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厄介な王族

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 生まれた時から魔法に囲まれて育って来た。

 魔法が好きで、勉強が嫌いな私は、全ての時間を魔法のために使った。

 同世代の子供たちが遊んでいるのを横目に、厳しい魔法の訓練を続けて来たのだ。

 違う。厳しいだなんて思ったことはない。遊んでいる子供たちを羨ましいと思ったこともない。

 私は魔法が好き。魔法こそ私の人生。

 そして、私は十五歳になり、魔法学の最高峰である王立魔法学園に入学することが出来た。

 夢にまで見た魔法学園での生活。

 しかし、アホな男どもと性悪王女と勘違い王子のせいで、私の楽しいはずの学園生活は暗澹たるものとなってしまった。

 今日は実技授業の日だ。

 実技以外は貴族と平民は校舎も宿舎も別々だが、実技だけは、男女別々で貴族と平民が一緒に授業を受ける。
 
 実技の授業が始まった途端に、フランソワ王女が腰巾着の侯爵令嬢二人を連れて、私に近づいて来る。

 今日はどんな難癖をつけられるのだろうか。

「サーシャ、今、生意気な目で私を見なかった?」

 またこれか。クラスの誰かが言っていたが、町のチンピラが因縁をつけてくるやり方と同じだそうだ。

「フランソワ様、平民の私が御身を見るなど許されないことです。このように常に目を伏しております」

「ふん、アンソニー兄様に色目を使うその目は、焼いてしまった方が王国のためよ。私の火魔法を無抵抗で受けなさい」

 言ってることが無茶苦茶だが、当の本人は大真面目だから始末に負えない。

「王子様に色目を使うなど、滅相もございません。ご容赦ください」

「御託はいいわ。王国のため、魔女の目は焼いてしまいましょう。お前たち、動かないようにしなさい」

 今回は割と本気のようだ。さて、どうしようか。

 うん、目が焼けたフリをしよう。

 私は両脇を侯爵令嬢二人に挟まれた。

 教師は責任を取らされるのが嫌なのだろう。いつの間にか消えてしまっている。

 他の生徒たちは見て見ぬふりをして、実技の練習を続けていた。

 私が王女の標的にされるのは、バカな男子たちの人気投票のせいだ。

 今年の新入生の一番人気は私、次にアンで、王女様が三位という結果だったのだ。

 二位のアンも平民だったのだが、実技の授業で王女の火魔法を顔に受けてしまい、大火傷を負った。

 事故ということになっているが、至近距離からアンの顔面に向けて王女が魔法を放ったところを何人かが目撃している。

 アンの美しい金髪もそのときに燃えてしまい、治癒魔法で髪と傷が元に戻るまで一カ月もかかり、その間、彼女は醜い容姿を晒すことになった。

 幸いにも彼女の顔の傷も髪も完治したが、心の傷は治らず、アンはすっかり怯えてしまい、遂には退学してしまった。

 実は私も何度か王女から魔法攻撃を受けているが、彼女程度の魔法は容易にかわせるので、今のところは無事でいる。

 教師には何度も報告したのだが、王女には手が出せないようだ。

 でも、よく考えて欲しい。こんな馬鹿げた投票で、王女に一票を入れるのは、なかなかに勇気がいる。

 その点をフランソワ王女には説明して、本当は王女様が一番なのですと、一時は納得して頂いたのだが、またぶり返して来て、一体どうされたいのだろうか。

 私は覚悟を決めた。やらせてしまおう。そうすれば、終わりになるだろうから。

 私は間違って失明してしまわないように顔全体に火耐性を施した。

「おい、フランソワ何をしている」

 絶妙のタイミングで、アンソニー王子が介入して来た。男子クラスから騒ぎを聞きつけたという。

「お、お兄様!?」

 何だかわざとらしい驚き方だ。なるほど、そういうことか。兄妹の茶番が始まった。

 王子からはあの手この手で言い寄られてウンザリしているのだが、こういう手で来たか。

「平民といえど、裁判なしの体罰は禁止されていることは、お前も知っているはずだろう」

「サーシャは不敬罪なのです。不敬罪はその場で懲罰出来ますわ、お兄様」

「なんと、サーシャ嬢、貴殿は我が妹に不敬を働いたのか!?」

 これまた白々しい驚き方だ。実技の授業中は不敬罪は適用されないはずだが、無視しているのか、忘れているのか。いずれにしろ、私はこの茶番に付き合うしかないようだ。

「いいえ、アンソニー様、不敬を働いてはございませんが、フランソワ様がそのようにお感じでしたら、目を焼かれても仕方ないと思います。どうぞ焼いて下さいまし」

 私が平気でいるのが、二人には計算違いだったようだ。大方、私が王子に救いを求めるとでも思っていたのであろう。

「そんなこと言って、またいつものように避けるのでしょう?」

 あら、王女様、墓穴掘ってるわ。

「いつものようにとはどういうことでございましょうか? 王女様はいつも私を攻撃されておられましたでしょうか?」

「そ、そんなことないわよ。あなたは魔法の回避が上手だと言っただけよ」

「サーシャ嬢、そういう発言が不敬罪に当たるのではないか?」

「申し訳ございません。覚悟はできております。目を焼いて下さいまし」

 さて、この二人、どこを落としどころとするのだろうか。

「目を焼くのはやり過ぎだぞ、フランソワ。ここは兄に任せてくれないか」

「分かりましたわ。お兄様にお任せします」

「では、独房で反省という形にしよう。サーシャ嬢、ついてまいれ」

 そう来たか。王子にここまで執拗に狙われたら、平民としては屈服するしかないが、こんな男に操は捧げたくはない。

「いいえ、不敬を働いた私めは、目を焼かれるべきでございます。お手を煩わせないよう、自身で焼きます。お許し下さいませ」

 そう言って私は自ら自身の顔に炎魔法を放ち、ううう、とうめきながら、焼きただれた顔を二人に見せた。

「い、いかがでございましょうか。これにてお許しいただけますでしょうか」

 実は幻影魔法でそう見せているだけなのだが、恐らく幻影魔法の存在を知らないであろう二人は、驚いて絶句してしまっている。

 流石にここまで理不尽な対応を強いる王女と王子に周囲もざわつき始めた。

「申し訳ございません。このような醜い顔をこれ以上お見せする訳には参りませぬゆえ、本日は下がらせて頂きます」

 私はそう言って教室を後にした。
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