私、平民の娘ですが、皇子様とご縁があるようです

もぐすけ

文字の大きさ
上 下
3 / 17

帝国の皇子たち

しおりを挟む
 私は数週間ぶりに授業に戻った。

 実技は学ぶものがないのだが、魔法理論は学ぶべきことが多いので、早く授業に戻りたかった。

 すっかり元通りになった私を皆は喜んで迎えてくれた。

 ただ、諦めてくれたかと思っていたアンソニー王子が、朝から纏わりついてきて閉口した。

 国王陛下から叱られたのはフランソワ王女だけで、アンソニー王子は王女を止めようとしたということで、逆に褒められたようなのだ。

「アンソニー様とお言葉を交わすと、フランソワ様に罰せられます。ご容赦ください」

「妹はもうサーシャ嬢には手出ししない。そなたは私の側妃に迎え入れることにしたのだからな」

 は? 何を言っているのだ。このおめでたい男は。

「おたわむれを。平民の私にそのような栄誉を受ける資格はございません」

 王族に嫁げるのは貴族だけという決まりがある。

「サーシャ嬢の成績であれば、魔法使い認定は確実であろう。さすれば、貴族になるではないか。私に嫁ぐことができるのだ。喜ばしいことであろう?」

 魔法使いに認定されると、一代限りではあるが、貴族に叙される。

 王子に嫁ぐことを夢見る女性は多いと思うが、王子によると思う。

 アンソニー王子の容姿は悪くはないが、傲慢で卑怯で、女性をアクセサリの一つと勘違いしているような男の嫁になどなりたくはない。

 地位とお金があるなら、まだ考える余地はあるが、小国の第三王子ではたかが知れている。

 こんな男、十点満点で二点だ。

「では、魔法使い認定されましたとき、まだ私にご興味がおありでしたら、そのときにお話しくださいませ」

 とりあえず、拒否したことにはならないので、満足して頂いたようだ。やっと王子が、自分の教室に戻って行ってくれた。

 王子が私に興味を持ったきっかけも、あの投票のせいだ。本当に迷惑な話だ。

 でも、魔法使いにならなければ問題はない。私は魔法使い認定など要らないし、貴族にも興味はない。

 私はただ魔法の真理をとことん追求したいだけだ。

 王子の邪魔が入って一限目の授業には出席することが出来ず、復帰初日の授業は二限目からとなった。

 二限目の授業の教室に急いで移動しているときに気づいたのだが、何だか校舎がやけに騒がしい。

 女子たちの黄色い声が聞こえて来るのだが、どうやら帝国の皇子二人が平民校舎に来ているようだ。

 私が二限目の教室に入り、一番後ろの席について、授業の準備をしていると、帝国皇子の兄の方が私たちの教室に入って来た。

 教室の女子たちから、歓喜の声が湧き上がる。

 聞いていた通りのクールな美形だ。

 身長が高く、帝国でも珍しい黒髪で、青い涼しげな目をした端正な顔立ちをしている。

 女子が騒ぐだけのことはある。

 続いて弟の方が入って来た。

 私は目を疑った。なんて綺麗な男なのだろうか。

 女子たちの声は絶叫に変わっていた。

 兄とは全く異なる雰囲気の金髪碧眼の美しい顔立ちをしている。

 優しく微笑むような眼差しに、あまり男子に興味がなかった私もドキドキしてしまった。

 兄が教壇に立ち、弟の方はドアから少し入ったところで壁にもたれ、腕を組んで教室内を見回している。

「サーシャ・エストラーゼ嬢が、今日から登校していると聞いた」

 兄の方が口を開いた。

 教室の女子全員が、一斉に私の方を振り向いた。

「兄さん、多分あの子だ」

 弟の方が間違いなく私を指さしている。

 私は何が起きているのか全く分からなかった。

「ほう、お前がサーシャか。学園一の魔法使いと聞いている。一度手合わせをしたい。今日の放課後、迎えの馬車を送る」

 そう言い残して、兄の方は私の返事も聞かずに、教室を出て行ってしまった。

 弟の方は私に軽くウィンクして、微笑んでから、兄の後に続いた。

 彼らには私が行くことは決定事項のようだ。教室の特に女子たちからの視線が痛い。

 兄弟と入れ違いに入って来た三限目の若い男の先生が、酷くみすぼらしく見えて、お気の毒だった。

 三限目の授業中、ずっとそわそわしていた女子たちが、授業が終わると同時に、私の席に殺到した。

「どういうご関係なの?」

「今日行くの?」

「私も連れて行って」

 あー、うるさい! 私は静かに魔法を勉強したいだけなのに……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

【完結】王太子の求婚は受け入れられません!

みやちゃん
恋愛
生まれたときから魔力が強く、王城で育ったレイシア 育ててもらった恩もあり、一生この国を守ることを決めていた。 魔法使いとして生きていくことをレイシアは望み、周りの人たちもそうなるものだと思っていた。 王太子が「レイシアを正妃とする」と言い出すまでは‥

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

転生した乙女ゲームの悪役令嬢の様子がおかしい!

公爵 麗子
恋愛
転生して、見事にヒロインになることができたミア。 平民でありながら魔力適性を持っていて、途中で貴族に引き取られ令嬢として生きてきた。 悪役令嬢のエリザベート様に目をつけられないように、学園入学まで鍛えてきましたの。 実際に学園に入学して見ると、悪役令嬢の様子がおかしい…?

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

命がけの恋~13回目のデスループを回避する為、婚約者の『護衛騎士』を攻略する

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<死のループから抜け出す為、今から貴方を攻略させて頂きます。> 全く気乗りがしないのに王子の婚約者候補として城に招かれた私。気づけば鐘の音色と共に、花畑の中で彼の『護衛騎士』に剣で胸を貫かれていた。薄れゆく意識の中・・これが12回目の死であることに気づきながら死んでいく私。けれど次の瞬間何故かベッドの中で目が覚めた。そして時間が戻っている事を知る。そこで今度は殺されない為に、私は彼を『攻略』することを心に決めた―。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...