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~10~ リリアーナ会議
しおりを挟むいつものように妃教育の後、馬車までリリアーナを送ったエミリーは、迷うことなくある一室に向かって歩を進める。
その歩調は慣れたもので、戸惑いも、躊躇も一切なく、急ぐ歩幅は強い意志を持つようだった。
『コンコンコンコンコン』
王宮内執務管理棟。その一室、王家の紋章入りの重厚なドアを5回叩く。
すると中からドアが開き一人の男性に誘導されると、さもあたりまえのように室内に入り、そのままガチャリとドアが閉まる。
フランシス第二王子の執務室。
中にはフランシスと、その側近であるアンジール、近衛騎士であるジアンがいた。
フランシスとアンジールは応接用のソファーに向かい合って座り、騎士のジアンは壁を背に立っている。
ジアンに迎え入れられたエミリーは、アンジールの横に座る。
「さっそくだが、今日集まってもらったのはほかでもない。」
フランシスが神妙な顔つきで言う
「最近、リリアーナとの時間が取れなさ過ぎて、どうにかなりそうなんだ。
もっともっと、ふたりで一緒にイチャイチャしたりしたいんだが、どうすれば良いだろうか?」
フランシスを除く3人は、「ふぅ~」と大きなため息をつく。
「フランシス、頼むからそんなくだらないことで僕らを招集するのやめてくれない?
僕らだってそんな暇じゃないんだからさぁ。」
たまらずアンジールがつぶやくと
「何がくだらないことだ!俺にとっては一大事だ。
ああ、リリアーナに会えないとやる気が、気合が入らない。これは国家レベルでの問題だろう?」
本当に真面目に心配するフランシスに、(お前大丈夫か?)という思いは三人の中で芽生えているものの、敢えて誰も口にはしない。
「僕はもっともっとリリアーナと親密になりたいのに、いつまで経っても距離を感じる。
どうしてなんだろう?こんなに愛情を表現しているのに、僕の愛がまだたりないのだろうか?」
「いや、反対じゃない?お前の愛が重すぎるんだよ。会えばリリアーナ~って抱き着いてさぁ、そりゃ鬱陶しがられるって。当然だよ。」
アンジールの発言に「え?そうなのか?」と驚いたように聞き返すフランシス。
「なに?お前本気で何とも思ってなかったの?それはマズイだろう?
お前たちがなんて言われてるか知ってる?バカップルだよ。『バカ』ップル。
リリアーナ様もさぞや恥ずかしい思いをされてるよ、きっと。なあ?エミリー?」
「そうですね。リリアーナ様はいつも恥ずかしくて死にそうだとおっしゃっておられますねぇ。」
エミリーの言葉にビクリと姿勢を正し、
「死んだらダメだろ。それはムリだ。許さん!」
怒りだすフランシスに(お前が原因なんだよ。)と、腹の中で思うエミリーだった。
「だったら、少し自重してみたら?いつもみたいに追いかけまわすんじゃなくてさぁ。
少しほっといて向こうから歩みよらせるようにしたら?
まあ、うまく行くかはわかんないけどね。」
最後の言葉を聞いたか聞かないうちに身を乗り出し
「それだ!!僕が求めてたものはそれだよ!そう、そうなんだよ。僕は、リリアーナからも愛を表現して欲しいんだよ。すごい!お前は天才だ。さすが僕のアンジールだ。」
「いや、お前の物になったつもりは一度もないが。だから、うまくいくかどうかはわからないって・・・」
「よし!明日からさっそく試そう。明日の妃教育の後、僕は我慢してリリアーナには会わないぞ。声もかけない。僕も男だ、我慢する。楽しみにしていてくれ!」
一人喜んでウキウキしている主に対し(うまくいくかわからない)って言葉は、まったく頭に入ってないんだろうなぁ。と、しみじみ思う三人だった。
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