7 / 41
指示書の話が出た
しおりを挟む
脱出は、絹織物の反物の運搬に紛れて実施することにした。大量に運搬されるのと、荷物に一人ずつ女官がつくことになっているので、女の出入りに過敏な後宮にあって、比較的チェックが緩いためである。
私は王妃の使いということで、何度か製糸工場に出入りするようにして、着々と準備を進めた。
マリアンヌには疑われないよう、引き続き積極的に協力した。そして、遂にマリアンヌから例の文書を書くようにと言われた。王子殺害の指示書である。
「珠妃様、王子を殺害するのでしょうか?」
「いいえ、いくら私でも罪のない子を殺したりはしないわ。あの王子はもう長くないのよ。心臓の病らしくてね」
「王妃に罪を着せるということでしょうか」
「そうよ、陛下の発案よ。王妃は後ろ盾が強力だから、後ろ盾ごと打撃を与えるいい手なのよ。その後、陛下は私を王妃にしてくれるって」
(ジョージだったのか。あの腐れ外道めっ)
「でも、筆跡を真似るには少し時間が必要です」
「メリッサに指示書に必要な文字が書かれている王妃の文を集めさせているわ。それを受け取って、うまく書いてくれる?」
「かしこまりました」
(メリッサがメモを取っていれば証拠になるけど、その前に出て行くから関係ないか)
***
私は王妃に本件のことを報告した。
「そう、ジョージが……。やはりもう修復は出来ないのね」
「私は殴る蹴るされた挙句、毒を飲まされてますので、あの腐れ外道には、もはや何も期待していませんが、王妃様は言葉の暴力もまだなのでしょう?」
「ええ、いつ言われるかとビクビクしてるわ」
「まだ、決心つきませんか?」
「ええ、ごめんなさい」
(すずきさゆりの混じっていない私は優しいなあ。あんな男、どんなに権力や富を持っていても願い下げなのに)
「大丈夫です。納得して出ていかないと、外の世界でやって行けないと思います。ところで、外の世界を見ておきたいのですが、何かいい名目はありますでしょうか。マリアンヌに疑われないような理由が欲しいのです」
「そうね。その前に、あなたは外の世界は分かっているの?」
「いいえ、王妃様と同じです。アードレー家の本邸の周辺と、王都の仕立て屋と美容院ぐらいです」
アードレー伯爵家は王妃と私の実家だ。
「どうやって外の世界を見るつもりなの?」
「王妃様の侍女と名乗って、セバスチャンやマイヤに案内してもらおうかと思ってました」
セバスチャンは執事、マイヤはメイド長だ。
「そうやってすらすら家の使用人の名前が出てくるのは、やはり本物よね」
「まだ疑っておられたのですか? 多分、覚えている使用人の名前も王妃様と一致しますよ」
「ううん、もう疑っていないわ。どんな名目がいいか、あなたも思いつくはずよ」
「ご懐妊でお母様を呼び寄せる、は使えませんよね。最近、ご無沙汰ですよね」
「ええ。ご無沙汰よ」
「あ、そうだっ。お父様の誕生日祝いを届ける、がよいですね。確か今月の二十日ですよね」
「それよ。毎年侍女に届けさせているので、疑われないでしょう」
「それで行きましょう。プレゼントは王都で購入する形にします。そうすれば、商店区にも怪しまれずに行けますので」
「ええ、そうしてね。でも、エリーゼ、必ず帰って来てね……」
(そんなに心細そうな顔しないでよ……)
「大丈夫です。お土産買って来ますよ」
私は王妃の使いということで、何度か製糸工場に出入りするようにして、着々と準備を進めた。
マリアンヌには疑われないよう、引き続き積極的に協力した。そして、遂にマリアンヌから例の文書を書くようにと言われた。王子殺害の指示書である。
「珠妃様、王子を殺害するのでしょうか?」
「いいえ、いくら私でも罪のない子を殺したりはしないわ。あの王子はもう長くないのよ。心臓の病らしくてね」
「王妃に罪を着せるということでしょうか」
「そうよ、陛下の発案よ。王妃は後ろ盾が強力だから、後ろ盾ごと打撃を与えるいい手なのよ。その後、陛下は私を王妃にしてくれるって」
(ジョージだったのか。あの腐れ外道めっ)
「でも、筆跡を真似るには少し時間が必要です」
「メリッサに指示書に必要な文字が書かれている王妃の文を集めさせているわ。それを受け取って、うまく書いてくれる?」
「かしこまりました」
(メリッサがメモを取っていれば証拠になるけど、その前に出て行くから関係ないか)
***
私は王妃に本件のことを報告した。
「そう、ジョージが……。やはりもう修復は出来ないのね」
「私は殴る蹴るされた挙句、毒を飲まされてますので、あの腐れ外道には、もはや何も期待していませんが、王妃様は言葉の暴力もまだなのでしょう?」
「ええ、いつ言われるかとビクビクしてるわ」
「まだ、決心つきませんか?」
「ええ、ごめんなさい」
(すずきさゆりの混じっていない私は優しいなあ。あんな男、どんなに権力や富を持っていても願い下げなのに)
「大丈夫です。納得して出ていかないと、外の世界でやって行けないと思います。ところで、外の世界を見ておきたいのですが、何かいい名目はありますでしょうか。マリアンヌに疑われないような理由が欲しいのです」
「そうね。その前に、あなたは外の世界は分かっているの?」
「いいえ、王妃様と同じです。アードレー家の本邸の周辺と、王都の仕立て屋と美容院ぐらいです」
アードレー伯爵家は王妃と私の実家だ。
「どうやって外の世界を見るつもりなの?」
「王妃様の侍女と名乗って、セバスチャンやマイヤに案内してもらおうかと思ってました」
セバスチャンは執事、マイヤはメイド長だ。
「そうやってすらすら家の使用人の名前が出てくるのは、やはり本物よね」
「まだ疑っておられたのですか? 多分、覚えている使用人の名前も王妃様と一致しますよ」
「ううん、もう疑っていないわ。どんな名目がいいか、あなたも思いつくはずよ」
「ご懐妊でお母様を呼び寄せる、は使えませんよね。最近、ご無沙汰ですよね」
「ええ。ご無沙汰よ」
「あ、そうだっ。お父様の誕生日祝いを届ける、がよいですね。確か今月の二十日ですよね」
「それよ。毎年侍女に届けさせているので、疑われないでしょう」
「それで行きましょう。プレゼントは王都で購入する形にします。そうすれば、商店区にも怪しまれずに行けますので」
「ええ、そうしてね。でも、エリーゼ、必ず帰って来てね……」
(そんなに心細そうな顔しないでよ……)
「大丈夫です。お土産買って来ますよ」
2
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる