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ダンジョン篇

おじさんの救出:リズの視点

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 ようやく鳥肌立ちまくりの虫フロアを抜けた。ここしばらくおじさんからの思念が届かないが、大丈夫だろうか。

 地下九階はアンデッドフロアで、他のフロアとよく似ているが、中央部分に地下十階との吹き抜け空間があるのが大きく異なっている。

 ただ、部屋にいるアンデッドが多種多様で、ヴァンパイア、デュラハン、エルドリッチなど知的で強力なアンデッドが全部屋にそれぞれ一体ずつ入っているようだ。おじさんを救助した後は、ここでしばらく訓練するのもいいかもしれない。

 私たちは吹き抜けのところまで来て、地下十階方向を見た。霊感を強めておじさんの気配を探ると、10時の方向に気配を感じた。

「あ、あそこですっ」

 私は左斜め前方を指差した。はるか遠くで、おじさんがゴーレムに追い回されている。

「……逃げ回ってるのかな?」

 アリサさんが目を細めて見ている。アリサさんは近眼なのかも。

「そうみたいですね」

 勝てないときはすぐ逃げろ、ってよく私たちに言ってたっけ。それにしても、すごい逃げ足だわ。

「下に降りる? 勝算ある?」

 遠くのゴーレムに対しても、私は霊力の流れを感じることが出来た。

「はい。霊力の流れが見えます。倒せますよ、ゴーレム」

 アリサさんがこっくりと頷いた。サーシャさんも覚悟を決めている。やっぱり、彼女たちは私と同じだ。おじさんを助けるためなら、命を賭ける。

 今の私たちがあるのもおじさんのお陰だし、将来もおじさんなくては考えられない。

「行きます」

 これぐらいの高さであれば、今の私たちなら、飛び降りても大丈夫なはず。梯子でちまちま降りて行く場面ではないわ。女だって、こういうときは格好をつけたいものよ。

 えいっ。

 私は飛び降りた。アリサさんもサーシャさんも続いた。

「おふっ」

 けっこう衝撃きたわね。みんなも少しびっくりしている。二人とも痩せ我慢していて面白い。

 地下十階は仕切りが何もないだだっ広い空間だ。地面は石だらけの荒野が続いている。

 おじさんのところに向かって真っ直ぐに進もうとしたら、その辺の石が合わさってゴーレムになった。

「はっ、生きてる人間が来ただなんて記憶にねえぞ。魂のストックにしてやる」

 私はオーラを唱えて自分の全ステータスを三倍増させ、霊感も研ぎ澄ませた。サーシャからガードの魔法が全員にかけられ、防御力が急上昇する。アリサがタイムをかけ、ゴーレムの動きが一瞬止まった。

 私は霊力の流れを読み、コアの位置を探し当てた。

「額とお股です。浄化が効果的ですっ」

「オラクル」

 サーシャがすぐに魔法を放った。額とお股に女神の囁き声がこだました。

 ゴーレムの額が割れ、上半身がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。同時に下半身も股を中心に真っ二つ割れ、両側に倒れた。

「いけるわね」

「はいっ、流れが見えますっ」

「タイムで止めていただくと、とても狙いやすいですわ」

 私たちはすぐにおじさんの方に進んだ。さっきよりも身体能力が高くなっているのが分かった。レベルアップしているようだ。

 走っている途中にまた石が積み重なり始めたが、霊力の核を私はスチールした。スチールは力を奪う魔法だ。魔力、霊力、体力を奪って吸収する。

 スチールは難なく成功し、ゴーレムは完成する前に崩れ落ちた。

「すごい! リズさん、なんて人なのっ」

 いつもアリサさんやサーシャさんが攻撃役で、私は補助役なので、今回のように攻撃役として活躍できるのがとても嬉しい。

 遠くに見えていたおじさんがどんどん近づいてくる。

「おじさまぁっ!」
 
(あ、サーシャさん、ずるい。私が呼びたかったのに)

「「おじさぁーーん」」

 私とアリサがハモった。おじさんは私たちに気づいたらしい。

(リズ、どうしてこんなところに来たんだっ!)

 おじさんの声が聞こえるのは私だけ、というのは嬉しいのだが、アリサさんやサーシャさんにも聞かせてあげないと。

「サモン、堕天使」

 私の召喚に応じて、気だるそうな黒髪黒目の超イケメンが現れた。

「お嬢様方……」

 何か言いそうだったので、ぶん殴った。おじさんが憑依しているからいいのであって、コイツ自体はどうでもいい。

 堕天使がびっくりした顔で私を見ている。

「憑依されるまで、そこに黙って立ってなさい」

「はい…」

「おじさま、ゴーレムは私たちが倒しますわ。私たちの後ろに回って下さいましっ」

(サーシャさん、私のセリフ……)

「おじさん、本当だよ。早くこっちに来てっ」

(アリサさん、だから、それ、私のセリフ……)

(そうか、あのとんでもないレベルアップはお前たちかっ。よし、後ろに回るぞ)

 おじさんが私たちの後ろに回って伏せて、すぐに堕天使に憑依したようだ。私には霊体の動きが分かるのだ。

 おじさんを追っていたゴーレムが迫ってくる。私は霊力の流れを観察した。

「核はさっきと同じ二箇所です。アリサさん、サーシャさん、お願いします」

「タイム、グラビティ、タイム」

 一度で止まらせられなかったようで、アリサさんがグラビティを発してからタイムを唱え直した。

「オラクル」
「スチール」

 サーシャさんがオラクルを唱えると同時に私もスチールを唱えた。

 ゴーレムがバラバラと崩れて行く。

「す、すげえな、お前たち。また、すごくレベルアップした。それと、俺もゴーレム作れるようになっちゃったぞ」

 おじさんがはしゃいでいて、少し可愛い。

「おじさん、大丈夫ですか?」

「ああ、リズ、アリサ、サーシャ、ありがとう。まさか助けに来てくれるとは思わなかったよ。助けるどころか、助けられちゃって、頼りないおじさんですまないな」

「おじさん、かっこいい!」

「ちょっと、アリサ、おじさんに抱きつかないで下さいっ」

 私は知らず知らずアリサと呼び捨てにしていた。以降、私たちは呼び捨てで呼び合う仲になる。

「嫌よ。あぁ、いい気持ち、リズもサーシャも抱きついたらいいのよ」

「お言葉に甘えますわっ」

 サーシャまで抱きついている。

「ちょっとサーシャまで。じゃあ、私も!」

 私もおじさんに思いっきり抱きついた。これまでの感謝の気持ちを込めて。

「ちょ、ちょっと、お前たち、ゴーレムたちがこっちに走ってくるぞっ」
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