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囚われの身

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「何なのこれ。魔法が効かない」

 私は焦っていた。いつでも逃げ出せると思っていたのだが、そうではなさそうなのだ。

 まず縛られているロープがびくともしない。多少の火傷を覚悟して燃やそうと思っても、火がつかない。

 万一の場合は念波で両親に連絡すればいいと思っていたのだが、念波も妨害されてしまって両親に届かない。

 このまま人知れず、監禁されてしまうのかと不安になって来た。

 王家の本気の力を舐めてしまっていたのかもしれない。いったん婚約を承諾して、後で婚約破棄した方が良かったのかもしれない。

 もう三十分ほど護送車に揺られているが、今はどの辺りなのだろうか。

 そう思っていたとき、護送車が停止した。

 ギギギという門が開くような音が聞こえる。

 私は護送車の上に乗せられた大きな箱の中に入れられているが、どうやらこの箱ごと監禁されるようだ。

 箱から移される隙に魔法で何とかしようと思った目論見も外れてしまった。

 でも、いつか必ずチャンスが来るはずだ。それまでは、軽はずみな行動は慎もう。

***

 リングは学園長室に踏み込んだ。

 留置場は大使館に近いため、兄への報告のついでに、護衛官の一人をルミエールと一緒に向かわせている。

 学園長はリングの表情を見るや否や、いきなり頭を下げて来た。

「申し訳ございません。アンソニー王子に脅されて、殿下にあのような報告しか出来なかったのです」

「学園長、今ならまだ間に合うんじゃないか? サーシャをどこに連れて行った?」

 リング皇子はいつもの軽い口調ではなかった。

「申し訳ございません。私も場所は知らされておりません。留置場ではないです。アンソニー王子は無理矢理サーシャをご自分のものにするおつもりです」

「サーシャの魔法は強力だ。無理矢理なんて無謀だ。下手するとアンソニー王子は死んでしまうぞ」

「魔法耐性のある箱の中に監禁しておりますので、逃げられないはずです。王子は抵抗したら両親の命を取ると脅すおつもりです」

 リングはこいつらは馬鹿なのかと吹き出してしまった。

 学園長がキョトンとしている。

「ははは、それは愉快だ。そんな脅しが効くものか。軍隊を派遣しても彼女の両親に擦り傷一つもつけられるものか」

 リングは安堵しかけたが、サーシャは両親の正体を昨日聞かされたばかりだ。ひょっとするとまだ信じていないかもしれないと思い直した。

 だが、こちらの不安を敵に教える必要はない。

 リングは鋭い視線で学園長を問い詰めた。

「アンソニー王子は何処にいる?」

「殿下が先ほど来られた少し前に、監禁場所へと向かわれました」

 二十分ほど前だ。

「学園長、この二十分が貴様の命取りにならねばいいがな」

 リングはそう言い残して、アンソニー王子の捜索を帝国の諜報部隊に指示した。
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