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当然ですが離婚したくなりました
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翌朝、いつ寝ているのか一度聞いてみたいキンさんにダイニングルームに案内されて、朝食をとっていると、カイトが女性を連れて食堂に入って来た。
今日これからの朝当番なのか、昨夜の夜当番なのか分からないが、二十歳前後のおっとりした女性だった。私が若返っていなかったら、カイトをグーで殴っていたかもしれない。
だが、やはり、こういうのは我慢できない。自分が非常におろそかに扱われている感じがするのだ。こんな状況に置かれながら、妻でいてあげる必要はない。
カイトが私に気づいて近づいて来た。
「エリカ!? どうなってる!? 若返ったのか!?」
(何で嬉しそうなの。あなたにはもう関係ないわ)
「おはよう、カイト。そうみたい。でも、私はもうあなたとは別の人生歩むから、どうだっていいでしょ。これでお別れだから」
自然と別れの言葉が口に出た。
「そんな、ちょっと待ってくれ。それでは俺が可哀想過ぎるだろう?」
どこがだ。さっきも楽しそうにカタコトの単語をそちらの女性と笑顔で交わしていたではないか。それに、自分のことばかりで、私が可哀想だとは思わないのだろうか。
「毎日違う女性を取っ替え引っ替えできて、楽しそうじゃない。でも、私はそんな人の妻でいるのはごめんだから」
カイトは私がこうもはっきりと嫌悪感を出してくるとは思わなかったようだ。
「だって、仕方がないじゃないか」
「じゃあ、逆に聞くけど、私が毎日男を取っ替え引っ替えしたら、あなたは仕方がないって我慢できるの?」
「それは屁理屈だと思う」
「どこがよ? 立場を逆にして考えてみてって、言っているだけよ」
「そうだな、確かにすごく嫌だが、ユウキのために我慢すると思う」
ユウキは私たちの息子の名前だ。
「私もそれは考えたけど、ユウキも分かってくれると思うわ。別に離婚したからって、私たちのユウキへの愛情がなくなるわけではないもの。異世界に来てしまって、この先ユウキに会えるかどうかも分からないけど、会えたら私が育てるし、あなたも好きなときに会うといいわ」
「俺は何を言われても、離婚は嫌だぞ」
「優しくないわね。私が離婚したいって言っているんだから、離婚させてよ」
「優しいとか、優しくないとかではないと思う」
「あなたの気持ちより、私には自分の気持ちが大切なのよ。一人と不倫しただけで離婚できるのに、あなたいったい何人と不倫するつもりなのよ。どの裁判所に行っても私が勝つに決まってるでしょ。それに、カイト、よく考えて。今のあなたの状況って、男の夢でしょう?」
あ、黙った。ここで黙らなかったら、もう一度考えてみてあげようかとも思ったが、これで決定的だ。
「ね、ここで、世界中の男が憧れる夢が叶うのよ。毎日別の女性と出来るなんて、垂涎の的だわ。よかったじゃない。私と離婚して、堂々と夢を謳歌すればいいのよ」
「そうなのかな……」
「そうよ。ほら、彼女と朝ご飯を食べて。どちらにしても、私はもう今日ここを発つからお別れよ」
「どこに行くんだ?」
「ユウキを人質に取られていて、言う通りにしないといけないのよ。これからエルフ王に会いに行くのよ」
「そうなのか。じゃあ、俺も自分に出来ることをするよ」
(背負わされた宿命みたいに言わないでよ。楽しそうにやってるのは丸わかりなのよ。ああ、本当に嫌な男。まさかこんな男だったとはね)
「じゃあ、離婚成立ってことで。さようなら」
カイトが離婚を認めた訳ではないと言っているが、そんなのは無視だ。王に依頼してこっちの世界で離婚を成立させよう。
そう思って、後で王に離婚の手続きを依頼したら、こちらの世界ではそもそも結婚していないため、離婚する必要はないと言われた。そう言われてみれば、その通りだ。
私は席を立ち、自分の部屋へと戻った。
何だろう、この開放感は。カイトと結婚して以来、何だかんだ言っても、十五年間いっしょに暮らして来たので、別れたら少しは感傷的になるのかと思っていた。
ところが、全然違っていた。心の底からじわじわと嬉しさが、次から次へとこみ上げて来るのだ。
(異世界に転生して、若返って、すごい力を手に入れて。思いもしなかった素敵なプレゼントだわ。こうなったら、第二の人生を今度こそ後悔しないように思う存分に楽しむわよ。もう男に縛られないようにしよう。男なんて女に甘えてばかりで、本当にロクでもないわ)
