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王子の執念
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「どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって」
サーシャが連行された後の学園長室で、アンソニー王子は苛立ちを隠さなかった。
「殿下、落ち着いて下さい。サーシャが拒否するとは思いませんでしたが、どちらにしても殿下のものになるのですから」
学園長は薄い頭から流れる汗を拭きながら、王子の機嫌を取りなした。
「護送車は魔法防御されているのだったな」
王子がジロリと学園長を睨んだ。
「はい。いかにサーシャの魔力が強くても、脱出は出来ません。賢者と聖女が力を合わせてようやく破れるかどうかの魔法耐性があります」
賢者と聖女が力を合わせたら、どこの誰だろうと降参するしかない。
「そうか。無理矢理は本意ではないが、一度、俺の女にしてしまえば、考えも変わるだろう」
アンソニー王子がようやく満足して、気味の悪い微笑みを浮かべたとき、学園長室のドアが叩かれた。
「学園長! リング殿下が面会を求めておられます」
職員の一人がドアの向こうで叫んでいる。
「ちっ。もう戻って来たか。予想よりも少し早いな。では、学園長、手筈通りに頼むぞ」
アンソニー王子はそう言い残して、学園長室の裏口から出て行った。
「はい、お任せ下さい」
学園長は王子を見送った後、王子のいた痕跡を消し、帝国の皇子を迎え入れるための準備を整えた。
しばらくして、リング皇子が入って来た。
「学園長、サーシャ嬢を退学処分としたようだけど、理由を教えてくれるかな」
皇子は勧められたソファーに腰掛けると、和やかな口調で話し始めた。
「昨日、殿下たちのご滞在先のホテルにサーシャが入ったというのが理由でございます」
学園長は用意していた回答を口にした。
「僕たちはサーシャ嬢に魔法の訓練をお願いしただけだよ」
「殿下はご存知ないようですが、貴族宿舎への平民の出入りは重大な校則違反でございます。さらに女性が男性の宿舎に入った場合は、即刻退学処分となります。殿下のホテルは宿舎と同じ扱いとなりますゆえ、校則を適用したに過ぎませぬ」
「なるほどね。他国の皇族から招待された場合、最優先で招待に応じるという王室規範よりも、学園の校則が優先するってこと?」
「そ、それは……。サーシャは平民ゆえに王室規範は適用外かと」
「おかしいなあ。貴国の王からは、王室規範は全ての法の源であり、王室規範そぐわない法は無効であると聞いているんだけど」
「も、申し訳ございません。私の勉強不足でございました。サーシャの退学はすぐに取りやめといたします」
「聡明な判断だね。最初からそうすればよかったのに。それで、サーシャは今どこにいるの?」
「恐らく荷物をまとめて、帰省の途中かと……」
動揺したふりをしたが、実はここまでの問答は学園長の想定内であった。学園長はサーシャが監禁されるまでの時間稼ぎをすればよいことになっていた。
「まずいね。すぐに追わなきゃ。ところで、学園長。サーシャに何かあったら、貴方だけではなく、この学園を潰すからね。知らないうちに帝国に喧嘩を売らないように気をつけてね」
しかし、ここまで皇子が強い態度に出ることは想定外だった。
「え? なぜサーシャにそこまで……」
学園長は皇子の二人も美人のサーシャに少し関心を持っただけだと考えていた。
サーシャが田舎に帰ったと知ったら、それで終わりだと思っていたのだ。
「それは今は秘密さ。じゃあ、退学処分の取り消しは速やかに頼むよ」
皇子は急いで学園長室を出て行った。
「私はとんでもない間違いを犯したのではないだろうか……」
残された学園長は早くも後悔し始めていた。
***
リングは、サーシャの足取りを確認しようと、授業中にも関わらず、次々と平民クラスの教室に飛び込んでいった。
「今日、サーシャを見かけた人いる?」
と問いかけても、皆、首を振るばかり。だが、リングはルミエールという娘が一番サーシャと仲が良かったと聞き、彼女が出席しているはずの教室に直行した。
ルミエールは教室に顔を出したリングを見るなり叫んだ。
