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スプリング城
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「殿下、サーシャ様の監禁場所が分かりました。郊外の大草原の麓のスプリング城です」
リング皇子が諜報部隊に捜索を依頼したのは、諜報部は王室の主だった人物の動向を常に把握しているからだった。
諜報部隊からアンソニー王子の居場所が、リング、テリィの両皇子にほぼ同時に伝えられた。
すでに公務を切り上げていたテリィ皇子は、大使館からスプリング城に直行した。その途中で、偶然リング皇子と合流することができた。
二人は今、数名の護衛と共に、スプリング城の城門近くにいた。
「城の北に広がるこの草原だが、ひょっとしてミーア草原ではないか?」
テリィは地図を片手に呟いた。
「兄さん、まずいよ。師匠のお屋敷の近くだよ」
リングの顔色が心なしか青くなっている。
「今はマリンの修行のために、帝国にいらっしゃるはずだ。見つかる前に早く片付けるぞ」
「僕たちがきっかけでサーシャが危険な目に遭ったなんて知れたら、殺されちゃうよ」
「それも怖いが、サーシャのことを第一に考えて、早く解放するぞ」
「もちろんだとも。でも、どうやって攻めようか?」
「普通に『帝国の皇子だ、入るぞ』でいいんじゃないか?」
「だよね。抵抗されたら、魔法使えばいいし。でも、兄さん。昨日の夜、師匠と聖女様のことサーシャに話しちゃったでしょう。あれ、師匠たちに許可なく話しちゃって不味かったかな、ってドキドキしてたんだけど、結果的に話しておいて良かったよ」
「そうだな。だが、サーシャには色々といい含めておかないと不味いぞ」
「うん、早く助け出そう」
リングは護衛たちに向き直った。
「お前たちはここで待機でいい。ゾロゾロついて行くと逆に警戒されるからね」
護衛の責任者が敬礼した。
「かしこまりました。何かあればすぐに出られるよう待機しておきます」
「よしっ、行くぞ」
テリィの掛け声で、テリィとリングはまるで散歩をするかのように、門番の方へと近づいて行った。
「止まって下さい。ここは王家所有のスプリング城です。通行許可証はございますか?」
門番は門の前と後ろに二名ずつ四名が配置されていた。門の前の一人がテリィに声を掛けて来た。
「我々は帝国の第一皇子と第二皇子だ。アンソニー王子がいらっしゃるはずだ。お目通り願いたい」
テリィが門番に詰襟のエンブレムを指差した。帝国皇室のエンブレムだ。
「し、しばらくお待ちを」
門番の一人が顔色を変えて、城の方に走って行った。
「どうやら、門番は何も知らされていないみたいだね」
「それはそうだろう。やっていることは誘拐だからな」
テリィとリングがこそこそ話していると、門番が帰って来た。顔が真っ青で震えているようだ。
「お、皇子様は大使館のセレモニーにご出席されておられるはずである。に、偽物は通す訳にはいかん」
完全に声がうわずってしまって、かわいそうな門番だった。
本物と分かっていても、主人の命に従って、行動するしかないのが彼らなのだ。
「うんうん、そう言えって言われたんだね。じゃあさ、質問していいかい?」
リングは門番に警戒することなく近づいて行き、彼の肩をポンポンと叩いた。
「ど、どうぞ」
門番は戸惑いつつも、回答してくれるようだ。
「大きな箱を乗せた護送車はいつ城に入って行った?」
「一時間ほど前です」
「なるほど。じゃあ、王子はいつ城に?」
「三十分ほど前です」
「ありがとう。あそこに僕らの護衛がいるのが見えるかい?」
「はい、見えます」
「じゃあ、あそこでゆっくり眠るといい」
リングがそう言うと、門番たちはふらふらと歩き出した。
「リング、昨日の訓練の成果だな」
「サーシャは天才だよ。最初に普通の会話で注意を向けさせてから催眠魔法を放つと効果が抜群に上がるだなんて、師匠でも考えつかないよ」
