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竜王国に行くことになりました
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竜王国は王国の北のレミ山脈を超えた先に広がる荒野の地にあり、ドワーフ国、王国、エルフ国の三つの人族の国と国境を接していた。
私たちはいったんエルフ国を出て、テントで待っているスイとモクと合流するつもりだったが、森の入り口で、モクがエルフたちと揉めているところに出くわした。
「モク、何をしているの?」
「あ、エリカ様、正体不明の部隊が突然襲って来ましたの。スイが殺されてしまいますわっ」
ダさんに別れの挨拶をして、急いでテントの場所まで駆けつけると、テントはぐちゃぐちゃになっており、スイが見るも無惨な姿で殺されていた。
「昨日まで元気だったのに。こんなに人はあっけなく死ぬものなの……?」
私がショックを受けていると、スイの手がかすかに動いた。
「せ、拙者、生きております……」
「エリカ様、治癒を!」
王が慌てて叫んだ。
「分かったわ」
私は浄化と治癒の奇跡を発動させた。スイの傷がビデオを巻き戻したように治って行き、完全に元通りになった。
「す、すごい、すごいですっ、エリカ様」
王は興奮して、大喜びだ。
スイは起き上がるとすぐに私の前に跪いた。
「エリカ様、ありがとうございます。モク殿がエリカ様に助けを求めに、エルフの森に入って行ってしまったでござる」
「モクは連れて来ているわよ。安心して」
モクが私の後ろから顔を出した。
「スイさん、私、何もできなくて、申し訳ございませんでしたわ」
スイが心からホッとした顔をした。
「そんなことはないでござる。何度も敵から守ってもらったでござる」
敵は三人いたらしい。モクには守護がかかっていたため、敵はモクには全く傷をつけられず、スイを狙い撃ちする方針に変更したが、モクが間に入って、敵を必死になって撹乱したようだ。それでも敵の手数が多く、スイは少しずつ傷が増えていったらしい。
敵とは三十分ほどの戦闘だったようだが、敵が撤退したときは、まだスイは元気に戦えていたという。どうやら毒を受けたようで、毒が回って突然倒れてしまい、モクが慌てて私に助けを求めにいったところに、我々が遭遇したということだった。
「竜王国と正面きって戦えば、仮に勝てたとしても甚大な被害を受けるでしょう」
王は龍人が犯人だと決めつけていた。
「勝てるの?」
「両者ともに戦闘員の場合、龍人の形態であれば、五人で戦えば勝てます。ドラゴンの形態だと二十四人で互角です。ただ、空を飛ばれると手の出しようがないです」
「竜王国の人口は?」
「一万ほどです。人間はこの十年で二百万ほど減って、現在、二千万人ほどです。竜王国も人口比を恐れて、正面から攻撃して来ないのです」
「となると、作戦は一つしかないかもね。守護をかけた状態で四人で突入して、エルフの王と妃に守護をかけて連れ帰るの」
「それで大丈夫でしょうか?」
「正直分からないわ。龍人の強さがさっきの説明でもよく分からないの」
「少なくとも私は指一本触れられなかったですわ」
「エリカ様、拙者に守護をかけてみてくださいますか。少し試してみたいことがあるでござる」
「いいわよ。はい」
「なるほど。全く保護されている感覚がござらぬな。ふん」
スイが剣で燭台のロウソクを切ろうとしたが、剣がロウソクを通過してしまった。
「これは何たることでござるか!?」
「守護は時空をずらす結界を張ることなのよ。結界の中は時間も場所も違うから、攻撃も受けないし、攻撃も出来ないの」
「会話はできるのですか?」
王が不思議そうにたずねた。
「時間も空間もほんのわずかだけズレているから会話に影響はないのよ。実は大きくズラすこともできるのよ。やってみせるね」
私は自分自身に大きめに守護をかけた。
「声聞こえるかな?」
