15 / 15
~15~ 幸せを永遠に
しおりを挟む「リリー……」
姿を見るか早いか、リリアーナはフランシスの胸に飛び込んでいた。
「リリー?」
驚いたのはフランシスの方だった。
自分の姿を見て怒るだろうか?それとも泣き出すだろうか?罵倒を浴びせられ、物を投げつけられるかもしれない。いや、もしかたら頬を叩かれるかも?
たとえ何をされても甘んじて受け止めるつもりでいたのに、いきなり胸に飛び込んできたその少女は、背中に手を回し渾身の力でギュウギュウと抱きついてくる。
いつもは自分が抱きしめていたのに、いざリリアーナに抱きつかれると、彼女の力はこんなにも頼りないものだったのかと思い知らされる。
「リリー、ごめんね。君に辛い思いをさせてしまった。どんな罰も受けるから、どうか顔を見せておくれ。リリーの顔が見たい。頼む。」
リリアーナの肩の手をかけ、懇願するような切ない声をかけると、フランシスの背中に回した手を緩め、ゆっくりと体を離し顔を見上げ、
「フランシス様……」
リリアーナの瞳には涙が揺らぎ、瞬きで一粒頬をつたう。
フランシスはその涙の筋に唇を落とし、再び強く抱きしめた。
「リリー、もう離さない。二度と泣かさない。どうか、どうか僕を許してほしい。
リリーの側にいることを、愛することを許してほしい。お願いだ。」
「フランシス様、私はずっとずっとフランシス様をお慕いしています。フランシス様だけなんです。フランシス様じゃなきゃダメなんです。私の方こそずっとおそばにいさせてください。」
「リリー!」
いつの間にか誰もいなくなった部屋で、二人はしばらくお互いの勘違いを正し、思いを確認し合った。
お互いが唯一の存在なのだと確認するように、言葉を重ね、手を重ね、思いを重ねるのだった。
~~~~~~
妃教育終了後、いつものようにリリアーナとフランシスが部屋でお茶をしている。
フランシスに肩を抱かれ並んでソファーに座るリリアーナが突然座り直し、
「フランシス様・・・」
フランシスに真正面から向き合い肩に手を置くと、体を浮かせだんだんと顔を近づけてくる。
「え?ちょっ、待って、リリー?どうしたの?どうしたの?何かあった?」
慌ててリリアーナの両腕を掴み身体を離す。
「フランシス様。私色々と考えました。これからはフランシス様に似合うような大人な淑女を目指そうかと思っているんです。」
真剣な顔つきで言うリリアーナに、目を白黒させて驚くフランシス。
「え?大人な淑女?いや、いきなりどうしたの?」
「私は子供っぽくてフランシス様にはまだまだ不釣合いです。ですから、これからは行動で示し、少しでもフランシス様に似合うような、大人なしゅく・・・」
「待って!リリー。なんか勘違いしてない?僕に似合うのが大人な淑女なんて、誰かに何か言われたの?」
「いいえ、誰にも。でも、マリアンヌ様にはご相談しました。そうしたら、女は行動力だと。たまには自分から行動を起こすのも大事だとおっしゃっていただいて。」
「いや、それはまあ間違ってはいないというか、時と場合によるかもだけど・・・
でも、リリーにはそういうのはどうかな?無理することないよ。うん。」
「いいえ、私も少しずつ淑女らしく大人にならなければなりません。
それに、フランシス様は普段の様子から積極的な女性が好みだと聞きました。」
「え?僕が?そんなこと……それもマリアンヌ様から?」
「いえ、それはエミリーから。」
「あいつ……」
ギリギリと歯ぎしりが聞こえるくらいに苦悶の表情を浮かべる。
「ですから、これからは二人になった時は色々とご教授くださいね。」
ニコリとほほ笑むリリアーナに
「いや、そんなことまだリリアーナには早いよ。そうだ!前にも言ってたじゃない。
学園を卒業してからで十分だよ。ね?」
「それでは私がフランシス様に飽きられてしまいます。
私、今まで他の方たちのお話をお聞きすることがあまりなくて知らなかったのですが、他の婚約者同志はもっとスキンシップを重ねているとお聞きしました。そうでないと長い婚約期間中に浮気をされたり、気が変わったりすることもあると。
私、そんなのは絶対に嫌なんです。だから、少しずつで申し訳ないのですが・・・
よろしくお願いいたします。」
そう言って再びジリジリとフランシスの唇めがけてにじり寄るリリアーナ。
「いや、リリー。待って!それはダメだ!まだ早い!君にはまだ早い。無理だ!」
突然フランシスは立ち上がる。リリアーナが唖然とする中走り出す。
ドアを開け、廊下に飛び出し、一目散に逃げだすフランシスを呆然と見ていたが、は!っと気が付きリリアーナも後を追いかける。
