接し方を変えていないつもりですが……」

 だめだ。やはり自然に元通りになるのを待とう。と思って、もう二週間だが。

 ルカは陛下の秘書官の補佐という形で、毎日陛下と一緒にいるようになり、日々陛下に惹かれていっているのが分かる。このまま行けば、プロポーズを受けるに違いない。

 一方の私はルークとはぎこちない感じがする。

(扱いの難しい面倒な女と思われていたらどうしようか)

 私は最近はルークに自分のことをよく思って欲しいと焦ってしまうようになっていた。もう自分で自分の気持ちに気づいている。私はルークを好きになっていた。

 今日はローズとカレンと一緒に、帝都郊外の農家への養蚕技術のフォローに向かっていた。それぞれの担当農家が百件ほどあり、週に一、二回のペースで見回っているのだ。

 馬車の中で私は我慢出来ず、ローズとカレンに苦しい胸の内を吐露した。

「私、ルークさんを好きになってしまったみたいなの」

 意を決して告白した私に対して、ローズが呆れた顔でため息をついた。

「はあ、何を今更って感じです。最初から全開で好きだったじゃないですか」

「そうですよ、気づいていないのはエリーゼさんだけですよ」

 カレンも追随した。

「え? そうなの? ルークさんは私の気持ちに気づいているのかしら?」

「あ、訂正します。気づいていないのは、エリーゼさんとルークさんだけです」

 私はホッとした。

「それはよかった。気づかれたら、嫌われてしまうわ。最近、ルークさんが私が傷つくのを過剰に恐れているようで、何だかぎこちないのよ」

 だが、ローズは首をかしげている。

「そうですか? 単にエリーゼさんに優しいだけだと思いますよ。確かにあのとき以来、さらに輪をかけて優しくなっていますね。ルークさんって、エリーゼさんにだけに優しくて、ほかの女性には割とぶっきらぼうなんです」

 この発言に私は驚いた。

「え? ルカやあなたたちにも?」

「私たちには親切です。でも、会社の女性にはかなり事務的な態度ですよ。丁寧ですが、隙がないというか、寄せ付けない感じです。キャサリンさんはルークさんのことが絶対に好きだと思うのですが、例えば、この前、ルークさんの肩に糸くずがついていたんです」

 私も見ていたとカレンがローズの話に割って入った。

「ああ、あの件ね。私もびっくりしました。キャサリンさんが糸くずを取ろうとすると、スッとかわして、指摘するだけでいい、俺に触る必要はない、って言うんですよ。結構冷たい感じで、私、驚いちゃいました」

「キャサリンさん、泣きそうでしたよ。でも、ルークさんはキャサリンさんを全くフォローしないんです。仕事の失敗とかは親身になって相談してくれるのに、あのときは全く知らんぷりです。何ていうか、俺を好きになるなオーラを常に出しています」

 私の知らないルークだった。ルークは全ての女性に優しく接していると思っていた。

「私もいずれそうなるのかしら……。ひょっとして、ルークさんは私の気持ちに気づいて、どう対応するのか迷っておられるのかしら」

「そんなことはないと思いますよ。ルークさんは、エリーゼさんには俺を好きになってくれオーラダダ漏れです。気づきませんか?」

 ローズがどうして気づかないのかという顔だ。

「気づかないわ。というか、あなたの錯覚よ、ローズ」

「そんなことないですよ、ね、カレン」

「はい、ルークさんはエリーゼさんのことを好きですよ。王妃様も二人とも好き合っているのにねえ、と話されてましたよ」

 そうだ。私は人の恋愛には嗅覚が効くのだが、自分となるとさっぱりだ。エカテリーナのときから、男性は私をチヤホヤしてきたので、好意なのか、何か魂胆があるのか、見極められなかった。

 ルークからの好意を感じないわけではないが、ビジネスパートナーなので、仕事の利益のために好意をみせているのだと思ってしまう。

 私が糸くずを取ろうとしたら、どんな反応を示すのか。一度でいいから試してみたい。

 この日のローズとカレンとの会話以来、ルークの肩に糸くずがついていないかどうか、常にチェックするようになったのだが、そんな都合よくついている訳がない。

「あの、ローズ様、僕の肩がどうかしましたか? 最近よく僕の肩を見られてますが、何か変なところがありますか?」

「ああ、すいません。何でもないです。すいません」

「ああっ、そんなに謝らないで下さい。見られて嬉しいです。どうぞお好きなだけご覧になって下さい」

 そんな私たちのやり取りを見て、ローズとカレンがアホかというような目を私たちに向けていた。
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