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レミ山脈越え
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「レミ山脈は五千メートル級の山々が連なりますので、越えるのは一苦労です」
王が竜王国への入国方法について説明をし始めた。
「素人には越えられないんじゃ……」
私には山は怖いというイメージがあった。五千メートルなんて、富士山よりも高いし。
「一番低い二千メートルのゼツ峠を目指します」
(ロープウェイとかはないわよね。翻訳できる単語が分からないわ)
だが、実際に登り始めてみて、自分の体に感心した。山登りがまるで苦しくなく、全く疲れないのだ。
竜王国と王国とは正式な国交はないため、旅人も行商人も山にはいない。放牧生活している住人がいるとのことだが、出会うこともない。
「素晴らしい景色だわ」
スイスでマッターホルンの登山電車に乗ったことがあるが、まさにあのときの風景が眼前に広がっていた。
エルフの森でも感じたが、とにかく空気がきれいで、気持ちがいい。空は快晴で真っ青で澄み渡っていて、地上は草原が広がり、ところどころに咲いている色とりどりの花が美しい。春の陽気で、まるでピクニックをしているような気分だ。
全員体力には自信があるようで、休む間もなく、ものすごい速さで登って行く。朝八時に出て、昼の十二時には山頂に着いてしまった。
頂上からの眺望は素晴らしかった。王国側は緑の草原が広がり、遠くに王都の市街地が見える。一方、竜王国は黒茶色一色の草木が一本も生えない荒野が延々と続いている。
「竜王国のほとんどが溶岩に覆われた大地なんです」
王が説明してくれた。
以前行ったことのあるアイスランドで、同じような景色を見たことを思い出した。
「龍は何を食べてるの?」
「地中に埋まっている鉱物と地下水です。龍の都市は地下に建設されていますので、地表はご覧のように溶岩一色です」
「龍というのは、我々とは全く違う生物なのね」
「はい。我々とは作りも考え方もまるで違います。それに非常に保守的で変化を嫌います」
「話の分からない頑固親父って感じです」
ミルシラの意見だが、言い得て妙かもしれない。
「話し合っても無駄ですので、お互いやりたいことをやって来ましたが、我々を滅亡させようとするとは想定外でした」
「でも、気に食わないからって、滅亡させるかしら?」
「ひょっとすると人口を減らしたかっただけで、あるタイミングでエルフ王を解放するつもりなのかもしれません。でも、彼らの計画に付き合うつもりはないです」
「エルフも同意します」
「分かったわ。食事を済ませて、竜王国に入国しましょうか」
お昼はミルシラの家臣たちが準備してくれた草団子ようなお団子を頂いた。
「美味しいっ」
この世界の食べ物は本当に美味しいと思う。日本食と比べても遜色ない。
「ありがとうございます。神人様に喜んでいただけるなんて、エルフの料理人たちも誇りに思うことでしょう」
お団子を五つもペロリとたいらげ、私は下山を開始した。山登りは下山する方が、難しく疲れるというが、我々は登り以上のスピードで一気に麓まで下り切った。
「あっという間だったわね。でも、龍を全く見かけないわね」
「そうですね。下山中に見つかる可能性を考えておりましたが。それに、スイたちを襲った部隊も見当たりません」
「ここから首都に向かうのよね」
「はい、三百キロほどあります。ここから一週間ほどです。竜王国で怖いのは食料がなくなることです。ここには石と水しかありませんし、龍はまるで砂のようで食べられません。一人が食糧を持つのは危険ですので、それぞれに二ヶ月分の干し肉を渡します。エリカ様、どうぞ」
王はこんな重いものをこれまで私の分も背負って来たのか。中学生少女の体つきで。
「王様、ありがとう」
私は王を優しくハグした。
「い、いえ、当然のことをしたまでです」
王が真っ赤になって慌てている。
勝手に召喚されて最初は腹も立ったが、彼らの親切な対応に、私は徐々に心を許し始めていた。
竜王国の首都までの一週間の旅は、とても楽しかった。一緒に旅をしているうちに、王様とスイはやはり男だと思った。
夜は星が綺麗で、こっちの星座の話を王から色々聞くことができて面白かった。
途中で湖があり、恐らくチヨメはここに沈められたのだとミルシラが悲痛な顔をして語った。チヨメはエルフに心底崇拝されていることがよく分かった。我々は湖に向かって黙祷した。
そして、一週間後、大地にぽっかりと開いた大きなクレーターのような窪地が見えて来た。空を何体かのドラゴンが飛行している。
ここは荒地で身を隠すものは何もない。私たちは堂々と首都に向かって歩いて行った。
