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脱出しましたわ:王妃視点
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後宮脱出の日がやって来た。
朝早くエリーゼはお父様に誕生日プレゼントを届けに後宮を出て行った。
その後すぐに、私はローズに付き添われて、第一製糸工場へと向かった。月に数回、工場の見回りは行っているため、これ自体は特に変わったことではない。
ただ、この巡回中はずっと暗い表情でいることに気をつけた。
「王妃様、ご気分が優れないのでしょうか?」
ローズが心配して聞いて来た。
「大丈夫よ。陛下と色々あって、少し元気がないの」
そう言って、私はため息をついた。
ローズはそれ以上は詮索しないでいてくれた。
第一工場の後に第二工場に着いたが、私はローズに工場の見回りをお願いし、少し馬車で休むと伝えた。
すると、ローズが躊躇していたので、後から合流すると言って、ローズを工場に送り出した。
ローズが工場に入って行くのを確認して、私は素早く持って来た荷物を取り出し、馬車を降りた。
「少しお花摘みに行ってくるわ」
御者にそう言い残して、私は工場裏の川辺まで来て、停めてあった船に荷物を置いた。
(これでいいわ)
私は馬車に戻り、御者に声をかけた後、工場で見回り中のローズに合流した。
最後に訪れた第三製糸工場でも、同じような動きをして、私一人で工場裏の川辺まで来た。
いよいよ脱出の開始だ。
人気のないことを確認した後で、袋から救命胴衣を取り出して、身につけた。エリーゼから渡された木とコルクで作った水に浮く衣装だ。
(よくこんなものを考えつくわ。エリーゼと私は同じ頭よね?)
自殺に見せかけるため、私は靴を脱いで、川に飛び込んだ。救命胴衣のおかげで、簡単に浮くことが出来た。
(「救命胴衣」って大発明じゃない?)
そのまま川で流されること三十分、流れが緩やかになって、船が五、六隻停めてある第二工場の裏側にまで来た。先ほど荷物を置いたところだ。私は泳いで船にしがみついた。
工場が稼働中のため、外に人はいない。救命胴衣を脱ぎ捨て、下着もすべて脱ぎ捨てて、先ほど置いた荷物から着替えを取り出した。女官の服に着替えて、髪を女官風に結い直した。着ていた服は袋に入れ、石を入れて川に沈めた。
化粧をエリーゼに言われた通りにすると、すぐには王妃とは分からないぐらいにはなった。
ここまでは、順調すぎるほど順調だ。日の傾きを見ると、正午までもう少し時間がありそうだ。
私は正午出社のサーシャという女官になりすまし、荷物番をすることになっている。出来るだけ人と接する時間は短くした方がいいため、川を見ながら、少し時間を潰した。
(よし、行くわよ)
私は工場の入り口に回り、受付に当番票を提示した。
「サーシャさん? あまり見ない顔ね」
受付係が書類をチェックしながら、話しかけて来た。
「最近こちらに配属になったんです」
「そう。よろしくね。はい、どうぞ。五号車よ」
受付係が五番のハンコを押して、私に当番票を返してくれた。
「ありがとうございます」
私は受付を通り過ぎ、出荷場の方に向かった。さっき巡回に来たときに確認しているので、迷うことはない。
既に出荷準備は出来ているようだ。私は五号車の御者係の女性に当番票を提示して、彼女と一緒に積荷を確認してから荷台に乗った。すぐに馬車は出発した。
私は荷台の中で緊張していた。恐らく第三工場では、私がいなくなってしまって大騒ぎしていることだろう。
だが、私の乗った馬車は無事に後宮の門を通過して、王都の荷下ろし場に到着した。
私は荷台を降りた。王都の街並みを見るのは久しぶりだった。買取人のおじさんが近づいて来た。
「お、べっぴんさんだな。レイモンド商会だ。商品を確認させてもらうぜ」
レイモンド商会はアードレーの系列だが、私の顔は知らないだろう。
「はい、どうぞ」
三人の若い男の子が積荷をチェックしながら、彼らの馬車に乗せ替えて行く。チラチラと私の方を見るのは、恥ずかしいからやめて欲しい。
「大丈夫だ。いい品だ。これからも頼むぜ。で、どれにサインすればいい?」
「こちらにお願いします」
私は受領書を出して、おじさんからのサインをもらった。
「ほらよ、じゃあな、べっぴんさん。おい、お前ら、行くぞ」
おじさんたちは自分たちの馬車に乗って、郊外の方に走っていった。恐らく縫製工場に向かうのだろう。
私は受領書を御者の女性に渡した。御者の彼女が私に聞いて来た。
「乗って帰る? それとも、歩いて帰る?」
「用事を言いつかっておりますので、後から歩いて帰ります」
「そう、じゃあ、気をつけて」
そう言って、彼女は後宮へと戻って行った。
荷物番はそのまま帰らなくても特にお咎めはない。私はポケットから地図を取り出し、商店区へと向かった。
まだ脱出は成功ではない。エリーゼの用意してくれた拠点に入るまでは安心できない。
