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ミント篇
民間運営の孤児院
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朝食後、リズ、アリサ、サーシャを連れて外に出た。
日の光の下で見る街並みは、夜見たときとはずいぶん違って見えた。
「随分と綺麗な街並みなんだな」
「はい、おじさま。ミントの街は奴隷売買のおかげで潤っておりまして、街の整備にお金をかけられるのですわ。街中では郊外と違って、治安もよろしいですのよ。それでも夜はあまり出歩かない方がよろしいですが……」
サーシャは俺と腕を組んで歩いている。三人でルールを決めたようで、後ろを歩くリズ、アリサからのクレームは特にない。
「サーシャは孤児院ではどんな暮らしぶりだったんだ?」
「私はある貴族の方の奴隷になることが、五歳のときに決められておりまして、その貴族の方が派遣された教師の方からいろいろと教育を受けておりましたの。そういった特別待遇でしたので、ほかの孤児とはあまり交流はございませんでしたわ」
「そうだったのか。どんな貴族なんだ?」
「ランバラル伯爵様ですわ。数回お会いしましたが、じっと私をご覧になって、綺麗だね、綺麗だね、と呟きながら、髪を触ってきたり、肩を触ってきたりされるのです。その触り方が何と言いますか、ねっとりとした感じで、鳥肌が立ってしまいますの」
「それは嫌な思いをしたな」
「はい。伯爵様が私に会いに来られるのが嫌で嫌で、そんな方の奴隷になる運命を呪いましたわ」
「そういった運命を完全に断ち切って、聖女になる夢に向かえるようにしよう」
「おじさま、感謝しますわ。あ、見えてまいりました。あの青色の建物ですわ」
サーシャはこうして歩いていても、すれ違う多くの人々の視線を集める超絶美少女だ。その貴族は恐らくサーシャを必死で探しているに違いない。
孤児院の門の前に着くと、門番がサーシャを見て驚いている。
「門番さん、お取次をお願いしますわ」
「サーシャ、無事だったか。失踪したって、えらい騒ぎになっているぞ。すぐに取り次ぐから、待っていてくれ」
門番は俺たちの存在も気になっていたようだが、すぐに本館の方に走って行った。
しばらくすると、門番が身なりのいい中年男と頭の薄い眼鏡の壮年の男を連れて戻って来た。
そのうちの中年男の方が、サーシャを怒鳴りつけた。
「サーシャ、いったいどこに行っていたんだっ」
「ランバラル伯爵さま、院長、私、不埒者にさらわれましたの」
サーシャは平然として答えた。中年の方が伯爵で、ハゲ眼鏡が院長のようだ。
「お、お前がさらっていたのか!? サーシャは私が身請け済みなのだぞ」
伯爵が俺を睨みつけて来た。
「俺は不埒者からサーシャを救って保護していたのだ。礼を言われることはあっても、このように追及されるいわれはないと思うのだが」
伯爵の顔が怒りに歪んでいく。
「き、貴様っ、わしに向かってなんという言葉遣いだ。不敬罪で手打ちにしてくれる」
俺は伯爵の振り下ろした剣の刃を指で挟んで止めた。伯爵が驚いて、目を白黒させている。
「不敬罪だと? お前、人間のルールを勝手に俺に当てはめるなよ」
俺は伯爵の尻を骨折しない程度に蹴とばした。
「うぐっ」
伯爵が尻を押さえながら、ひざまずいた。院長が顔を青くして、伯爵に駆け寄り、具合を確認している。
「ランバラル様に何てことを!」
院長が口に泡を飛ばしながら叫んだ。
「いや、そいつは俺を殺そうとしたじゃないか。尻を蹴とばすくらい許されるだろう」
「き、貴様が手を出すことの出来るお人ではないっ」
「あのな。俺はサーシャの保護者だ。サーシャに害なすものは殺すぞ。貴族ってことで、殺さないでおいたのだ。お前は貴族ではないのであろう。俺たちを孤児院に案内するか、ここで死ぬか、どちらか選べ」
院長は伯爵を見た。伯爵は脂汗を流して、四つん這いになっている。とても歩けそうにない。
「分かった。孤児院に案内する」