ただひたすらフランシスの背中を追って走り出していた。
「フランシスさまーーー!待ってくださーーーい。」
「リリー!待って。君の思い違いだから。待って!来るんじゃない。止まりなさい!」
「フランシスさまーー!!待ちませーーん!フランシスさまーー!」
しばらく鳴りを潜めていたリリアーナとフランシスの追いかけっこ。
城内ではあの声が聞こえないと寂しいという声もチラホラと聞かれ始めた頃。
またしても叫び声とともに走る姿を見ることとなった。
ただ違うのは、追いかける側と追いかけられる側が逆転していること。
あんなに溺愛していたリリアーナからの積極的アプローチを受け、すっかり逃げ腰でヘタレ王子が露呈してしまったフランシス。
ホントは照れ隠しだったのだと気が付いていた女性陣にもて遊ばれ、しばらくはヘタレ王子の噂が王宮内を飛び交うことになる。
それでもリリアーナは相も変わらずフランシスを追いかけ続ける日々が続くのだった。
「リリー、待って!ストップ!!」
「フランシスさまーー!!待ってくださーーい」
そんな声を王宮中に響かせながら走り回る二人は、生暖かい目で見守られ続け順調に愛を育んでいった。
そして月日は流れ、どうなることかと心配する者をよそに無事挙式を済ませると・・・
初夜を境に、ピタリとその声も姿も見なくなってしまった。
その後王宮内では、第二王子とその妃がいつも仲睦まじく寄り添い、
明るい笑い声とほほ笑みをのせ、王宮内に幸せをばら撒く姿が見られるようになるのだった。
「リリー、愛してるよ。」
「フランシス様。私も愛しております。」
1
お気に入りに追加
221
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

【完結】冷酷公爵の溺愛は偽り? いいえ、本気のようです ~婚約破棄されたはずなのに、なぜか猛愛されています~
21時完結
恋愛
公爵令嬢レティシアは、冷徹と名高い公爵ヴィンセントの婚約者だった。しかし、彼から愛されることはなく、社交界では「政略結婚の犠牲者」とまで囁かれていた。
そんなある日、突然ヴィンセントから婚約破棄を言い渡される。
「君とは婚約を解消する」
ようやく解放されたと安堵するレティシア。けれど、彼女の前には思いがけない道が開かれる。婚約破棄の知らせを聞きつけた隣国の王太子が、彼女に求婚してきたのだ。
「君の才能と美しさを、彼が見限るなら、私がもらおう」
これまで冷たかった婚約者と違い、優しく接してくれる王太子。レティシアも新たな人生を歩もうと決意するが、なぜか婚約破棄したはずのヴィンセントが彼女の前に現れ、強引に抱きしめる。
「待て、誰がお前を手放すと言った?」
「えっ……!? だって、あなたが婚約破棄を――」
「誤解だ。俺はお前を絶対に手放さない」
冷酷だったはずの公爵が豹変し、なぜか執着と溺愛を見せてくる。実は、婚約破棄には大きな陰謀が絡んでいたようで――!?
「冷たかった婚約者が、今さら本気になっても遅いです!」
…と言いたいのに、彼の本気の愛からは逃げられそうにない!?
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

悪役令嬢ですが、なぜか攻略対象全員に求婚されています
くも
恋愛
「セシリア=グランディール嬢、貴方との婚約は破棄させてもらう!」
舞踏会の真っ只中、煌びやかなシャンデリアの下で響き渡る婚約破棄の宣言。
金色の髪を揺らす王太子アルベルトの顔には、軽蔑の色が浮かんでいた。
向けられる視線は、まるで悪辣な悪役を見るような冷たいものばかり。
「……ほう」
私は静かに唇を歪める。この状況、よく知っている。
なぜなら私は、この世界が乙女ゲームの中であることを知っているからだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
あまーーーい😆💕
溺愛モノ好きにはたまらないお話でした!
こんな可愛い追いかけっこなら、周りも微笑ましく見守りたくなりますね。
そしてリリーが可愛すぎて、溺愛しまくるフランシスに共感してしまいました笑
幸せのお裾分けをしてもらえた読後感……ありがとうございました!
まり様
感想ありがとうございます。
楽しんでいただけたようで、良かったです。
ただただ、甘々な話が書きたくて、好き嫌いが別れそうで不安もありましたが、喜んでもらえたようで安心しました。
幸せのお裾分けなんて、嬉しすぎます。ありがとうございます。
また別の作品でお目にかかる事がありましたら、よろしくお願いします。
ありがとうございました。