(ニヤけちゃダメ。まだ、成功していないんだから)
朝早くエリーゼはお父様に誕生日プレゼントを届けに後宮を出て行った。
その後すぐに、私はローズに付き添われて、第一製糸工場へと向かった。月に数回、工場の見回りは行っているため、これ自体は特に変わったことではない。
ただ、この巡回中はずっと暗い表情でいることに気をつけた。
「王妃様、ご気分が優れないのでしょうか?」
ローズが心配して聞いて来た。
「大丈夫よ。陛下と色々あって、少し元気がないの」
そう言って、私はため息をついた。
ローズはそれ以上は詮索しないでいてくれた。
第一工場の後に第二工場に着いたが、私はローズに工場の見回りをお願いし、少し馬車で休むと伝えた。
すると、ローズが躊躇していたので、後から合流すると言って、ローズを工場に送り出した。
ローズが工場に入って行くのを確認して、私は素早く持って来た荷物を取り出し、馬車を降りた。
「少しお花摘みに行ってくるわ」
御者にそう言い残して、私は工場裏の川辺まで来て、停めてあった船に荷物を置いた。
(これでいいわ)
私は馬車に戻り、御者に声をかけた後、工場で見回り中のローズに合流した。
最後に訪れた第三製糸工場でも、同じような動きをして、私一人で工場裏の川辺まで来た。
いよいよ脱出の開始だ。
人気のないことを確認した後で、袋から救命胴衣を取り出して、身につけた。エリーゼから渡された木とコルクで作った水に浮く衣装だ。
(よくこんなものを考えつくわ。エリーゼと私は同じ頭よね?)
自殺に見せかけるため、私は靴を脱いで、川に飛び込んだ。救命胴衣のおかげで、簡単に浮くことが出来た。
(「救命胴衣」って大発明じゃない?)
そのまま川で流されること三十分、流れが緩やかになって、船が五、六隻停めてある第二工場の裏側にまで来た。先ほど荷物を置いたところだ。私は泳いで船にしがみついた。
工場が稼働中のため、外に人はいない。救命胴衣を脱ぎ捨て、下着もすべて脱ぎ捨てて、先ほど置いた荷物から着替えを取り出した。女官の服に着替えて、髪を女官風に結い直した。着ていた服は袋に入れ、石を入れて川に沈めた。
化粧をエリーゼに言われた通りにすると、すぐには王妃とは分からないぐらいにはなった。
ここまでは、順調すぎるほど順調だ。日の傾きを見ると、正午までもう少し時間がありそうだ。
私は正午出社のサーシャという女官になりすまし、荷物番をすることになっている。出来るだけ人と接する時間は短くした方がいいため、川を見ながら、少し時間を潰した。
(よし、行くわよ)
私は工場の入り口に回り、受付に当番票を提示した。
「サーシャさん? あまり見ない顔ね」
受付係が書類をチェックしながら、話しかけて来た。
「最近こちらに配属になったんです」
「そう。よろしくね。はい、どうぞ。五号車よ」
受付係が五番のハンコを押して、私に当番票を返してくれた。
「ありがとうございます」
私は受付を通り過ぎ、出荷場の方に向かった。さっき巡回に来たときに確認しているので、迷うことはない。
既に出荷準備は出来ているようだ。私は五号車の御者係の女性に当番票を提示して、彼女と一緒に積荷を確認してから荷台に乗った。すぐに馬車は出発した。
私は荷台の中で緊張していた。恐らく第三工場では、私がいなくなってしまって大騒ぎしていることだろう。
だが、私の乗った馬車は無事に後宮の門を通過して、王都の荷下ろし場に到着した。
私は荷台を降りた。王都の街並みを見るのは久しぶりだった。買取人のおじさんが近づいて来た。
「お、べっぴんさんだな。レイモンド商会だ。商品を確認させてもらうぜ」
レイモンド商会はアードレーの系列だが、私の顔は知らないだろう。
「はい、どうぞ」
三人の若い男の子が積荷をチェックしながら、彼らの馬車に乗せ替えて行く。チラチラと私の方を見るのは、恥ずかしいからやめて欲しい。
「大丈夫だ。いい品だ。これからも頼むぜ。で、どれにサインすればいい?」
「こちらにお願いします」
私は受領書を出して、おじさんからのサインをもらった。
「ほらよ、じゃあな、べっぴんさん。おい、お前ら、行くぞ」
おじさんたちは自分たちの馬車に乗って、郊外の方に走っていった。恐らく縫製工場に向かうのだろう。
私は受領書を御者の女性に渡した。御者の彼女が私に聞いて来た。
「乗って帰る? それとも、歩いて帰る?」
「用事を言いつかっておりますので、後から歩いて帰ります」
「そう、じゃあ、気をつけて」
そう言って、彼女は後宮へと戻って行った。
荷物番はそのまま帰らなくても特にお咎めはない。私はポケットから地図を取り出し、商店区へと向かった。
まだ脱出は成功ではない。エリーゼの用意してくれた拠点に入るまでは安心できない。
(ニヤけちゃダメ。まだ、成功していないんだから)
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