院長は門番に伯爵を担架で運ぶよう指示してから、俺たちを先導して孤児院の本館内に入った。
日の光の下で見る街並みは、夜見たときとはずいぶん違って見えた。
「随分と綺麗な街並みなんだな」
「はい、おじさま。ミントの街は奴隷売買のおかげで潤っておりまして、街の整備にお金をかけられるのですわ。街中では郊外と違って、治安もよろしいですのよ。それでも夜はあまり出歩かない方がよろしいですが……」
サーシャは俺と腕を組んで歩いている。三人でルールを決めたようで、後ろを歩くリズ、アリサからのクレームは特にない。
「サーシャは孤児院ではどんな暮らしぶりだったんだ?」
「私はある貴族の方の奴隷になることが、五歳のときに決められておりまして、その貴族の方が派遣された教師の方からいろいろと教育を受けておりましたの。そういった特別待遇でしたので、ほかの孤児とはあまり交流はございませんでしたわ」
「そうだったのか。どんな貴族なんだ?」
「ランバラル伯爵様ですわ。数回お会いしましたが、じっと私をご覧になって、綺麗だね、綺麗だね、と呟きながら、髪を触ってきたり、肩を触ってきたりされるのです。その触り方が何と言いますか、ねっとりとした感じで、鳥肌が立ってしまいますの」
「それは嫌な思いをしたな」
「はい。伯爵様が私に会いに来られるのが嫌で嫌で、そんな方の奴隷になる運命を呪いましたわ」
「そういった運命を完全に断ち切って、聖女になる夢に向かえるようにしよう」
「おじさま、感謝しますわ。あ、見えてまいりました。あの青色の建物ですわ」
サーシャはこうして歩いていても、すれ違う多くの人々の視線を集める超絶美少女だ。その貴族は恐らくサーシャを必死で探しているに違いない。
孤児院の門の前に着くと、門番がサーシャを見て驚いている。
「門番さん、お取次をお願いしますわ」
「サーシャ、無事だったか。失踪したって、えらい騒ぎになっているぞ。すぐに取り次ぐから、待っていてくれ」
門番は俺たちの存在も気になっていたようだが、すぐに本館の方に走って行った。
しばらくすると、門番が身なりのいい中年男と頭の薄い眼鏡の壮年の男を連れて戻って来た。
そのうちの中年男の方が、サーシャを怒鳴りつけた。
「サーシャ、いったいどこに行っていたんだっ」
「ランバラル伯爵さま、院長、私、不埒者にさらわれましたの」
サーシャは平然として答えた。中年の方が伯爵で、ハゲ眼鏡が院長のようだ。
「お、お前がさらっていたのか!? サーシャは私が身請け済みなのだぞ」
伯爵が俺を睨みつけて来た。
「俺は不埒者からサーシャを救って保護していたのだ。礼を言われることはあっても、このように追及されるいわれはないと思うのだが」
伯爵の顔が怒りに歪んでいく。
「き、貴様っ、わしに向かってなんという言葉遣いだ。不敬罪で手打ちにしてくれる」
俺は伯爵の振り下ろした剣の刃を指で挟んで止めた。伯爵が驚いて、目を白黒させている。
「不敬罪だと? お前、人間のルールを勝手に俺に当てはめるなよ」
俺は伯爵の尻を骨折しない程度に蹴とばした。
「うぐっ」
伯爵が尻を押さえながら、ひざまずいた。院長が顔を青くして、伯爵に駆け寄り、具合を確認している。
「ランバラル様に何てことを!」
院長が口に泡を飛ばしながら叫んだ。
「いや、そいつは俺を殺そうとしたじゃないか。尻を蹴とばすくらい許されるだろう」
「き、貴様が手を出すことの出来るお人ではないっ」
「あのな。俺はサーシャの保護者だ。サーシャに害なすものは殺すぞ。貴族ってことで、殺さないでおいたのだ。お前は貴族ではないのであろう。俺たちを孤児院に案内するか、ここで死ぬか、どちらか選べ」
院長は伯爵を見た。伯爵は脂汗を流して、四つん這いになっている。とても歩けそうにない。
「分かった。孤児院に案内する」
院長は門番に伯爵を担架で運ぶよう指示してから、俺たちを先導して孤児院の本館内に入った。
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