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独り立ち支援制度
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商業ギルドのマスターは、カインというらしい。
銀縁の眼鏡をかけた神経質そうな男だった。
エドモンド商会のイライザからの呼び出しには応じるが、それはそれで、俺には普通に接して来た。
「で、君が『独り立ち支援制度』を利用したいのだね?」
「はい、そうです。本人が希望すれば、王国が支援してくれると聞きました」
「まあ、その通りだが、誰でもというわけではないのだよ」
「そうなんですか? おかしいですね。十歳未満の場合は条件なしと聞いてました」
「ははは、誰がそんなデタラメを」
「王妃様です」
「……、何を言い出すんだ?」
カインは俺を警戒するような目つきで見始めた。
まずい。俺は言い直した。
「そう王妃様がおっしゃっておられたと聞きました」
ママは提案するにあたり、無条件に受け入れることが非常に重要だと訴えていた。
カインは肩をすくめて、やれやれといった顔をした。
「まったくのデタラメだ。支援を受けるためには、推薦者と支度金が必要なのだよ」
こいつは悪いやつ決定だな。
「そんなはずはないのですが……」
カインは俺では話にならないとばかりに、イライザに目を向けた。
「イライザお嬢様、エドモンド商会が推薦者になってくださるのですか?」
「ええ、それはお安いご用ですが、シルフ様、どうなさいますか?」
イライザが心配そうに俺を見た。
カインが悪人だと勘づいたのだろう。
「少し考えます」
カインは不正をしている割には余裕の態度だが、大物がバックにいるのだろうか。
今日、家出したばかりで、もう連絡するってのは間抜けな話だが、どうせミラ姉からは遅かれ早かれ念波で話しかけられるはずだ。
こちらから先に連絡してしまおう。
俺はミラ姉に相談すべく、念波で話しかけた。
(ミラ姉、シルフィです)
(おお、シルフィ、どうした? もう私が恋しくなったか?)
(今、リコザの商業ギルドにいるんですが、独り立ち支援制度に登録しようとしたら、推薦者と支度金がいるっていうんです)
(叔母様が始めた制度だな。何度も自慢されて、よく覚えている。確か無条件を売りにしていなかったか?)
(ですよね。ギルドマスターにそう言われまして、この人、制度を悪用する悪い人なんですが、どうすればいいですか?)
(そうだな……、ところで、お前、何でそんなところにいる?)
(男の教師陣が嫌で、逃げ出したんですよ)
(お前、すごいことするな。さっきから王妃殿が騒がしいが、お前のことを探しているのか。こいつはいい。きっと私に捜索しろって言ってくるぞ。外に出られるっ! お前、師匠思いのいいやつだな)
魔法使いを探せるのは、魔法使いだけだ。
魔法使い以外では、魔法をかけられて、逃げられてしまうからだ。
ミラ姉の予想通り、この後、ミラ姉はすぐに俺の捜索を依頼されることになる。
(よし、じゃあ、こうしろ、いいか?)
なるほど。さすがミラ姉だ。
俺は目を開いた。
目を閉じる必要はないのだが、開いたまま念波をしていると、目を開けたまま表情が動かなくなるので、見た目がよろしくないのだ。
カインが訝しげな目で俺を見ていた。
「カインさん、よくよく思い出してみたら、確かにそんな条件があったように思います」
カインが鼻で笑った。
嫌な感じの男だが、しばらく我慢だ。
俺はカインに見られないように、カバンから懐中時計を取り出した。
どこかの国からの献上品だ。
かなりいい時計だと聞いている。
「イライザさん、すいませんが、推薦者になって頂けますか? 支度金はこの時計で御用立て頂けると助かります」
イライザは時計を手にして見ていたが、カチカチに固まって、ぎこちない表情でこちらを見た。
「こ、これ、フェイスの時計ですよね」
カインに聞かれないように、イライザが俺の耳元で囁いた。
ふんわりと花の香りがした。
「もらいものなので、よく知らないのですが、いい時計だと言ってました」
「シルフ様、これ、金貨百枚はします……」
「そうなんですか。そうかもしれません」
「そ、そうかもしれないって。普通の時計はいくらぐらいかご存知ですか?」
そう言われてみると、俺はモノの値段をよく知らない。
この世界の貨幣制度もよくわからない。
「知らないです」
少し間があった後、イライザがため息をついた。
「シルフ様、この時計はお返しします。支度金は私がお出しします。今後、お金の話は全て私を通すようにして下さい。シルフ様はお一人では危険です。お持ち物も他人には見せないようにして下さい。いいですね」
これまでのイライザとは違い、有無を言わさぬ意思を感じた。
どうやら俺は金銭感覚がおかしいと思われたようだ。
