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魔法研究会

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「母が申し訳ございませんでした。あんな嫌味な態度をする母は初めて見ました」

 私がそう謝ると、リングは大丈夫といった感じで右手をヒラヒラさせた。

「聖女様はお若いころに、皇帝の妃候補になって、ご苦労されたみたいなんだ」

「師匠から少し聞いたことがあるが、俺たちの母にもずいぶんと虐められたらしい」

 そうだったのか。どの友達の母よりも抜群に美しい母は私の自慢だったが、美しいってことだけで苦労するってのが、おこがましいかもしれないが、今回の件で少しわかったような気がした。

「母は私が同じ苦労をしないようにと思っているのでしょう」

「サーシャに婚約を申し込むには、皇族辞めないと無理だな」

 テリィがまた婚約の話を持ち出した。

「ってことは、兄さんには無理だね。僕は今すぐにでも皇族辞めるよ」

 また何だか兄弟間の雲行きが怪しくなって来た。毎度雰囲気が悪くならないように、はっきりとさせてもらった方がよさそうだ。

「私は生まれがどうとか、周囲の環境がどうとかは気にしませんが、まだ婚約は早いと思います。もうしばらくは魔法のことだけを考えていたいです」

「大丈夫だよ。僕はいつまでも待てるからね。兄さんはそろそろ決めないとまずいけど」

「リング、お前……。俺が廃太子される可能性も考えておけよ」

「……、兄さん、今まで通り仲良くやろう。僕たちがぐいぐい行ってもサーシャが困るだけだよ。サーシャが自然に選べるようにしてあげようよ」

「そうだな。俺たち以外の男を選択するかもしれないがな」

「そのときはそのときさ。ってことで、これからもよろしくね、サーシャ」

「はい、よろしくお願いします」

 よかった。まだ私は魔法のことしか考えられないから。

***

 テリィとリングが全校生徒の前で、私との魔法訓練を披露して、私から魔法を学んでいると説明してくれた。

 そのおかげで、奇妙な噂は完全に消えたのだが、今度は魔法を教えてほしいと言われることが多くなった。

 だが、それは私にとっては、喜ばしいことであった。

 テリィとリングは三カ月の留学期間を終え、皆から惜しまれながら、帝国に帰って行った。

 お二方がいたときは、いつもあんな調子でとても賑やかだったので、帰国された後は、何だかぽっかりと穴が空いてしまったようだった。

 そんな私に発破をかけにきたのは、なんとフランソワ王女だった。

 私の前に王女が仁王立ちしている。皇子がいなくなって、また因縁をつけられるのかと思ったのだが、違っていた。

「いつまでウジウジしているの。婚約を断ったのはあなたでしょう。ってことは、そんなに好きじゃなかった、ってことよ。次の男を探すわよ」

「いや、フランソワ様、別に私は男を探している訳では……」

「あなたがさっさと決めてくれないと、みんなあなたに取られちゃうのよ。早く決めなさい。いいわねっ」

「は、はいっ」

「私、いいこと考えたのよ。あなた、魔法大好きでしょう?」

「はい!」

「そこは元気いいのね。でね、『魔法研究会』を発足させましょう。放課後も魔法好きが集まって、魔法の研究をするのよ。魔法好きの男を選び放題よっ」

「男はさておき、研究会ってのはいいですね」

「でしょう? 学園長から施設と予算をぶん取って来たわよ。すぐにでもスタート出来るわ。やるわよね?」

「はい、やりますっ」

 私はすぐに「魔法研究会」を発足させた。

 創設メンバーは私とフランソワ王女の二人だった。

 ルミエールも誘ったのだが、魔法はそんなに好きではないらしい。

 参加資格は魔法が好きなこと。

 最初のうちは、私や王女目的の不純な入会動機が多くて閉口したが、王女の護衛がそういった輩を排除してくれた。

 ただ、学園内には意外と本物の魔法好きは少なく、最初の年は私と王女の二人だけだった。

 だが、私はとても楽しかった。フランソワ王女とは、意外にも気が合うのだ。

 実は彼女は私に負けないくらいの魔法好きで、特に魔法の美しさには敏感で、どうすれば魔法が美しくなるかのノウハウは、私を軽く凌駕していた。

「フランソワ様、素晴らしいです……。こんな美しい電撃、見たことないです。お母様の電撃よりも美しいだなんてっ!」

「ふん、あなたの電撃を初めて見たときに、魔法の美しさに開眼したのよ。それより、フランソワ様なんて長ったらしい言い方はやめて。フランでいいわよ」

「そんな、いくら何でも不敬です」

「あなたね、兄の急所を再起不能にしておいて、今更こんなことで不敬になんてならないわよ」

「わ、分かりました。ふ、フラン……さま」

「あのね……」

 次の年、魔法研究会に一人の男の子がふらっと現れた。今年入って来た新入生だという。

 遠く離れた神国の王子とのことで、4年間王国に留学するそうだ。

 非常にプライドが高く、皆から嫌われているらしいのだが、今までとは全く違った発想をする魔法の天才だった。

「また王子か……」

 なぜか王女が大きくため息をついていた。
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