私、平民の娘ですが、皇子様とご縁があるようです

もぐすけ

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テリュースラルーシ

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「よく来てくれた。ローブを預かろう」

 魔道車から出る私に手を貸してくれたのは兄の方だった。

 大きな力強い手で、私を気遣いながら、優しくゆっくりと手助けしてくれた。

 この兄弟に共通するところは、女性に非常に優しく紳士的に接するところだ。

「すいません」

 ローブを預かってもらうなど滅相もないのだが、ここには皇子二人しかおらず、私は恐縮しながら、ローブをお渡しした。

「そんなに畏まるな。私はテリュースラルーシだ。テリィでいい」

「テリィ様、よろしくお願いします。サーシャです」

「サーシャ、早速だが、お前の魔法を見てみたい。こちらに来てくれるか」

「兄さんはせっかちだな」

 リングが苦笑している。

「お前も早く見たいだろう?」

「そうだけどさ」

「さあ、こちらに来てくれ。まずは得意な魔法を見せてくれないか?」

 私は請われるがまま、雷系の魔法を標的に向けて放った。

「むう、凄いな」

 ただ単に初歩的な電撃を披露しただけなので、どこが凄いのか自分ではよく分からなかった。

「兄さん、本物だね」

「素晴らしいの一言だ。さすがエストラーゼ家のご令嬢だ」

「え? 我が家をご存知なのですか?」

「ああ、もちろんだ。王国で平民のふりをしているとは思わなかったが、師匠は変人だからな」

「平民のふり? 師匠?」

「さては何も聞いておらぬのか。師匠は面倒臭さがり屋だからな。お前のお父上は我ら兄弟の魔法の師匠だ。母上には我らの妹をご指導して頂いている。師匠は訳あって王国暮らしだが、帝国では公爵位だ」

 思いもよらぬ父の正体に私は絶句した。でも、父はずっと家にいたはずだ。帝国の皇子に魔法を教えることなど出来るはずがないのだが。それに母まで皇女様に教えているなんて、不可能だと思う。

「サーシャ、その辺りの話は後でゆっくりと食事をしながら話そう。ここではもう少し魔法を見せてくれないか?」

 兄弟は二人とも非常に魔法に熱心で、私の魔法をべた褒めして、教えて欲しいとせがんで来た。

 私は私と同じぐらい魔法好きの二人に親近感を覚えて、二人の魔法を見せてもらった。

「どうだ? どこを直すといい? 遠慮なく言ってくれ」

 テリィの魔法は豪快だが、練度が不十分なような気がした。

「間違っているかもしれませんが、思ったことを述べさせてもらいます。テリィ様が魔法を放つタイミングですが、もう一息遅らせてみてはいかがでしょうか」

「何だと? 早めるのではなく、遅くするのか」

「はい。その方が魔法の初速が速くなり、結果的には標的への到達速度も威力も改善されるはずです」

「なるほど、思ってもみなかったな。早速試してみよう」

 テリィは嬉しそうに頷いて、標的に向かって次々と魔法を放った。

「タイミングを変えるのは難しいので、しばらくしっくり来ないと思いますが」

 と思ったのだが、テリィは瞬く間にコツを掴んだようだ。

「凄いぞ。俺の魔法とは思えないほどのスピードと威力だ。なあ、他にも直すところはないか?」

「兄さんばかりずるいよ。僕にも教えて欲しい」

 こんな感じで、私はヘトヘトになるまで二人の魔法の鍛錬に付き合わされたのだった。

「おお、もうこんな時間か。続きは明日にしよう」

 え? 明日もするの?

「師匠から許可は頂いているからな。留学期間中の三ヶ月間、しっかりと付き合ってもらうぞ」

「サーシャ、一流料理を毎晩ご馳走するから、よろしく頼むよ。僕たちは君と一緒に魔法の訓練をするのを楽しみにしていたんだ」
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