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喧嘩をやめて
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「見張りがいないな」
二人は城の見取り図を見ながら、地下牢へと向かっていた。
「誘拐に監禁でしょ。さすがに知られないようにしてるんでしょ」
「あれじゃないか?」
牢の中に大きな箱が置かれていた。
箱の中から呻き声が聞こえてくる。
「「サーシャ」」
二人は顔色を変えて箱に駆け寄った。
「あ、皇子様!? 私は大丈夫です」
箱の中からサーシャの美しい声が聞こえて来た。二人はホッと胸を撫で下ろしつつ、箱の側面を力ずくで外した。
箱の中では、目隠しされ、椅子に上半身を縛り付けられたサーシャと下半身を露出したアンソニーが股を押さえながらうめいていた。
「サーシャ、今、縄をほどくぞ、リング、その汚いものを隠してくれ」
「うえっ、僕も出来ればサーシャの縄の方がいいんだけどなあ。あちゃあ、アンソニー、君のそれ、大変なことになっているぞ」
リングは治癒魔法をかけ、近くにあった毛布をアンソニーの下半身に掛けてやった。
テリィはアンソニーの股間が隠されたことを確認してから、サーシャの目隠しを外した。
サーシャの目が明るさに慣れて来て、テリィとリングの顔を確認すると、サーシャは大粒の涙を流し始めた。
テリィとリングはサーシャの両脇に立って、優しく彼女の肩に手をかけた。
「アンソニー様がこんなことをされるなんて、本当に怖かったです。箱やロープに魔法が効かなくて、アンソニー様に魔法を使ったら両親を殺すって脅されて……」
「もう大丈夫だ」
「安心していいよ」
「そ、それで、魔法を使っていけないなら、蹴飛ばすのはいいかと思って、アンソニー様を思い切り蹴っ飛ばしたら、なんかグニャッて感じがして、アンソニー様が倒れてしまって……。アンソニー様は大丈夫でしょうか?」
テリィとリングは顔を見合わせ、アンソニーを見て、思わず吹き出した。
「大丈夫だよ。痛みでうずくまっているだけだよ。じきに治癒魔法が効いて来て、元通りになるはずさ」
テリィは大粒の涙を流すサーシャのか弱い姿と、男の急所を容赦なく蹴り上げる豪胆な行動とのギャップに琴線を大いに揺さぶられていた。
これほどの女性に出会うのは、これが最初で最後だという確信がテリィに湧き上がって来た。
「おい、アンソニー、お前は俺に喧嘩売ってんのか。サーシャにこれから婚約の申し込みをしようっていうのに、いったいどういうつもりなんだ?」
「ちょっと待ってよ、兄さん。皇太子は勝手に婚約者を決められないだろう。サーシャには僕が婚約を申し込むんだ。師匠とか聖女様とか正直怖いけど、それ以上にサーシャのことが好きなんだ」
リングは今日一日サーシャのために駆けずり回ったが、彼女のために行動することは悦びであった。会ってまだ二日だが、こんなに女性を好きになったのは初めての経験で、このまま兄に渡してしまっては、絶対に後悔する。
「何を言っている? サーシャのような才媛は皇后になるべきだろう。皇太子妃になり、いずれは皇后になるべきなんだ。帝国の未来のためにもな」
「サーシャに国の重責なんて背負わしちゃだめだよ。サーシャはいつまでも自由に魔法の研究に打ち込めた方がいいんだ。兄さんに嫁入りするのは可哀想だよ」
「何だと!?」
「何だよ!?」
サーシャは二人が自分の取り合いを始めたことに動転した。まだ二人のことがよく分からないし、自分はまだ十五歳で、婚約など考えたこともない。
とりあえず何か他に話題をそらせないかと焦っていたら、ちょうどアンソニー王子が逃げているところが目に入った。
初めてアンソニー王子が役に立つわ。
「あ、あの、喧嘩はおやめになってください。それより、アンソニー様がお逃げになられてます」
