第一王子を取られたと思ったら、第三王子の方が優良物件でしたが……

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
18 / 26

思わぬ弱点

しおりを挟む
 マークとは仲のいい兄妹のような夫婦だと思う。

 よく笑い、ふざけあって、毎日が楽しく幸せだった。

 マークに不満はない。それどころか、最高の夫であるとさえ思う。

 私はマークと一緒にいると安心していられるし、幸せだと思う。

 だが、トーマスの前では、私は自分が女であることを猛烈に意識する。

 マークとは対等な感じなのだが、トーマスには全てを委ねたくなってしまう。

 私はなぜマークを選んだのか分かった気がする。

 私はトーマスが怖いのだ。

 自分がトーマスを好きになりすぎて、彼のとろけるような優しさに包まれ、自分の弱いところですら躊躇なく曝け出し、彼に全身全霊を捧げてしまいそうで怖いのだ。

 トーマスを好きになってしまったら、彼がいなくなったとき、私は生きていけないだろう。

 好きになりすぎるのが怖いために、防衛本能が働くのだろう。

「エイミー、怖い顔をしてどうしたんだい?」

 少し考え過ぎたようだ。

「やはりマークに悪いような気がします……」

「そうか。辛い思いをさせてごめんね。マークに手紙出す? 伝書鳩も使えるよ」

 トーマスの素敵なところは、心配しなくても大丈夫だとか、適当なことを言わないで、まず最初にきちんと私の今の気持ちを受け止めてくれることだ。

 周りがどうであれ、私の気持ちがどうなっているかを聞いてくれて、それを肯定するところから始めてくれる。

 私の気持ちは私のものだから、そんな心配はいらない、とか言われても、もう実際に心配してしまっているのだから仕方がない。それをどうすべきかを考えて欲しい。

 トーマスはそれが自然に出来る。

 マークは少し自分の気持ちが出るので、優しさではやはりトーマスに軍配が上がる。

 ただ、マークはそういうところがあるのが、逆に可愛いのだが。

 トーマスはそういう意味では、可愛いところはまったくない。

 究極の優しさで全てを包んでくれる完璧な男性、それがトーマスなのだ。

(ダメだ。私、とろけそう……)

「大丈夫です。さらわれたという報告は城から出してますので、それで十分です。あまり連絡を取ると、狂言だと思われます」

「まあ、そうなんだけど、無理することはないからね」

「はい。ところで、フローラのお腹の子ですけど、私と同じ時期でしょうか?」

「今、五ヶ月だよ。子供は作らないように頑張ってたんだけど……」

「マークから少し聞きました」

「え? あいつ、そんなことまで話したのか……」

 珍しくトーマスがうろたえている。

 トーマスはまったく可愛いところがないと思っていたが、下ネタに弱かったのか。

 可愛い……

「何やら監禁されたとか」

 私はトーマスの可愛いところをもっと見たくなった。

「そうなんだよ。政務に疲れて眠ってしまったんだけど、起きたら鎖に繋がれていて、その、素っ裸にされていたんだ」

 これは鼻血ものじゃないの。

「それは災難でした。いつまで監禁されていたのですか?」

「一ヶ月だ」

「一ヶ月も!? ずっと裸なんですか?」

「そうなんだ」

「あの、おトイレとかは……?」

「壺の中にするんだ。フローラの目の前で……」

 マジ? しかし、トーマス様、そんな正直に告白しなくても……。

「ほ、本当に災難でした。でも、男の方って、その、出来てしまうものなのですか?」

「エイミー、これ以上は控えておくが、一つだけ言い訳をさせてくれるかい。男はね、視覚と刺激で反応してしまうんだ。これはね、抗えないんだよ……」

 ああ、トーマス様が遠い目をしてしまった。

 どんなに嫌いでも、反応してしまう獣のようなあの日の自分を思い出しているのかしら。

 なんとなく、トーマスに私のおっぱいを見せたら、どういう反応をするか見てみたくなって来た。

 そんなことしないけど……

 完璧人間のトーマスの弱点を見つけて、私は嬉しくなって来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

あなたをずっと、愛していたのに 〜氷の公爵令嬢は、王子の言葉では溶かされない~

柴野
恋愛
「アナベル・メリーエ。君との婚約を破棄するッ!」  王子を一途に想い続けていた公爵令嬢アナベルは、冤罪による婚約破棄宣言を受けて、全てを諦めた。  ――だってあなたといられない世界だなんて、私には必要ありませんから。  愛していた人に裏切られ、氷に身を閉ざした公爵令嬢。  王子が深く後悔し、泣いて謝罪したところで止まった彼女の時が再び動き出すことはない。  アナベルの氷はいかにして溶けるのか。王子の贖罪の物語。 ※オールハッピーエンドというわけではありませんが、作者的にはハピエンです。 ※小説家になろうにも重複投稿しています。

【完結】ただあなたを守りたかった

冬馬亮
恋愛
ビウンデルム王国の第三王子ベネディクトは、十二歳の時の初めてのお茶会で出会った令嬢のことがずっと忘れられずにいる。 ひと目見て惹かれた。だがその令嬢は、それから間もなく、体調を崩したとかで領地に戻ってしまった。以来、王都には来ていない。 ベネディクトは、出来ることならその令嬢を婚約者にしたいと思う。 両親や兄たちは、ベネディクトは第三王子だから好きな相手を選んでいいと言ってくれた。 その令嬢にとって王族の責務が重圧になるなら、臣籍降下をすればいい。 与える爵位も公爵位から伯爵位までなら選んでいいと。 令嬢は、ライツェンバーグ侯爵家の長女、ティターリエ。 ベネディクトは心を決め、父である国王を通してライツェンバーグ侯爵家に婚約の打診をする。 だが、程なくして衝撃の知らせが王城に届く。 領地にいたティターリエが拐われたというのだ。 どうしてだ。なぜティターリエ嬢が。 婚約はまだ成立しておらず、打診をしただけの状態。 表立って動ける立場にない状況で、ベネディクトは周囲の協力者らの手を借り、密かに調査を進める。 ただティターリエの身を案じて。 そうして明らかになっていく真実とはーーー

処理中です...