「あの才媛を王国に取られないようにしないとな」
「うん、じゃあ、行こうか」
二人は堂々と城の中に入って行った。
リング皇子が諜報部隊に捜索を依頼したのは、諜報部は王室の主だった人物の動向を常に把握しているからだった。
諜報部隊からアンソニー王子の居場所が、リング、テリィの両皇子にほぼ同時に伝えられた。
すでに公務を切り上げていたテリィ皇子は、大使館からスプリング城に直行した。その途中で、偶然リング皇子と合流することができた。
二人は今、数名の護衛と共に、スプリング城の城門近くにいた。
「城の北に広がるこの草原だが、ひょっとしてミーア草原ではないか?」
テリィは地図を片手に呟いた。
「兄さん、まずいよ。師匠のお屋敷の近くだよ」
リングの顔色が心なしか青くなっている。
「今はマリンの修行のために、帝国にいらっしゃるはずだ。見つかる前に早く片付けるぞ」
「僕たちがきっかけでサーシャが危険な目に遭ったなんて知れたら、殺されちゃうよ」
「それも怖いが、サーシャのことを第一に考えて、早く解放するぞ」
「もちろんだとも。でも、どうやって攻めようか?」
「普通に『帝国の皇子だ、入るぞ』でいいんじゃないか?」
「だよね。抵抗されたら、魔法使えばいいし。でも、兄さん。昨日の夜、師匠と聖女様のことサーシャに話しちゃったでしょう。あれ、師匠たちに許可なく話しちゃって不味かったかな、ってドキドキしてたんだけど、結果的に話しておいて良かったよ」
「そうだな。だが、サーシャには色々といい含めておかないと不味いぞ」
「うん、早く助け出そう」
リングは護衛たちに向き直った。
「お前たちはここで待機でいい。ゾロゾロついて行くと逆に警戒されるからね」
護衛の責任者が敬礼した。
「かしこまりました。何かあればすぐに出られるよう待機しておきます」
「よしっ、行くぞ」
テリィの掛け声で、テリィとリングはまるで散歩をするかのように、門番の方へと近づいて行った。
「止まって下さい。ここは王家所有のスプリング城です。通行許可証はございますか?」
門番は門の前と後ろに二名ずつ四名が配置されていた。門の前の一人がテリィに声を掛けて来た。
「我々は帝国の第一皇子と第二皇子だ。アンソニー王子がいらっしゃるはずだ。お目通り願いたい」
テリィが門番に詰襟のエンブレムを指差した。帝国皇室のエンブレムだ。
「し、しばらくお待ちを」
門番の一人が顔色を変えて、城の方に走って行った。
「どうやら、門番は何も知らされていないみたいだね」
「それはそうだろう。やっていることは誘拐だからな」
テリィとリングがこそこそ話していると、門番が帰って来た。顔が真っ青で震えているようだ。
「お、皇子様は大使館のセレモニーにご出席されておられるはずである。に、偽物は通す訳にはいかん」
完全に声がうわずってしまって、かわいそうな門番だった。
本物と分かっていても、主人の命に従って、行動するしかないのが彼らなのだ。
「うんうん、そう言えって言われたんだね。じゃあさ、質問していいかい?」
リングは門番に警戒することなく近づいて行き、彼の肩をポンポンと叩いた。
「ど、どうぞ」
門番は戸惑いつつも、回答してくれるようだ。
「大きな箱を乗せた護送車はいつ城に入って行った?」
「一時間ほど前です」
「なるほど。じゃあ、王子はいつ城に?」
「三十分ほど前です」
「ありがとう。あそこに僕らの護衛がいるのが見えるかい?」
「はい、見えます」
「じゃあ、あそこでゆっくり眠るといい」
リングがそう言うと、門番たちはふらふらと歩き出した。
「リング、昨日の訓練の成果だな」
「サーシャは天才だよ。最初に普通の会話で注意を向けさせてから催眠魔法を放つと効果が抜群に上がるだなんて、師匠でも考えつかないよ」
「あの才媛を王国に取られないようにしないとな」
「うん、じゃあ、行こうか」
二人は堂々と城の中に入って行った。
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