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屋敷に着きました

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 ルークの屋敷の門のエンブレムを見たとき、ルークの正体が分かった。

「ルカ、あれは帝国の皇室のエンブレムよね」

「まあ、本当ね。黒髪黒目の王子っていたかしら」

 何度か王室と皇室とは交流があったが、皇帝も皇后もかなりお年を召しておられて、髪の毛はグレーだった。皇太子はジョージと同じぐらいの年齢で、かなりの美男子だったが、髪も目の色も茶色だった。

 そう言えば、昨年、あの皇太子が皇位についたはずだ。

「お父様のご友人って、先の皇帝陛下なのかしら。ってことは、今の皇帝陛下とルカを婚約させようとしていたの?」

「ちょっと他人みたいに言わないでよ。あなたもでしょう」

「やめましょう。推測は意味ないわ。皇室といっても、色々だから、早とちりしないで、後でルークさんに聞きましょう」

 馬車から降りて、私は早速、ルークに門のエンブレムのことを聞いた。

「よく皇室のものとお分かりになりましたね。帝国でも一部の貴族しか知らないのですよ。身分を明かします。私は現皇帝の弟です」

「アードレー伯爵のご友人というのは、先の皇帝陛下なのですね」

「そうです」

「あの、ルークさん、大事なお話があります。ルカのことです」

「ちょっとエリーゼ!」

 私がルークと話している途中で、ルカに背中を引っ張られた。

 私とルカはルークから少し離れて、ヒソヒソ話を始めた。

「何よ」

「何よ、じゃないわよ。私の正体をバラす気?」

「帝国だからいいじゃない。皇帝陛下が守ってくれる気がするのよ」

「ご迷惑よ」

「そんなことないと思うよ。あの絵を部屋に飾っているぐらいだもの。皇帝陛下はしかも独身なのよ」

「そうだけど、私は人の妻だったのよ。汚れすぎているわ。もう恋愛してはいけないの」

「汚れってのはない。絶対にね。あと人妻って響き、私の前世では、むしろそっちが好きって人が結構いるのよ。逆に燃えるらしいのよ。気にすることないわ」

「異世界の話をされても……」

「世界が違っても、人の心は同じよ。ルカ、失うものなど何もないでしょう。未来を切り開くのよ。お父様とお母様にも喜んでもらおうよ」

「でも、今はやめて。そんなに簡単に心の整理がつかないの」

「……分かったわよ」

 私たちの話が終わったと見て、ルークが声をかけて来た

「エリーゼ様、ルカ様、ひとまず屋敷にお入り下さい。中でお話をお伺いします」

 私たちはルークに案内されて、本館の居間に通された。執事の方もいらっしゃるのだが、ルークが一人で何でもやってしまう。だが、執事の方は慣れた様子で、ルークに付き従っている。

 案内された部屋は控えめで品のある装飾の素敵な部屋だった。

「ルーク様、ウェルカムドリンクはどういたしましょうか」

「フルーツジュースを用意してくれないか」

「かしこまりました」

 そう言って、執事の方は退室された。

「素敵なお部屋ですね」

 私は素直な感想を述べた。

「ありがとうございます。ここは皇太子用の邸宅なのです。兄は想い人が亡くなってしまって、独身を貫くつもりで、僕を皇太子にする気なんですよ」

「想い人って……」

「エカテリーナさんです」

(会ってもいない人妻に一途過ぎる……。大丈夫? って思ってしまうぐらい)

 私が少し引いているのを感じたのであろう。ルークが一生懸命に自分の兄をフォローして来た。

「何度か諦めようとしたらしいのですが、そう思うたびに、王室との交流でお会いしてしまうのです。いけないとは思いつつも、恋慕は増して行くばかりでして。恋心はあの優秀な兄をしても、どうにもコントロール出来ないようなのです」

 そうだった。会っていないなんてことはなかった。言葉も何回か交わしている。交流会は毎年あり、お互い交互に訪問し合って来た。今年は彼が王国に行き、ルカではなく、マリアンヌに会うことになっているはずだ。

 私はルカの方を見た。目を伏せて、唇をギュッと引き締めている。両手は膝の上で力強く握っていて、何かを必死になって耐えている。

(自分なのに、今のルカの気持ちが分からない……)

 私だったら、こんなに自分を好きに思ってくれていることに感動する。と、そこまで考えて、なぜ自分は感動しないのか、とふと思った。

 ルークの兄は言ってみれば、私のことも好きだったのだが、全くそうは感じないのだ。ルークの兄はルカが好きなのだ。だって、私の人格はもうエカテリーナではない。完全にエリーゼになっている。容姿も違う。

「ルカ、大丈夫?」

「うん」

「これは失礼しました。長旅でお疲れですよね。すぐにお部屋にご案内します」

「大丈夫です。フルーツジュースを頂きますわ」

 ルカが決心したようにそう答えた。
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