実際にそうみたいなので、イライザに素直に従うことにした。
「すいません。お言葉に甘えます」
銀縁の眼鏡をかけた神経質そうな男だった。
エドモンド商会のイライザからの呼び出しには応じるが、それはそれで、俺には普通に接して来た。
「で、君が『独り立ち支援制度』を利用したいのだね?」
「はい、そうです。本人が希望すれば、王国が支援してくれると聞きました」
「まあ、その通りだが、誰でもというわけではないのだよ」
「そうなんですか? おかしいですね。十歳未満の場合は条件なしと聞いてました」
「ははは、誰がそんなデタラメを」
「王妃様です」
「……、何を言い出すんだ?」
カインは俺を警戒するような目つきで見始めた。
まずい。俺は言い直した。
「そう王妃様がおっしゃっておられたと聞きました」
ママは提案するにあたり、無条件に受け入れることが非常に重要だと訴えていた。
カインは肩をすくめて、やれやれといった顔をした。
「まったくのデタラメだ。支援を受けるためには、推薦者と支度金が必要なのだよ」
こいつは悪いやつ決定だな。
「そんなはずはないのですが……」
カインは俺では話にならないとばかりに、イライザに目を向けた。
「イライザお嬢様、エドモンド商会が推薦者になってくださるのですか?」
「ええ、それはお安いご用ですが、シルフ様、どうなさいますか?」
イライザが心配そうに俺を見た。
カインが悪人だと勘づいたのだろう。
「少し考えます」
カインは不正をしている割には余裕の態度だが、大物がバックにいるのだろうか。
今日、家出したばかりで、もう連絡するってのは間抜けな話だが、どうせミラ姉からは遅かれ早かれ念波で話しかけられるはずだ。
こちらから先に連絡してしまおう。
俺はミラ姉に相談すべく、念波で話しかけた。
(ミラ姉、シルフィです)
(おお、シルフィ、どうした? もう私が恋しくなったか?)
(今、リコザの商業ギルドにいるんですが、独り立ち支援制度に登録しようとしたら、推薦者と支度金がいるっていうんです)
(叔母様が始めた制度だな。何度も自慢されて、よく覚えている。確か無条件を売りにしていなかったか?)
(ですよね。ギルドマスターにそう言われまして、この人、制度を悪用する悪い人なんですが、どうすればいいですか?)
(そうだな……、ところで、お前、何でそんなところにいる?)
(男の教師陣が嫌で、逃げ出したんですよ)
(お前、すごいことするな。さっきから王妃殿が騒がしいが、お前のことを探しているのか。こいつはいい。きっと私に捜索しろって言ってくるぞ。外に出られるっ! お前、師匠思いのいいやつだな)
魔法使いを探せるのは、魔法使いだけだ。
魔法使い以外では、魔法をかけられて、逃げられてしまうからだ。
ミラ姉の予想通り、この後、ミラ姉はすぐに俺の捜索を依頼されることになる。
(よし、じゃあ、こうしろ、いいか?)
なるほど。さすがミラ姉だ。
俺は目を開いた。
目を閉じる必要はないのだが、開いたまま念波をしていると、目を開けたまま表情が動かなくなるので、見た目がよろしくないのだ。
カインが訝しげな目で俺を見ていた。
「カインさん、よくよく思い出してみたら、確かにそんな条件があったように思います」
カインが鼻で笑った。
嫌な感じの男だが、しばらく我慢だ。
俺はカインに見られないように、カバンから懐中時計を取り出した。
どこかの国からの献上品だ。
かなりいい時計だと聞いている。
「イライザさん、すいませんが、推薦者になって頂けますか? 支度金はこの時計で御用立て頂けると助かります」
イライザは時計を手にして見ていたが、カチカチに固まって、ぎこちない表情でこちらを見た。
「こ、これ、フェイスの時計ですよね」
カインに聞かれないように、イライザが俺の耳元で囁いた。
ふんわりと花の香りがした。
「もらいものなので、よく知らないのですが、いい時計だと言ってました」
「シルフ様、これ、金貨百枚はします……」
「そうなんですか。そうかもしれません」
「そ、そうかもしれないって。普通の時計はいくらぐらいかご存知ですか?」
そう言われてみると、俺はモノの値段をよく知らない。
この世界の貨幣制度もよくわからない。
「知らないです」
少し間があった後、イライザがため息をついた。
「シルフ様、この時計はお返しします。支度金は私がお出しします。今後、お金の話は全て私を通すようにして下さい。シルフ様はお一人では危険です。お持ち物も他人には見せないようにして下さい。いいですね」
これまでのイライザとは違い、有無を言わさぬ意思を感じた。
どうやら俺は金銭感覚がおかしいと思われたようだ。
実際にそうみたいなので、イライザに素直に従うことにした。
「すいません。お言葉に甘えます」
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