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ミント篇

奴隷制度崩壊の第一歩

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 奴隷制度は21世紀の日本では悪しきものと定義されているが、人類の歴史の中では、奴隷制度が当たり前だった時代の方が長い。

 奴隷にされる方はたまったものではないが、奴隷を行使する方にとっては便利な制度だし、社会の仕組みの一部になってしまっているため、奴隷制度をなくしてしまうと、色々と回らないところが出て来る。

 それゆえ、奴隷制度の解体は慎重に行うべきだ。

(ってのが、自称「お利口さん」たちの考えることだ。だが、俺は知っている。何とかなるものなのだ。会社でも、あいつがいないと回らないってのが抜けても、何とかなったものだった。残された方は大変だったが)

「ということで、奴隷商人を全員殺します」

 俺はリズの孤児院の院長室で、シスターたちに奴隷取引をやめるための戦略を発表した。

 シスターたちは俺の言っていることがわからないのだろうか。ポカーンと口を開けている。院長はいい女が台無しだ。

「あの、ボーン様、そんなことをしたら、領主や教会が黙っていないと思います」

 院長はチャームをかけていないと、クールないい女になる。悪い女なんだが、俺はどうしても院長には甘くなってしまう。

「だろうな。でも、大丈夫。スケルトンが殺した、という目撃情報しか出ないから」

「え? おじさん一人でやるのですか?」

 リズが驚いている。アリサやサーシャも同様だ。

「そのつもりだぞ。子供に人殺しをさせるわけにはいかないからな。ましてや、大量虐殺だぞ。俺は全くへっちゃらだが、お前たちが心に傷を負ったら大変だからな」

「私たちもお手伝いしたいです」

 リズが食い下がってきた。リズは俺の手伝いがしたくてたまらない可愛いやつなのだ。だが、今度ばかりは手伝わせるわけには行かない。

「お前たちには、聖女の最終試験のために、サーシャを王都まで送って行ってもらいたい。サーシャは間違いなく合格するだろうから、その後、サーシャが三年間聖女修行している間、リズとアリサは王都のお嬢様学校でお勉強だ。いいな」

「そんなっ。おじさんと離れて暮らすのは嫌よ」

 アリサは活発な割に、人一倍寂しがり屋で、いつも一緒にいたがる。コイツも可愛くて仕方ないが、心を鬼にしなければ。

「サーシャは頑張って一人で修行するんだぞ。お前たちも頑張れるだろう」

「サーシャはおじさんと三年間お別れだから、それまではおじさんを一人占めしていいって、許してあげてたのに、私たちも三年間お別れだなんて、話が違うっ」

(何を言ってるんだ?)

「それに、おじさんと院長を二人にしておけないです」

(む、痛いところを突いてくるな……。真面目に説得する必要があるな)

「お前たちは、若い今でないと出来ないことがあるんだ。勉強はとても大切だし、友達作りも重要だ。ボーイフレンドを作るのもいい。それと院長と俺はただの仕事仲間だ。リズが居なくなったら、セフィラスを召喚出来ないから、俺は骸骨だし、何の心配も要らないさ」

「おじさん、おじさんも王都に来て一緒に暮らすといいのではないでしょうか。セフィラスも呼べますし、何なら院長も連れて来ればいいです」

(ちょっとリズ。院長なんて連れて来たら、私たち絶対に敵わないわよ)

(でも、おじさんと離れたくない)

(私もそうだけど、ふと考えたんだ。三年離れて、綺麗になった私たちを見せたら、おじさん、私たちを子供ではなく、女として見てくれるかもよ)

(そうかもしれないけど……)

(それが私の作戦でしたのに、リズやアリサも同じ戦法で来られると困りますわ)

 こ、コイツら、コソコソ話をしているつもりなんだろうが、俺が集音のスキル持ちってことを忘れてるんじゃないか。完全にダダ漏れで聞こえまくっているぞ。

「奴隷商人を皆殺しして、社会の仕組みをひっくり返すんだ。俺の大好きなお前たちをこんな危険な街においてはおけない。自分たちの将来のためだけでなく、俺を安心させるためでもある。どうか納得して欲しい」

「考えておきます」

(決まらないか。仕方ない。今日はここまでで妥協するか)

「おう。どっちにしても、サーシャを王都に送って行って欲しい。教会の監査が入る前までには王都に発ってくれよ」

「それは大丈夫です」

「それでは、シスターグレー、奴隷商人のリストをくれるか」

「はい、ボーン様」

 俺はシスターグレーに頼んでおいた奴隷商人のリストを受け取った。

(うーん、シスターグレーは俺の好みではないんだが、グイグイ来るんだよな。もうチャームかけてないのに……)

「早速、今晩から未明にかけて、上から順番に殺せるだけ殺してくる。居場所を教えてくれ」
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