すると、上空を旋回していたドラゴンが二頭、急旋回して我々に向かって来た。
これから、長い長い鬼ごっこが始まる。
王が竜王国への入国方法について説明をし始めた。
「素人には越えられないんじゃ……」
私には山は怖いというイメージがあった。五千メートルなんて、富士山よりも高いし。
「一番低い二千メートルのゼツ峠を目指します」
(ロープウェイとかはないわよね。翻訳できる単語が分からないわ)
だが、実際に登り始めてみて、自分の体に感心した。山登りがまるで苦しくなく、全く疲れないのだ。
竜王国と王国とは正式な国交はないため、旅人も行商人も山にはいない。放牧生活している住人がいるとのことだが、出会うこともない。
「素晴らしい景色だわ」
スイスでマッターホルンの登山電車に乗ったことがあるが、まさにあのときの風景が眼前に広がっていた。
エルフの森でも感じたが、とにかく空気がきれいで、気持ちがいい。空は快晴で真っ青で澄み渡っていて、地上は草原が広がり、ところどころに咲いている色とりどりの花が美しい。春の陽気で、まるでピクニックをしているような気分だ。
全員体力には自信があるようで、休む間もなく、ものすごい速さで登って行く。朝八時に出て、昼の十二時には山頂に着いてしまった。
頂上からの眺望は素晴らしかった。王国側は緑の草原が広がり、遠くに王都の市街地が見える。一方、竜王国は黒茶色一色の草木が一本も生えない荒野が延々と続いている。
「竜王国のほとんどが溶岩に覆われた大地なんです」
王が説明してくれた。
以前行ったことのあるアイスランドで、同じような景色を見たことを思い出した。
「龍は何を食べてるの?」
「地中に埋まっている鉱物と地下水です。龍の都市は地下に建設されていますので、地表はご覧のように溶岩一色です」
「龍というのは、我々とは全く違う生物なのね」
「はい。我々とは作りも考え方もまるで違います。それに非常に保守的で変化を嫌います」
「話の分からない頑固親父って感じです」
ミルシラの意見だが、言い得て妙かもしれない。
「話し合っても無駄ですので、お互いやりたいことをやって来ましたが、我々を滅亡させようとするとは想定外でした」
「でも、気に食わないからって、滅亡させるかしら?」
「ひょっとすると人口を減らしたかっただけで、あるタイミングでエルフ王を解放するつもりなのかもしれません。でも、彼らの計画に付き合うつもりはないです」
「エルフも同意します」
「分かったわ。食事を済ませて、竜王国に入国しましょうか」
お昼はミルシラの家臣たちが準備してくれた草団子ようなお団子を頂いた。
「美味しいっ」
この世界の食べ物は本当に美味しいと思う。日本食と比べても遜色ない。
「ありがとうございます。神人様に喜んでいただけるなんて、エルフの料理人たちも誇りに思うことでしょう」
お団子を五つもペロリとたいらげ、私は下山を開始した。山登りは下山する方が、難しく疲れるというが、我々は登り以上のスピードで一気に麓まで下り切った。
「あっという間だったわね。でも、龍を全く見かけないわね」
「そうですね。下山中に見つかる可能性を考えておりましたが。それに、スイたちを襲った部隊も見当たりません」
「ここから首都に向かうのよね」
「はい、三百キロほどあります。ここから一週間ほどです。竜王国で怖いのは食料がなくなることです。ここには石と水しかありませんし、龍はまるで砂のようで食べられません。一人が食糧を持つのは危険ですので、それぞれに二ヶ月分の干し肉を渡します。エリカ様、どうぞ」
王はこんな重いものをこれまで私の分も背負って来たのか。中学生少女の体つきで。
「王様、ありがとう」
私は王を優しくハグした。
「い、いえ、当然のことをしたまでです」
王が真っ赤になって慌てている。
勝手に召喚されて最初は腹も立ったが、彼らの親切な対応に、私は徐々に心を許し始めていた。
竜王国の首都までの一週間の旅は、とても楽しかった。一緒に旅をしているうちに、王様とスイはやはり男だと思った。
夜は星が綺麗で、こっちの星座の話を王から色々聞くことができて面白かった。
途中で湖があり、恐らくチヨメはここに沈められたのだとミルシラが悲痛な顔をして語った。チヨメはエルフに心底崇拝されていることがよく分かった。我々は湖に向かって黙祷した。
そして、一週間後、大地にぽっかりと開いた大きなクレーターのような窪地が見えて来た。空を何体かのドラゴンが飛行している。
ここは荒地で身を隠すものは何もない。私たちは堂々と首都に向かって歩いて行った。
すると、上空を旋回していたドラゴンが二頭、急旋回して我々に向かって来た。
これから、長い長い鬼ごっこが始まる。
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