ユウキのことは心配だが、実家の両親がなんとかしてくれるだろう。子供はいつかは親元を離れていくし、心配しても仕方がない。
(ママも頑張って生きていくから、あなたも頑張りなさいよ)
今日これからの朝当番なのか、昨夜の夜当番なのか分からないが、二十歳前後のおっとりした女性だった。私が若返っていなかったら、カイトをグーで殴っていたかもしれない。
だが、やはり、こういうのは我慢できない。自分が非常におろそかに扱われている感じがするのだ。こんな状況に置かれながら、妻でいてあげる必要はない。
カイトが私に気づいて近づいて来た。
「エリカ!? どうなってる!? 若返ったのか!?」
(何で嬉しそうなの。あなたにはもう関係ないわ)
「おはよう、カイト。そうみたい。でも、私はもうあなたとは別の人生歩むから、どうだっていいでしょ。これでお別れだから」
自然と別れの言葉が口に出た。
「そんな、ちょっと待ってくれ。それでは俺が可哀想過ぎるだろう?」
どこがだ。さっきも楽しそうにカタコトの単語をそちらの女性と笑顔で交わしていたではないか。それに、自分のことばかりで、私が可哀想だとは思わないのだろうか。
「毎日違う女性を取っ替え引っ替えできて、楽しそうじゃない。でも、私はそんな人の妻でいるのはごめんだから」
カイトは私がこうもはっきりと嫌悪感を出してくるとは思わなかったようだ。
「だって、仕方がないじゃないか」
「じゃあ、逆に聞くけど、私が毎日男を取っ替え引っ替えしたら、あなたは仕方がないって我慢できるの?」
「それは屁理屈だと思う」
「どこがよ? 立場を逆にして考えてみてって、言っているだけよ」
「そうだな、確かにすごく嫌だが、ユウキのために我慢すると思う」
ユウキは私たちの息子の名前だ。
「私もそれは考えたけど、ユウキも分かってくれると思うわ。別に離婚したからって、私たちのユウキへの愛情がなくなるわけではないもの。異世界に来てしまって、この先ユウキに会えるかどうかも分からないけど、会えたら私が育てるし、あなたも好きなときに会うといいわ」
「俺は何を言われても、離婚は嫌だぞ」
「優しくないわね。私が離婚したいって言っているんだから、離婚させてよ」
「優しいとか、優しくないとかではないと思う」
「あなたの気持ちより、私には自分の気持ちが大切なのよ。一人と不倫しただけで離婚できるのに、あなたいったい何人と不倫するつもりなのよ。どの裁判所に行っても私が勝つに決まってるでしょ。それに、カイト、よく考えて。今のあなたの状況って、男の夢でしょう?」
あ、黙った。ここで黙らなかったら、もう一度考えてみてあげようかとも思ったが、これで決定的だ。
「ね、ここで、世界中の男が憧れる夢が叶うのよ。毎日別の女性と出来るなんて、垂涎の的だわ。よかったじゃない。私と離婚して、堂々と夢を謳歌すればいいのよ」
「そうなのかな……」
「そうよ。ほら、彼女と朝ご飯を食べて。どちらにしても、私はもう今日ここを発つからお別れよ」
「どこに行くんだ?」
「ユウキを人質に取られていて、言う通りにしないといけないのよ。これからエルフ王に会いに行くのよ」
「そうなのか。じゃあ、俺も自分に出来ることをするよ」
(背負わされた宿命みたいに言わないでよ。楽しそうにやってるのは丸わかりなのよ。ああ、本当に嫌な男。まさかこんな男だったとはね)
「じゃあ、離婚成立ってことで。さようなら」
カイトが離婚を認めた訳ではないと言っているが、そんなのは無視だ。王に依頼してこっちの世界で離婚を成立させよう。
そう思って、後で王に離婚の手続きを依頼したら、こちらの世界ではそもそも結婚していないため、離婚する必要はないと言われた。そう言われてみれば、その通りだ。
私は席を立ち、自分の部屋へと戻った。
何だろう、この開放感は。カイトと結婚して以来、何だかんだ言っても、十五年間いっしょに暮らして来たので、別れたら少しは感傷的になるのかと思っていた。
ところが、全然違っていた。心の底からじわじわと嬉しさが、次から次へとこみ上げて来るのだ。
(異世界に転生して、若返って、すごい力を手に入れて。思いもしなかった素敵なプレゼントだわ。こうなったら、第二の人生を今度こそ後悔しないように思う存分に楽しむわよ。もう男に縛られないようにしよう。男なんて女に甘えてばかりで、本当にロクでもないわ)
ユウキのことは心配だが、実家の両親がなんとかしてくれるだろう。子供はいつかは親元を離れていくし、心配しても仕方がない。
(ママも頑張って生きていくから、あなたも頑張りなさいよ)
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