死罪の王妃は侍女にタイムリープしました

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
11 / 41

脱出しましたわ:王妃視点

しおりを挟む
 後宮脱出の日がやって来た。

 朝早くエリーゼはお父様に誕生日プレゼントを届けに後宮を出て行った。

 その後すぐに、私はローズに付き添われて、第一製糸工場へと向かった。月に数回、工場の見回りは行っているため、これ自体は特に変わったことではない。

 ただ、この巡回中はずっと暗い表情でいることに気をつけた。

「王妃様、ご気分が優れないのでしょうか?」

 ローズが心配して聞いて来た。

「大丈夫よ。陛下と色々あって、少し元気がないの」

 そう言って、私はため息をついた。

 ローズはそれ以上は詮索しないでいてくれた。

 第一工場の後に第二工場に着いたが、私はローズに工場の見回りをお願いし、少し馬車で休むと伝えた。

 すると、ローズが躊躇していたので、後から合流すると言って、ローズを工場に送り出した。

 ローズが工場に入って行くのを確認して、私は素早く持って来た荷物を取り出し、馬車を降りた。

「少しお花摘みに行ってくるわ」

 御者にそう言い残して、私は工場裏の川辺まで来て、停めてあった船に荷物を置いた。

(これでいいわ)

 私は馬車に戻り、御者に声をかけた後、工場で見回り中のローズに合流した。

 最後に訪れた第三製糸工場でも、同じような動きをして、私一人で工場裏の川辺まで来た。

 いよいよ脱出の開始だ。

 人気ひとけのないことを確認した後で、袋から救命胴衣を取り出して、身につけた。エリーゼから渡された木とコルクで作った水に浮く衣装だ。

(よくこんなものを考えつくわ。エリーゼと私は同じ頭よね?)

 自殺に見せかけるため、私は靴を脱いで、川に飛び込んだ。救命胴衣のおかげで、簡単に浮くことが出来た。

(「救命胴衣」って大発明じゃない?)

 そのまま川で流されること三十分、流れが緩やかになって、船が五、六隻停めてある第二工場の裏側にまで来た。先ほど荷物を置いたところだ。私は泳いで船にしがみついた。

 工場が稼働中のため、外に人はいない。救命胴衣を脱ぎ捨て、下着もすべて脱ぎ捨てて、先ほど置いた荷物から着替えを取り出した。女官の服に着替えて、髪を女官風に結い直した。着ていた服は袋に入れ、石を入れて川に沈めた。

 化粧をエリーゼに言われた通りにすると、すぐには王妃とは分からないぐらいにはなった。

 ここまでは、順調すぎるほど順調だ。日の傾きを見ると、正午までもう少し時間がありそうだ。

 私は正午出社のサーシャという女官になりすまし、荷物番をすることになっている。出来るだけ人と接する時間は短くした方がいいため、川を見ながら、少し時間を潰した。

(よし、行くわよ)

 私は工場の入り口に回り、受付に当番票を提示した。

「サーシャさん? あまり見ない顔ね」

 受付係が書類をチェックしながら、話しかけて来た。

「最近こちらに配属になったんです」

「そう。よろしくね。はい、どうぞ。五号車よ」

 受付係が五番のハンコを押して、私に当番票を返してくれた。

「ありがとうございます」

 私は受付を通り過ぎ、出荷場の方に向かった。さっき巡回に来たときに確認しているので、迷うことはない。

 既に出荷準備は出来ているようだ。私は五号車の御者係の女性に当番票を提示して、彼女と一緒に積荷を確認してから荷台に乗った。すぐに馬車は出発した。

 私は荷台の中で緊張していた。恐らく第三工場では、私がいなくなってしまって大騒ぎしていることだろう。

 だが、私の乗った馬車は無事に後宮の門を通過して、王都の荷下ろし場に到着した。

 私は荷台を降りた。王都の街並みを見るのは久しぶりだった。買取人のおじさんが近づいて来た。

「お、べっぴんさんだな。レイモンド商会だ。商品を確認させてもらうぜ」

 レイモンド商会はアードレーの系列だが、私の顔は知らないだろう。

「はい、どうぞ」

 三人の若い男の子が積荷をチェックしながら、彼らの馬車に乗せ替えて行く。チラチラと私の方を見るのは、恥ずかしいからやめて欲しい。

「大丈夫だ。いい品だ。これからも頼むぜ。で、どれにサインすればいい?」

「こちらにお願いします」

 私は受領書を出して、おじさんからのサインをもらった。

「ほらよ、じゃあな、べっぴんさん。おい、お前ら、行くぞ」

 おじさんたちは自分たちの馬車に乗って、郊外の方に走っていった。恐らく縫製工場に向かうのだろう。

 私は受領書を御者の女性に渡した。御者の彼女が私に聞いて来た。

「乗って帰る? それとも、歩いて帰る?」

「用事を言いつかっておりますので、後から歩いて帰ります」

「そう、じゃあ、気をつけて」

 そう言って、彼女は後宮へと戻って行った。

 荷物番はそのまま帰らなくても特にお咎めはない。私はポケットから地図を取り出し、商店区へと向かった。

 まだ脱出は成功ではない。エリーゼの用意してくれた拠点に入るまでは安心できない。

(ニヤけちゃダメ。まだ、成功していないんだから)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...