スケルトンに転生した。冒険者に倒され続ける毎日だったが、冒険者を倒すとレベルアップするんだな

もぐすけ

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ミント篇

男は馬鹿だと思った

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 リズたちが王都に出発した。心配ではあるが、可愛い子には旅をさせろとは、いいことを言うと思った。きっと多くを学び、人間的に成長して帰って来てくれるだろう。

 さて、ミストの街では奴隷商人の遺体が次々と発見され、大騒ぎとなっていた。

 教会はすぐに動いた。ミントを管轄する司教が、教会経営の孤児院を順番に訪問して、シスターたちの動揺を鎮めに来たのだ。この辺りのフットワークの良さと、スタッフへのフォローは見事だ。

(教会は思った以上に手強いかもしれんな)

 リズの孤児院に司教が訪れたのは夕方過ぎだった。教会の運営する孤児院はミントに五つあり、ここが最後の訪問先のようだった。

 司教は院長とだけ話すのかと思っていたら、職員全員に話があるという。シスター全員が院長室に集められた。

 俺はイリュージョンで若い頃の元妻に化け、シスターの一人として、院長室にいた。

 司教は日に焼けた精悍な顔つきの三十代後半のイケメン野郎だった。この司教に変わってから、青田売りが始まったと聞いているが、恐らくこいつが決めたのではなく、上からの指示だと確信した。

(司教というよりサーファーみたいなヤツだな)

 その司教が俺の顔を見て、おやっという表情になった。俺は正体がバレたかと思い、心臓もないのにドキリとした。

「院長、このシスターには初めてお会いしますが、どういった方ですか?」

(びっくりしたぁ。正体がバレたかと思ったぜ)

「シスターボーンです。二週間ほど前に、夫の暴力が酷くて、匿って欲しいと逃げてきた方です。追い返すわけにも行かず、次に監査が来られる時にご報告をと思ってました。生まれつき喋ることができないそうです」

 院長は俺と事前に打ち合わせた内容を澱みなく答えた。

 司教はしばらく俺をじっと見ていたが、本題に入った。

「それでは早速ですが、奴隷商人の大量殺害については、どこまで知ってますか?」

 司教の視線が俺を捉えているが、俺は話せないって、今さっき院長が言ったばかりじゃないか。

「街の噂程度です」

 シスターテレサが代わりに答えた。実はチャームはチャームをかけたときの姿でないと効果が出ないため、今の姿でもう一度全員にチャームをかけ直したのだが、それ以来、シスターテレサから熱い視線を浴びるようになっていた。俺をかばってくれたのかもしれない。

 司祭はやっと俺から視線を離した。

「昨夜から未明にかけて、奴隷商人三十八名が殺害されました。犯人は四十代ぐらいの黒装束の男という目撃証言が出ているようです」

 最初はスケルトン姿で任務遂行しようと思っていたのだが、いくら何でも目立ちすぎると思ったため、イリュージョンで男に化けて実行したのだった。

「恐ろしい事件ですが、教会が絶対に犯人を見つけますので、皆さんは、安心して、今後も変わりなくお仕事を続けて下さい」

 シスターたちはそれぞれに頷いた。それを見て、司教は満足げに頷いてから、院長に向かって話を続けた。

「院長、販売予定の孤児リストを見せてください」

「シスターグレー、リストをお渡しして」

 シスターグレーが孤児のリストを渡した。名前、性別、誕生日、年齢が記載されている。司教はパラパラとめくって目を通している。

「十四歳の孤児を郊外の教会に移送して下さい。現在、ミント以外に拠点を持つ奴隷商人と接触をしていまして、郊外で奴隷の即売会を開くよう準備中です。緊急事態ですので、特例として、十四歳でも売買可能の許可を出すよう国に働きかけています」

「かしこまりました。移送の準備をします」

(すぐに新しい販売ルートを見つけて来るんだな。なかなか撲滅は難しいか)

 ちなみに民間の孤児院は、直接貴族などに販売しているケースが多く、奴隷商人が居なくなっても、商売は続けていけるとサーシャの孤児院の院長が話していた。

「それではよろしくお願いします」

 司教が帰るようだ。

「院長、見送りはシスターボーンにお願いしてよろしいですか?」

(なんだ、このおっさん、俺をどうにかするつもりか? 今日がお前の命日になっちゃうぞ)

 院長が俺にどうしようかと目で聞いてきている。俺は小さく頷いた。

「はい、かしこまりました。シスターボーン、司祭をお見送り差し上げてね」

 俺は司祭の前に出て、院長室のドアを開いた。司祭が微笑みながら俺にウィンクして、院長室を出た。

(俺って気に入られたのか?)

 俺は司祭が何をアピールしているのかイマイチよく分からず、無表情のまま玄関まで司祭を送り届けた。玄関で見送っている俺を振り返って、司祭はキラリと白い歯を見せて、笑顔で手を振った後、待たせていた馬車に乗って、帰って行った。

 結局、何も話さず、何も起きなかった。

(いったい何だったんだ? よく分からないやつだ)

「それ、シスターボーンを誘惑していたんですよ。顔を赤らめたり、恥ずかしそうに下を向いたりしたら、脈ありと思われ、その後はグイグイ来るんですよ」

 何かあったかとシスターテレサに後で聞かれたので、あったことを書いて見せたら、笑って教えてくれた。

(あれが誘惑? あれか、爽やかな顔で白い歯キラってやつか? 悪いが、男の俺にはまったく効かないし、あんなんで誘惑される女性って本当にいるのか? 男って馬鹿だな)
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