王子に転生したのですが、教育が厳し過ぎるので家出しました。神の加護で魔法が出来ますので、身分を隠して、魔道具屋を始めようと思います

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
26 / 30

クラウス

しおりを挟む
 シルフィの失踪につづき、ミランダが行方不明となり、王位継承権第三位のクラウスに王位を継ぐ芽が出てきた。

(こうなってくると、プリシラの悪巧みに手など貸さなければよかったな)

 クラウスは一言でいうと、やさぐれていた。

 王室に生まれたものの、ずっと脇役の人生を送る運命を受け止められなかったのだ。

 クラウスはミランダより二ヶ月後に産まれた。兄が一人いたが夭折している。

 たった二ヶ月の差で、王に子供ができない間は王位継承権第二位だった。

 そして、シルフィが生まれ、第三位となった。

 王国の王位継承権は王の長男が第一位、それ以外は、王の姪、甥の年齢順となっていた。

 シルフィとミランダには、魔法でも継承権でも敵わなかったので、クラウスはすっかり諦めて、不貞腐れていたのだった。

(あいつらが自由に生きたいのであれば、自由に生きればいいのだ。敵対するのはまずい。ちょっかいさえ出さなければ、王位にも俺にも興味は持たないはずだ)

 書斎であれこれ考えていたクラウスの前に執事が現れた。

 少し様子がおかしい。

「クラウス様、モノクロ様をご案内致しました」

「セバス、お前、操られているじゃないか」

 クラウスはすぐにセバスチャンにかけられている催眠効果を中和させた。

「クラウス様、私は何を……?」

「誰に会った? モノクロって何だ?」

「あ、あ、あ、……クラウス様、モノクロ様をご案内致しました」

(何だと!? 催眠効果が再燃しているっ!?)

 驚くべき魔法だ。

 こんな魔法を使う魔法使いは、ミランダかシルフィだけだ。

「「モノクロ参上!」」

 書斎の入り口に白の女と黒の少年が横を向いて立っていた。

「ミランダ! と、シルフィか?」

「ち、違うわよ、私はシロよっ」

「人違いだ。俺はクロだ」

 いくら何でも無理があるのだが、ミランダとシルフィはモノクロで通すつもりでいた。

「何の真似だ? 変な格好をして、覆面をしている以外は、ミランダは口調を変えているだけだし、シルフィは声を低くしているだけじゃないか」

「変な格好だと? シロ、こいつ黙らせた方がいい」

「そうね、クロ。知らない人の名前を出されちゃって、嫌になっちゃうわ」

 クラウスは素早く計算した。

 どういう茶番なのか分からないが、調子を合わせた方がいい。

「わ、悪かった。私の勘違いだ。知り合いによく似ていると思ったら、全くの人違いだった」

「む? いい態度だ。錯乱でもしたのかと思ったぞ。どうだ? 格好いいだろう?」

「うん、格好いいと思う」

 クラウスは棒読みした。

「クラウス様、どうなさったのですか!? 操られてしまっているのですかっ」

 セバスチャンはそう言ったまま眠ってしまった。

 モノクロだけではなく、クラウスからもスリープをかけられたのだ。

「執事の教育がなっていないわね」

「済まない。で、モノクロ殿、用件を聞かせて欲しい」
 
「クラウス、あなた、プリシラに手を貸して、子供たちを酷い目に合わせているらしいわね」

「その件か。非常に後悔している。すぐに償いたいが、何をすればいい?」

「あら? 素直ね。どうしちゃったのかしら?」

「ミラ、いや、シロさん? でいいのか?」

「シロでいいわよ」

「シロ、俺には優秀な従姉弟がいてな。彼女や彼と比べて、自分があまりにも平凡なので、彼女たちに嫉妬して、嫌がらせをしてしまったのだ。でも、そうではなく、彼女たちの助けになるようなことをすべきだったのだ」

「シロ、クラウス兄は随分と物分かりが良くなったんじゃないか?」

「クロ、クラウスでしょ。兄は余計よ」

「そうだった。オホン。クラウスは随分と物分かりが良くなったんじゃないか?」

「そうね。クラウス、あなたの従姉弟たちをどう助けるの? 聞かせてくれる?」

 この茶番はいつまで続くのかとクラウスは一瞬思ったが、むしろいい機会かもしれない。

「あ、ああ。彼女たちは失踪中なのだが、恐らく王室の生活が窮屈なのだろう。そこでだ。私が王を継いで、彼女たちを自由にすることが、助けになるように思うんだ。彼女たちの生活に干渉せず、しかし、彼女たちの意見をよく聞いて、国政に取り入れようと思う」

「シロ、クラウス兄は無茶苦茶いいことを言う」

「クロ、こんなところに救世主がいるとはな」

「シロ、女言葉で話してくれ」

「あら? つい興奮してしまったわ。クロも兄は余計だからね」

「クラウス、非常にいい案だと思うが、きっと従姉弟たちは、お前に善政が出来るかどうか心配していると思うぞ。今回の子供たちへの仕打ちは許し難いものだ」

「今回の件は償えるだけ償う。今後の施策については見ていて欲しい。私は政治をしたいのに、出来ない境遇に反発していただけだ。政治ができるのであれば、どうせやるなら、善政を行いたい」

「クラウス、分かったわ。お前がどういう政治を行うのか、見せてもらうわ。私たちがダメだと思ったら、短い人生になっちゃうからね」

「心得ている」

「シロ、あとはプリシラだな」

「そうね。クラウス、プリシラは操ってないの?」

「プリシラさんは魔法使いだ。操れない」

「それは初耳だぞ」

「シル、いや、クロ。プリシラさんと姉のステーシア叔母様は、王国女学園では有名なウィッチー姉妹だったぞ」

「それも初耳だ」

「私もよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

僕と精霊〜The last magic〜

一般人
ファンタジー
 ジャン・バーン(17)と相棒の精霊カーバンクルのパンプ。2人の最後の戦いが今始まろうとしている。

処理中です...