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どっちか選べって

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 私はトーマスが苦難続きのために気がふれてしまったのだと最初は思った。

 だが、トーマスは正気だった。

「王の次のターゲットはマルソー伯爵だ」

「……まさか、そんな……」

「王の野望は王が強大な力を持つ絶対王政の確立だ。マルソー家の持つ財力と軍事力があればそれが実現出来る。王はやるよ」

「でも、どうやってですか?」

「マークはどこまで話している?」

「トーマス様がグロリア伯爵を巻き込んで自爆して、グロリア家を倒した後、皇太子になって、私が皇太子妃になるって」

「その、トーマス様ってのは、そろそろやめて欲しいのだけど。もう皇太子どころか貴族ですらないし。あ、話がそれちゃったね。それはいいとして、マークはどうするつもりだろうか」

「どういうことでしょうか?」

「王の計画と私たち兄弟の計画は違っていたんだ。グロリア家は王国にとって害悪でしかないし、フローラが君に何をしでかすか心配だったので、グロリア家を滅ぼすところまでは王に協力する予定で、その通りにしたんだ」

「ここからは違うのですか?」

「私たちはマルソー家と協力して王家を倒すつもりでいるんだ」

「え? どうしてですか?」

「そうしないとマルソー家が食いものにされるからだよ。ここまで財力と軍事力を築き上げたのは君たちマルソー家の人々の長年の努力によるものだ。ところが、王は王国の土地をいったん全部接収して、貴族たちに再分割するつもりなんだ」

「そんな無茶苦茶ですっ」

「マルソー家は国土の二割を保有している。しかも、非常に肥沃な土地だ。他の貴族が不公平だと不満を言っていて、それに乗じるつもりなんだ」

「でも、肥沃にしたのはマルソー家のご先祖様たちで、元は荒れ果てた土地でした」

「うん、みんな知っているのに、取り上げようとしているんだ」

「父も先祖代々受け継いだ土地を簡単に手放すとは思いません。内戦になるんじゃないでしょうか?」

「エイミーのお父上は非常に出来た人だ。領民が苦しむような内戦は起こさないだろう。それとお姉さん二人と弟さんが人質になっている」

 私の姉二人は王都の貴族に嫁いでいる。弟は王弟の一人娘の侯爵家に婿入りしていた。

「姉と弟の家は再分割に賛成なのですね」

「マルソー家以外は全員賛成だよ。それで、君まで王都に行ってしまうと、ますますマルソー伯爵は身動きが取れなくなるはずなんだが、マークはどういう考えなのだろうか……」

「予定と違うのでしょうか?」

「うん、エイミーは私と国境近くで待機する予定だった。私はノルランドの皇帝に会って、不可侵条約を結ぶという大役が残っているけど、エイミーには自由にのんびりと暮らしながら、全てが終わるまで待っていてもらう予定だったんだ」

「マークはどうして私を王都に呼ぶのでしょうか?」

「何かあったのかな? 変わったことは?」

「私、妊娠しました」

「え? それはおめでとう。マークはなぜ教えてくれなかったんだろう。私もマークも、マルソー家と協力して国を治めた方がいいと思っているんだ。そのための捨て石ということで、今回の役割を喜んで引き受けたのだが……」

「辛くなかったですか?」

「エイミーに振られたときに比べれば、全然大したことないよ。監禁されたときは困ったけど」

 監禁の話をフローラから聞かなければ。

「そんな振るだなんて。フローラが一人ぼっちで可哀想と思ってしまって……」

「フローラがいなかったら?」

「……」

(子供のころは大好きでしたなんて今更言えないわ)

「やめておこう。弟の嫁を口説くなんてどうかしている。また振られたら嫌だし……。今のは忘れて欲しい」

「……はい」

「それでエイミーはどうしたい? 王都に行くか、私と一緒に国境まで行くか、どうしたい?」

(ちょっと困った……。どっちか選べ、みたいになってるように思うのは、気のせいかしら?)
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