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両親が来た

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 商店区の「侍女の店」の建物は三階建てで、一階が店舗と事務所、二階が修理工房、三階が住居で、私とルカの二人で住んでいる。

 私は朝、後宮の製糸工場に行き、夜、三階の住居に戻ってくる生活だ。

 ルカは日中は仮面をつけて、二階で喋りながら作業しているおばさんたちと一緒にいることが多いらしい。二階からは一階の店舗の様子も見られるようになっていて、客の動きもよく見ているようだ。

「侍女の店」が好評なため、二号店の出店を二人で検討していたのだが、小物はやめて、カフェを出店することにした。後宮のお茶と料理とスイーツを味わえるというのがコンセプトだ。

 小物の顧客がカフェでもお金を使うだろうとの目論見だったのだが、商店区の買い物客が必ず寄って行くほどの大繁盛となった。ここでもスタッフは後宮のOGたちだ。

 私は日本料理の研究もしたかったので、工場が休みの日には、ルカと一緒によくカフェの厨房に行き、料理人のおばさんたちとあれこれ作って食べるのが、楽しみの一つとなっていた。

 そんなある日、工場から家に帰ったら、セバスチャンが今日、店に来たとルカから報告があった。

「要件は何だったの?」

「カレンが手紙を受け取ったのよ。あなた宛だから開いてないわよ」

 私はルカから手紙を受け取り、中を確認した。

「うひゃっ」

 私は驚きのあまり手紙を放り投げてしまった。

「どうしたの?」

「お父様が商談をしたいって……」

「お父様が!?」

「まさかお父様が出てくるとは」

「アードレーのお家に行くの?」

「こっちに来たいみたい」

「え? ダメよ。お父様には仮面を被っていても見破られちゃうわ」

「ルカを出せとは言わないと思うわ。共同経営者だってことは、知らないはずだもの。三階にいれば大丈夫よ。まさかプライベート空間までは来ないわよ」

「一階の事務所でお願いね」

「ふう、緊張するなあ。でも、この間、万年筆を渡したときは、優しい感じで驚いたけど」

「商売のときのお父様が怖いのよ、知っているでしょう」

「うん。しかし、何の商談なのかなあ」

 お父様との会合は一週間後に店舗奥の事務室で行われた。

 お父様は何とお母様と一緒にセバスチャンを随行して現れた。お母様を連れて来た理由はすぐにわかった。「侍女の店」の商品の目利きをさせるためだ。

 最初に店頭で軽く挨拶した後、店内を簡単に紹介して、事務所へと案内した。ルカはきっと二階からこちらを見ているに違いない。

「素敵なお店ですわね。陳列はエリーゼ様がお考えですの?」

 席について最初に口を開いたのは意外にもお母様だった。私は王妃の姉だからか、様付けで、言葉も非常に丁寧だ。父と同様厳しい母だったので、何だか調子が狂う。

「いいえ、陳列は私とは別のものが担当しています」

「そうですか。とても素晴らしい才能をお持ちですわ。スタッフの方も優秀ですのね」

「お褒め頂き恐縮です。担当も喜びましょう」

「エリーゼ様は娘の侍女をされていたこともおありですとか。娘は後宮でどんな感じでしたの?」

 まさかの質問だった。私はビジネスの話しかしないと思っていた。

「お仕えしたのは二か月ほどだったのですが、とてもよくしていただきました。優しくお淑やかで、こんな女性になりたいと憧れておりました。本当に残念な事故で、お悔やみ申し上げます。店舗の接客の女性スタッフも元王妃様の侍女です」

 自分を褒めるのはこそばゆいが、他人になって王妃を見たとき、素敵な女性だと思ったのは本当だ。

「まあ、そうですの。後でお話をお伺いしたいわ」

「ぜひ、お願いします。彼女たちも王妃様を慕っておりましたので」

 母がこんな表情をするとは意外だった。私の後宮での様子を思い浮かべて、悲しんでいる感じなのだ。

「私たちにとっては末娘でしてな。厳しく育てましたが、将来を楽しみにしていました。正直、陛下を恨みましたよ。大事な娘を信頼して預けたのに、とね」

「あなた……」

 父にもこんな話をされると、さすがに涙が出て来てしまう。

「おおっと、大事な商談の前に申し訳ない。エリーゼ様は亡き娘が紹介してくれたと思っておりまして、是非ともご一緒にビジネスをと思っております。話を聞いて頂けますかな」
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