骨だけ召喚されちゃいました

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
3 / 4

スキルの会得

しおりを挟む
 スケルトンの運動能力は、ゼロどころか、マイナスのようだ。

 体は骨だけで軽いはずなのに、壁を登るどころか、普通に歩くだけでも大変だ。そもそも筋肉がないから、動けるはずがないのだ。

(どうやって動いてるんだ?)

 壁を登る前にまずは歩くことをマスターしようと、いろいろと試行錯誤しているうちに、少しずつうまく歩けるようになってきた。

 人間はいちいち考えて歩いているわけではないが、スケルトンの場合、右足を前に出す、次に左足を前に出す、といちいち念じないとうまく歩けないのだ。

 足だけでなく、腕の振りや腰のひねりも加えた動きをイメージしているうちに、スムーズに動けるようになってきた。

『スキル「歩行」を会得しました』

(え? 何、今の……?)

 機械的で感情のない女の声が、頭に響いたのだ。

(ゲーム? よくわからないが、会得できるスキルがしょぼすぎやしないか?)

 だが、「歩行」スキルを得た後は、無意識で歩けるようになった。

(なるほど、スキルとして身につければ、意識しなくても出来るようになるのだな)

 次に俺は走ってみた。歩くときにジャンプを組み合わせることで、走ることができる。最初は何度かすっころんだり、スキップのようになったりしていたが、コツを掴むと、上手く走れるようになってきた。

『スキル「走行」を会得しました』

(ははは、いいぞ。でも、こんなスキルから始めないといけないのか。まるで赤ん坊だな)

 その後、俺は考えられるスキルの会得に注力して、「跳躍」、「投擲」、「掌握」など人の基本的な動きを身に着けていった。

(あとはそうだな、「剣術」とか会得できないかな)

 俺は学生の頃、剣道部だったため、近くにあった骨を拾って、素振りや型を試してみた。だが、1時間以上かけても、何のスキルも得られなかった。

(確か竹刀の握り方は、左手の小指と薬指に力を込めて、右手はそえるだけだったな)

 こうなってくると、意地でも剣術スキルを会得したくなってしまう。人間のときとは異なり、集中力は切れないし、疲れも感じない。食事もトイレ休憩も必要ないため、一心不乱に何日も練習出来てしまう。

 天井を見上げると、鬱蒼とした木々に覆われているらしく、空は見えないが、薄暗いときと真っ暗になるときがある。

 その4回目の昼が来たとき、剣に見立てた骨をイメージ通りに振れるようになり、踏み込んで面を打ったりしていると、遂に例の声が頭に鳴り響いた。

『スキル「剣道」を会得しました。レベルは初段です』
 
(……は? なんだよ、それ……)

 しょぼすぎる。確かに俺は生前? は剣道初段だったが、何もそんなにリアルに反映しなくてもいいじゃないか。

 そんなことより、早くこの穴から脱出しなくてはいけないのに、一体俺は何をやってるんだと思った。

(まずはこの穴からの脱出を優先しよう)

 ただ、実は剣道の練習中にずっと気になっていたことがあった。スケルトンなのに、何だか腸のあたりがムズムズするのだ。

 脱出のための30メートルのロッククライミングを始める前に、何とかすっきりさせておきたい。

(屁をこいてみるか?) 

 なぜかそう決心して、下腹部に力を入れる感じで、腹にたまった空気を押し出すイメージを持ってみた。

 すると、しゅるるるるぅという音がして、お尻のあたりから空気が出て来るのが分かった。

『スキル「風魔法」を会得しました』

(え? これが魔法!?)

 しばらく呆気に取られていたが、いったん出ている空気を止めて、いろいろと試してみた。

 回転しながら空気を出すと、竜巻を起こすことができた。

 空気を凝縮して細切れに出すことで、空気銃のように使えることも分かった。

 だが、空気はお尻のあたりからしか出すことが出来ず、いまいち恰好がよくない。特に空気銃は尻を相手に向けて後ろを見ながら発射するため、姿勢が滑稽すぎた。

(空気銃は封印だな)

 座禅を組んで空気を吐き出すことで、浮くこともできた。数センチほどであれば、長く浮いていることができるし、瞬間的に空気を爆発放出させることで、数メートルぐらいの上昇が可能だ。

 もう少し試したかったのだが、これ以上空気が出なくなってしまった。

(そうか、魔法の燃料は有限なのか。だが、またしても何時間も遊んでしまった……)

 この何にでも熱中してしまう癖は気をつけた方がいいようだ。

(あれ? 今度は胃も気持ち悪くなってきた。ゲップしてみるか?)

 すると、口から炎が出た。

『スキル「火魔法」を会得しました』

(……魔法って、こんなんなの?)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】ニセ聖女と追放されたので、神官長と駆け落ちします〜守護がなくなり魔物が襲来するので戻ってこい? では、ビジネスしましょう〜

恋愛
 婚約者の王太子からニセ聖女の烙印を押された私は喜んで神殿から出ていった。なぜか、神官長でエルフのシンも一緒に来ちゃったけど。  私がいなくなった国は守護していた結界がなくなり、城は魔物に襲来されていた。  是非とも話し合いを、という国王からの手紙に私は再び城へ。  そこで私はある条件と交換に、王を相手にビジネスをする。 ※小説家になろうにも掲載

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...