一瞬間があって、王が頷いた。
「聞こえますが、エリカ様のお口の動きとズレてお声が聞こえて来ました。どういうカラクリでしょうか」
「口の動きは光の速度で見えるから、リアルタイムで見えるけど、声は秒速三百四十メートルだから、音が伝わるまで時間がかかるのよ。光は音のおよそ百万倍の速さだから、口の動きと声がズレて聞こえるのよ」
「エリカ様、ひょっとして『守護』は無敵ではないのでしょうか!?」
「結界が張られている限りはね。結界を破る強者がいるかもしれないわ」
「そんな強者がいるのでしょうか?」
「いると見て動くべきだと思うわ」
「しかし、のんびりとはしていられません。恐らく龍人たちは王である私の動きを見張っていたのだと思います。エルフと会ったことも知られたでしょう。エルフたちにも何か仕掛けてくるかもしれないです」
「ミルシラ王女も連れて来るべきだったかしら」
「そうですね。呼びましょう」
国境のエルフに伝言しようとしたところ、ダさんがまだ国境で待機していた。ミルシラ王女から国境で待機しているようにと命令を受けていたという。
「かしこまりました。王女をお呼びして来ます」
ということで、五人で行くという流れになってしまったのだが、私は一人で行った方がいいように思えて来た。
「皆んなに守護だけかけて、私一人で行くってのはどうかな」
との私の発言に対して、全員が猛反対した。ダさんまで反対意見を言っている。
(ダさんは早く王女を呼んできなさいよっ)
まず、地理に不案内な私一人では、目的地に到着できないのではないか、と言われた。だが、エルフ王の監禁場所は、そもそも誰も知らないのではないか。
次に、私は守ることしか出来ないから、攻撃できる仲間が必要だと言うが、守護に守られている間は、誰も攻撃出来ないではないか。
どうもこの人たちは、いざとなったら、私を命懸けで守るような気がして怖いのだ。
だが、人の決意はそう簡単には変わらないし、決意を受け止めるのが礼儀のような気もする。
(私が頑張って皆んなを守らないと)
転生してまだ三日目なのに、龍との対決が確定した。
私たちはいったんエルフ国を出て、テントで待っているスイとモクと合流するつもりだったが、森の入り口で、モクがエルフたちと揉めているところに出くわした。
「モク、何をしているの?」
「あ、エリカ様、正体不明の部隊が突然襲って来ましたの。スイが殺されてしまいますわっ」
ダさんに別れの挨拶をして、急いでテントの場所まで駆けつけると、テントはぐちゃぐちゃになっており、スイが見るも無惨な姿で殺されていた。
「昨日まで元気だったのに。こんなに人はあっけなく死ぬものなの……?」
私がショックを受けていると、スイの手がかすかに動いた。
「せ、拙者、生きております……」
「エリカ様、治癒を!」
王が慌てて叫んだ。
「分かったわ」
私は浄化と治癒の奇跡を発動させた。スイの傷がビデオを巻き戻したように治って行き、完全に元通りになった。
「す、すごい、すごいですっ、エリカ様」
王は興奮して、大喜びだ。
スイは起き上がるとすぐに私の前に跪いた。
「エリカ様、ありがとうございます。モク殿がエリカ様に助けを求めに、エルフの森に入って行ってしまったでござる」
「モクは連れて来ているわよ。安心して」
モクが私の後ろから顔を出した。
「スイさん、私、何もできなくて、申し訳ございませんでしたわ」
スイが心からホッとした顔をした。
「そんなことはないでござる。何度も敵から守ってもらったでござる」
敵は三人いたらしい。モクには守護がかかっていたため、敵はモクには全く傷をつけられず、スイを狙い撃ちする方針に変更したが、モクが間に入って、敵を必死になって撹乱したようだ。それでも敵の手数が多く、スイは少しずつ傷が増えていったらしい。
敵とは三十分ほどの戦闘だったようだが、敵が撤退したときは、まだスイは元気に戦えていたという。どうやら毒を受けたようで、毒が回って突然倒れてしまい、モクが慌てて私に助けを求めにいったところに、我々が遭遇したということだった。