二人がアンソニーの方を振り向くと、腰をひょこひょこさせながら、必死に逃げて行くアンソニーの後ろ姿が見えた。
二人は城の見取り図を見ながら、地下牢へと向かっていた。
「誘拐に監禁でしょ。さすがに知られないようにしてるんでしょ」
「あれじゃないか?」
牢の中に大きな箱が置かれていた。
箱の中から呻き声が聞こえてくる。
「「サーシャ」」
二人は顔色を変えて箱に駆け寄った。
「あ、皇子様!? 私は大丈夫です」
箱の中からサーシャの美しい声が聞こえて来た。二人はホッと胸を撫で下ろしつつ、箱の側面を力ずくで外した。
箱の中では、目隠しされ、椅子に上半身を縛り付けられたサーシャと下半身を露出したアンソニーが股を押さえながらうめいていた。
「サーシャ、今、縄をほどくぞ、リング、その汚いものを隠してくれ」
「うえっ、僕も出来ればサーシャの縄の方がいいんだけどなあ。あちゃあ、アンソニー、君のそれ、大変なことになっているぞ」
リングは治癒魔法をかけ、近くにあった毛布をアンソニーの下半身に掛けてやった。
テリィはアンソニーの股間が隠されたことを確認してから、サーシャの目隠しを外した。
サーシャの目が明るさに慣れて来て、テリィとリングの顔を確認すると、サーシャは大粒の涙を流し始めた。
テリィとリングはサーシャの両脇に立って、優しく彼女の肩に手をかけた。
「アンソニー様がこんなことをされるなんて、本当に怖かったです。箱やロープに魔法が効かなくて、アンソニー様に魔法を使ったら両親を殺すって脅されて……」
「もう大丈夫だ」
「安心していいよ」
「そ、それで、魔法を使っていけないなら、蹴飛ばすのはいいかと思って、アンソニー様を思い切り蹴っ飛ばしたら、なんかグニャッて感じがして、アンソニー様が倒れてしまって……。アンソニー様は大丈夫でしょうか?」
テリィとリングは顔を見合わせ、アンソニーを見て、思わず吹き出した。
「大丈夫だよ。痛みでうずくまっているだけだよ。じきに治癒魔法が効いて来て、元通りになるはずさ」
テリィは大粒の涙を流すサーシャのか弱い姿と、男の急所を容赦なく蹴り上げる豪胆な行動とのギャップに琴線を大いに揺さぶられていた。
これほどの女性に出会うのは、これが最初で最後だという確信がテリィに湧き上がって来た。
「おい、アンソニー、お前は俺に喧嘩売ってんのか。サーシャにこれから婚約の申し込みをしようっていうのに、いったいどういうつもりなんだ?」
「ちょっと待ってよ、兄さん。皇太子は勝手に婚約者を決められないだろう。サーシャには僕が婚約を申し込むんだ。師匠とか聖女様とか正直怖いけど、それ以上にサーシャのことが好きなんだ」
リングは今日一日サーシャのために駆けずり回ったが、彼女のために行動することは悦びであった。会ってまだ二日だが、こんなに女性を好きになったのは初めての経験で、このまま兄に渡してしまっては、絶対に後悔する。
「何を言っている? サーシャのような才媛は皇后になるべきだろう。皇太子妃になり、いずれは皇后になるべきなんだ。帝国の未来のためにもな」
「サーシャに国の重責なんて背負わしちゃだめだよ。サーシャはいつまでも自由に魔法の研究に打ち込めた方がいいんだ。兄さんに嫁入りするのは可哀想だよ」
「何だと!?」
「何だよ!?」
サーシャは二人が自分の取り合いを始めたことに動転した。まだ二人のことがよく分からないし、自分はまだ十五歳で、婚約など考えたこともない。
とりあえず何か他に話題をそらせないかと焦っていたら、ちょうどアンソニー王子が逃げているところが目に入った。
初めてアンソニー王子が役に立つわ。
「あ、あの、喧嘩はおやめになってください。それより、アンソニー様がお逃げになられてます」
二人がアンソニーの方を振り向くと、腰をひょこひょこさせながら、必死に逃げて行くアンソニーの後ろ姿が見えた。
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