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スキルの会得

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 スケルトンの運動能力は、ゼロどころか、マイナスのようだ。

 体は骨だけで軽いはずなのに、壁を登るどころか、普通に歩くだけでも大変だ。そもそも筋肉がないから、動けるはずがないのだ。

(どうやって動いてるんだ?)

 壁を登る前にまずは歩くことをマスターしようと、いろいろと試行錯誤しているうちに、少しずつうまく歩けるようになってきた。

 人間はいちいち考えて歩いているわけではないが、スケルトンの場合、右足を前に出す、次に左足を前に出す、といちいち念じないとうまく歩けないのだ。

 足だけでなく、腕の振りや腰のひねりも加えた動きをイメージしているうちに、スムーズに動けるようになってきた。

『スキル「歩行」を会得しました』

(え? 何、今の……?)

 機械的で感情のない女の声が、頭に響いたのだ。

(ゲーム? よくわからないが、会得できるスキルがしょぼすぎやしないか?)

 だが、「歩行」スキルを得た後は、無意識で歩けるようになった。

(なるほど、スキルとして身につければ、意識しなくても出来るようになるのだな)

 次に俺は走ってみた。歩くときにジャンプを組み合わせることで、走ることができる。最初は何度かすっころんだり、スキップのようになったりしていたが、コツを掴むと、上手く走れるようになってきた。

『スキル「走行」を会得しました』

(ははは、いいぞ。でも、こんなスキルから始めないといけないのか。まるで赤ん坊だな)

 その後、俺は考えられるスキルの会得に注力して、「跳躍」、「投擲」、「掌握」など人の基本的な動きを身に着けていった。

(あとはそうだな、「剣術」とか会得できないかな)

 俺は学生の頃、剣道部だったため、近くにあった骨を拾って、素振りや型を試してみた。だが、1時間以上かけても、何のスキルも得られなかった。

(確か竹刀の握り方は、左手の小指と薬指に力を込めて、右手はそえるだけだったな)

 こうなってくると、意地でも剣術スキルを会得したくなってしまう。人間のときとは異なり、集中力は切れないし、疲れも感じない。食事もトイレ休憩も必要ないため、一心不乱に何日も練習出来てしまう。

 天井を見上げると、鬱蒼とした木々に覆われているらしく、空は見えないが、薄暗いときと真っ暗になるときがある。

 その4回目の昼が来たとき、剣に見立てた骨をイメージ通りに振れるようになり、踏み込んで面を打ったりしていると、遂に例の声が頭に鳴り響いた。

『スキル「剣道」を会得しました。レベルは初段です』
 
(……は? なんだよ、それ……)

 しょぼすぎる。確かに俺は生前? は剣道初段だったが、何もそんなにリアルに反映しなくてもいいじゃないか。

 そんなことより、早くこの穴から脱出しなくてはいけないのに、一体俺は何をやってるんだと思った。

(まずはこの穴からの脱出を優先しよう)

 ただ、実は剣道の練習中にずっと気になっていたことがあった。スケルトンなのに、何だか腸のあたりがムズムズするのだ。

 脱出のための30メートルのロッククライミングを始める前に、何とかすっきりさせておきたい。

(屁をこいてみるか?) 

 なぜかそう決心して、下腹部に力を入れる感じで、腹にたまった空気を押し出すイメージを持ってみた。

 すると、しゅるるるるぅという音がして、お尻のあたりから空気が出て来るのが分かった。

『スキル「風魔法」を会得しました』

(え? これが魔法!?)

 しばらく呆気に取られていたが、いったん出ている空気を止めて、いろいろと試してみた。

 回転しながら空気を出すと、竜巻を起こすことができた。

 空気を凝縮して細切れに出すことで、空気銃のように使えることも分かった。

 だが、空気はお尻のあたりからしか出すことが出来ず、いまいち恰好がよくない。特に空気銃は尻を相手に向けて後ろを見ながら発射するため、姿勢が滑稽すぎた。

(空気銃は封印だな)

 座禅を組んで空気を吐き出すことで、浮くこともできた。数センチほどであれば、長く浮いていることができるし、瞬間的に空気を爆発放出させることで、数メートルぐらいの上昇が可能だ。

 もう少し試したかったのだが、これ以上空気が出なくなってしまった。

(そうか、魔法の燃料は有限なのか。だが、またしても何時間も遊んでしまった……)

 この何にでも熱中してしまう癖は気をつけた方がいいようだ。

(あれ? 今度は胃も気持ち悪くなってきた。ゲップしてみるか?)

 すると、口から炎が出た。

『スキル「火魔法」を会得しました』

(……魔法って、こんなんなの?)
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