「皇子様、大変です。サーシャは不敬罪と不貞行為で留置場に連れて行かれました」
「なんだって!? それはまずいぞ。兄さんにも連絡しなきゃ」
サーシャが連行された後の学園長室で、アンソニー王子は苛立ちを隠さなかった。
「殿下、落ち着いて下さい。サーシャが拒否するとは思いませんでしたが、どちらにしても殿下のものになるのですから」
学園長は薄い頭から流れる汗を拭きながら、王子の機嫌を取りなした。
「護送車は魔法防御されているのだったな」
王子がジロリと学園長を睨んだ。
「はい。いかにサーシャの魔力が強くても、脱出は出来ません。賢者と聖女が力を合わせてようやく破れるかどうかの魔法耐性があります」
賢者と聖女が力を合わせたら、どこの誰だろうと降参するしかない。
「そうか。無理矢理は本意ではないが、一度、俺の女にしてしまえば、考えも変わるだろう」
アンソニー王子がようやく満足して、気味の悪い微笑みを浮かべたとき、学園長室のドアが叩かれた。
「学園長! リング殿下が面会を求めておられます」
職員の一人がドアの向こうで叫んでいる。
「ちっ。もう戻って来たか。予想よりも少し早いな。では、学園長、手筈通りに頼むぞ」
アンソニー王子はそう言い残して、学園長室の裏口から出て行った。
「はい、お任せ下さい」
学園長は王子を見送った後、王子のいた痕跡を消し、帝国の皇子を迎え入れるための準備を整えた。
しばらくして、リング皇子が入って来た。
「学園長、サーシャ嬢を退学処分としたようだけど、理由を教えてくれるかな」
皇子は勧められたソファーに腰掛けると、和やかな口調で話し始めた。
「昨日、殿下たちのご滞在先のホテルにサーシャが入ったというのが理由でございます」
学園長は用意していた回答を口にした。
「僕たちはサーシャ嬢に魔法の訓練をお願いしただけだよ」
「殿下はご存知ないようですが、貴族宿舎への平民の出入りは重大な校則違反でございます。さらに女性が男性の宿舎に入った場合は、即刻退学処分となります。殿下のホテルは宿舎と同じ扱いとなりますゆえ、校則を適用したに過ぎませぬ」
「なるほどね。他国の皇族から招待された場合、最優先で招待に応じるという王室規範よりも、学園の校則が優先するってこと?」
「そ、それは……。サーシャは平民ゆえに王室規範は適用外かと」
「おかしいなあ。貴国の王からは、王室規範は全ての法の源であり、王室規範そぐわない法は無効であると聞いているんだけど」
「も、申し訳ございません。私の勉強不足でございました。サーシャの退学はすぐに取りやめといたします」
「聡明な判断だね。最初からそうすればよかったのに。それで、サーシャは今どこにいるの?」
「恐らく荷物をまとめて、帰省の途中かと……」
動揺したふりをしたが、実はここまでの問答は学園長の想定内であった。学園長はサーシャが監禁されるまでの時間稼ぎをすればよいことになっていた。
「まずいね。すぐに追わなきゃ。ところで、学園長。サーシャに何かあったら、貴方だけではなく、この学園を潰すからね。知らないうちに帝国に喧嘩を売らないように気をつけてね」
しかし、ここまで皇子が強い態度に出ることは想定外だった。
「え? なぜサーシャにそこまで……」
学園長は皇子の二人も美人のサーシャに少し関心を持っただけだと考えていた。
サーシャが田舎に帰ったと知ったら、それで終わりだと思っていたのだ。
「それは今は秘密さ。じゃあ、退学処分の取り消しは速やかに頼むよ」
皇子は急いで学園長室を出て行った。
「私はとんでもない間違いを犯したのではないだろうか……」
残された学園長は早くも後悔し始めていた。
***
リングは、サーシャの足取りを確認しようと、授業中にも関わらず、次々と平民クラスの教室に飛び込んでいった。
「今日、サーシャを見かけた人いる?」
と問いかけても、皆、首を振るばかり。だが、リングはルミエールという娘が一番サーシャと仲が良かったと聞き、彼女が出席しているはずの教室に直行した。
ルミエールは教室に顔を出したリングを見るなり叫んだ。
「皇子様、大変です。サーシャは不敬罪と不貞行為で留置場に連れて行かれました」
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