死罪の王妃は侍女にタイムリープしました

もぐすけ

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指示書の話が出た

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 脱出は、絹織物の反物の運搬に紛れて実施することにした。大量に運搬されるのと、荷物に一人ずつ女官がつくことになっているので、女の出入りに過敏な後宮にあって、比較的チェックが緩いためである。

 私は王妃の使いということで、何度か製糸工場に出入りするようにして、着々と準備を進めた。

 マリアンヌには疑われないよう、引き続き積極的に協力した。そして、遂にマリアンヌから例の文書を書くようにと言われた。王子殺害の指示書である。

「珠妃様、王子を殺害するのでしょうか?」

「いいえ、いくら私でも罪のない子を殺したりはしないわ。あの王子はもう長くないのよ。心臓の病らしくてね」

「王妃に罪を着せるということでしょうか」

「そうよ、陛下の発案よ。王妃は後ろ盾が強力だから、後ろ盾ごと打撃を与えるいい手なのよ。その後、陛下は私を王妃にしてくれるって」

(ジョージだったのか。あの腐れ外道めっ)

「でも、筆跡を真似るには少し時間が必要です」

「メリッサに指示書に必要な文字が書かれている王妃の文を集めさせているわ。それを受け取って、うまく書いてくれる?」

「かしこまりました」

(メリッサがメモを取っていれば証拠になるけど、その前に出て行くから関係ないか)

***

 私は王妃に本件のことを報告した。

「そう、ジョージが……。やはりもう修復は出来ないのね」

「私は殴る蹴るされた挙句、毒を飲まされてますので、あの腐れ外道には、もはや何も期待していませんが、王妃様は言葉の暴力もまだなのでしょう?」

「ええ、いつ言われるかとビクビクしてるわ」

「まだ、決心つきませんか?」

「ええ、ごめんなさい」

(すずきさゆりの混じっていない私は優しいなあ。あんな男、どんなに権力や富を持っていても願い下げなのに)

「大丈夫です。納得して出ていかないと、外の世界でやって行けないと思います。ところで、外の世界を見ておきたいのですが、何かいい名目はありますでしょうか。マリアンヌに疑われないような理由が欲しいのです」

「そうね。その前に、あなたは外の世界は分かっているの?」

「いいえ、王妃様と同じです。アードレー家の本邸の周辺と、王都の仕立て屋と美容院ぐらいです」

 アードレー伯爵家は王妃と私の実家だ。

「どうやって外の世界を見るつもりなの?」

「王妃様の侍女と名乗って、セバスチャンやマイヤに案内してもらおうかと思ってました」

 セバスチャンは執事、マイヤはメイド長だ。

「そうやってすらすら家の使用人の名前が出てくるのは、やはり本物よね」

「まだ疑っておられたのですか? 多分、覚えている使用人の名前も王妃様と一致しますよ」

「ううん、もう疑っていないわ。どんな名目がいいか、あなたも思いつくはずよ」

「ご懐妊でお母様を呼び寄せる、は使えませんよね。最近、ご無沙汰ですよね」

「ええ。ご無沙汰よ」

「あ、そうだっ。お父様の誕生日祝いを届ける、がよいですね。確か今月の二十日ですよね」

「それよ。毎年侍女に届けさせているので、疑われないでしょう」

「それで行きましょう。プレゼントは王都で購入する形にします。そうすれば、商店区にも怪しまれずに行けますので」

「ええ、そうしてね。でも、エリーゼ、必ず帰って来てね……」

(そんなに心細そうな顔しないでよ……)

「大丈夫です。お土産買って来ますよ」
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