「竜王国と正面きって戦えば、仮に勝てたとしても甚大な被害を受けるでしょう」
王は龍人が犯人だと決めつけていた。
「勝てるの?」
「両者ともに戦闘員の場合、龍人の形態であれば、五人で戦えば勝てます。ドラゴンの形態だと二十四人で互角です。ただ、空を飛ばれると手の出しようがないです」
「竜王国の人口は?」
「一万ほどです。人間はこの十年で二百万ほど減って、現在、二千万人ほどです。竜王国も人口比を恐れて、正面から攻撃して来ないのです」
「となると、作戦は一つしかないかもね。守護をかけた状態で四人で突入して、エルフの王と妃に守護をかけて連れ帰るの」
「それで大丈夫でしょうか?」
「正直分からないわ。龍人の強さがさっきの説明でもよく分からないの」
「少なくとも私は指一本触れられなかったですわ」
「エリカ様、拙者に守護をかけてみてくださいますか。少し試してみたいことがあるでござる」
「いいわよ。はい」
「なるほど。全く保護されている感覚がござらぬな。ふん」
スイが剣で燭台のロウソクを切ろうとしたが、剣がロウソクを通過してしまった。
「これは何たることでござるか!?」
「守護は時空をずらす結界を張ることなのよ。結界の中は時間も場所も違うから、攻撃も受けないし、攻撃も出来ないの」
「会話はできるのですか?」
王が不思議そうにたずねた。
「時間も空間もほんのわずかだけズレているから会話に影響はないのよ。実は大きくズラすこともできるのよ。やってみせるね」
私は自分自身に大きめに守護をかけた。
「声聞こえるかな?」
一瞬間があって、王が頷いた。
「聞こえますが、エリカ様のお口の動きとズレてお声が聞こえて来ました。どういうカラクリでしょうか」
「口の動きは光の速度で見えるから、リアルタイムで見えるけど、声は秒速三百四十メートルだから、音が伝わるまで時間がかかるのよ。光は音のおよそ百万倍の速さだから、口の動きと声がズレて聞こえるのよ」
「エリカ様、ひょっとして『守護』は無敵ではないのでしょうか!?」
「結界が張られている限りはね。結界を破る強者がいるかもしれないわ」
「そんな強者がいるのでしょうか?」
「いると見て動くべきだと思うわ」
「しかし、のんびりとはしていられません。恐らく龍人たちは王である私の動きを見張っていたのだと思います。エルフと会ったことも知られたでしょう。エルフたちにも何か仕掛けてくるかもしれないです」
「ミルシラ王女も連れて来るべきだったかしら」
「そうですね。呼びましょう」
国境のエルフに伝言しようとしたところ、ダさんがまだ国境で待機していた。ミルシラ王女から国境で待機しているようにと命令を受けていたという。
「かしこまりました。王女をお呼びして来ます」
ということで、五人で行くという流れになってしまったのだが、私は一人で行った方がいいように思えて来た。
「皆んなに守護だけかけて、私一人で行くってのはどうかな」
との私の発言に対して、全員が猛反対した。ダさんまで反対意見を言っている。
(ダさんは早く王女を呼んできなさいよっ)
まず、地理に不案内な私一人では、目的地に到着できないのではないか、と言われた。だが、エルフ王の監禁場所は、そもそも誰も知らないのではないか。
次に、私は守ることしか出来ないから、攻撃できる仲間が必要だと言うが、守護に守られている間は、誰も攻撃出来ないではないか。
どうもこの人たちは、いざとなったら、私を命懸けで守るような気がして怖いのだ。
だが、人の決意はそう簡単には変わらないし、決意を受け止めるのが礼儀のような気もする。
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転生してまだ三日目なのに、龍との対決が確定した。
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