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鈴が居なくなったと知らされ、気が動転した源次は探しに行こうと走り出した。だが、それを源助に止められ、何があったのか教えろと乞われていた。
とにかく鈴が心配で、頭がうまく回らない。
こんなことは今までに一度として無かった。鈴が自分を置いて消えることなど、思いもつかなかった。
「捨てられた」と、銀次はポツリと呟きその身を振るわせた。
「しっかりしろ! 鈴さんがおめえを捨てるとは思えねえ。
いいか、落ち着いて聞くんだ。彼女はたぶん、かどわかしにあったんだと思う」
「かどわかし?」
「ああ。鈴さん自身が恨みを買うとは考えにくい。なら、あんただ。
あんたの過去の行いで、思い当たることは山ほどあるんじゃねえのかい?」
思ってもいなかった言葉に銀次は「はっ」とする。
可能性は十分にある。なぜなら、自分は元おかめ盗賊の一味なのだから。
今もこの町に太一たちが潜んでいる可能性が高い以上、あいつらが鈴を連れ去ったと考えるのが妥当かもしれない。
なぜそんな簡単なことが思いつかなかったのかと、銀次は自分を責めた。
「なあ、銀次さんよぉ。悩むのは後にしてくれや。今は鈴さんの無事を確かめるのが先決だ。そうだろう?
今のおめえさんじゃ、人探しは無理だ。役に立たん。
俺は元岡っ引きだ。人探しは得意なんだよ。だから、知ってることを全部教えてくれ。どんな些細なことでも構わねえ。あの子を助ける為だ。
頼む、早く教えてくれ!!」
銀次の肩を掴み、必死の形相で頼み込む源助を前に、涙で塗れた顔を拭いもせずに話し始めた。
おかめ盗賊はあの後、塵尻になり逃げ回っていること。
源助の妹を殺したのは太一と言う兄貴分であり、その太一が今世間をにぎわせている黒狼らしいということ。
そしてつい先日、その太一をこの町で見かけたこと。
太一は自分たちを恨み、仕返しに来ているのではないかと思うと。
だが、与市のことは最後まで言葉にはしなかった。それだけは銀次にとって、守り抜きたいものであり、せめてもの恩返しのつもりでもいたのだった。
大体の話を聞いた源助は思考を巡らす。
方々の町々を探し回る中で一番にすることは、空家や廃屋、森や林と言った隠家に出来る場所を見つけ出し、捜しまわることだった。
この滝見里に来た時も、古着屋にいる鈴に縫い直しを頼んだ後、町中を探し気になる箇所はいくつか見つけていた。
その時には人の気配は無かったが、その後隠れ家にした可能性もある。
銀次を連れて行ってもいいが、こういうことは独りのほうが動きやすい。
慣れぬものを連れ歩き、相手に知られれば逃げられてしまう。
「銀次さん、俺はいくつか気になる箇所があるから探してみるが、あんたは仲間の所に行って知らせるといい。
相手はもう、あんたらを泳がすつもりはねえらしいからな。
鈴さんはたぶん、あんたらをおびき寄せる人質だ。
あんたたちにとって、あの子がその役目を果たせるかはわからんが、助けてもらえるんなら手伝ってもらえばいい。
わかったら、早く行ってこい!」
ああ、この男は全てお見通しだった。と、銀次は泣き顔を更にくちゃくちゃにして頭を下げた。
与市のためにと黙っていたところで、すでに調べ上げていたのだろう。
それでいて、鈴のためにと待っていてくれたのだ。
すぐにでもお上に垂れこめば事足りるだろうに、妹の仇が打てるのに。
そうしなかったのは、鈴のためなのだ。
理解した銀次は、泣きながら与市の元へと走り出した。
源助の言う通りだ。気が動転し、冷静ではいられない今の銀次では、確かに足手まといになるだろう。
この先、自分の身がどうなろうとも、今はただ鈴を見つけることが先決なのだと、そう自分に言い聞かせ走り続けるのだった。
与市の店へと着いた銀次は、鈴がいなくなったことを告げた。
そして、源助との一件も全て話して聞かせた。
その上で、鈴を助けて欲しいと懇願するのだった。
「あいつの恨みが本物なら、妹は五体満足ではいられんかもしれん。
だが、その男が言うように人質として見ているなら、命までは取らんだろう。
弥吉。すまんが、おめえは銀次と一緒に探しに行ってくれ。今のこいつは正気じゃねえ。ちいとばかし手伝ってやってくれや」
「へい」
弥吉は項垂れる銀次の肩に手をおき、「でえじょうぶだ。絶対に見つけてやる」と、励ました。
「俺と権八はここで太一を待つとするぜ。あいつのことだ、絶対に渡りをつけてくるはずだ。そいつを待ってみるさ」
与市の言葉に権八は頷き、銀次たちを店の外まで見送るのだった。
「もし、妹を見つけてもここには戻るな。銀次はそのままそばにいてやれ。
弥吉はその後、まっすぐに長松の所に使いに出てくれるか。
そのまま二人で、宮浦で待っていてくれ。必ず行くから、頼んだぞ」
権八の言葉に二人は頷き、店を後にするのだった。
銀次たちを見送った後、権八は店の中へと戻り「行きやした」と報告をする。
「そうか。おめえには最後まで苦労をかけるな。すまねえ」
客用の木椅子に座ったままの与市の目は、もう見えてはいない。
光がわかる程度にまで視力が落ちた分、人の動きや察しは敏感になっていた。
感覚が研ぎ澄まされ、聴覚も臭覚も冴えわたるようになった。
「やっこさんたちも、そろそろお出ましかな。権八、頼んだぜ」
「へい、お任せください」
二人は誰もいない店内で、身じろぎもせずに今や遅しと待ち構えるのだった。
銀次と弥吉が町中を走りまわり、鈴を探し回っていた頃。
源助はあたりをつけた空家を回っていた。
意外と町中の喧騒に紛れ、中心部に近い所を隠れ家にする場合も多い。
だが、今回はそうじゃないだろうと踏んだ。
人質が居る以上、暴れて騒がれてはマズイ。きっと、町はずれに近い所だろうと考え、町人に紛れるようにして空家を探し始めた。
それは三件目の事だった。
草藪に覆われた小道を抜けた所にある、廃寺。
背丈ほどに伸びた雑草に覆われ、鬱蒼としている。人の目を誤魔化すには丁度良い場所だ。源助はゆっくりと、なるべく草を揺らさぬように踏み入って行く。
進んで行くと、廃寺の屋根が見え始めた。さらに歩調を緩め近づいていく。
すると、墓石も倒れ荒らされた墓地が現れ、視界が開けてくる。
廃寺の裏手に周り隙間から覗き込むと、若い男の影が見えた。
柱によりかかりうたた寝をしているようだった。
『ここに違いねえ』と、さらに気を張り直した。
源助は大きめの石を掴むと、閉ざされた木戸の脇に立った。そして、掴んだ石を木戸に向かって思い切り投げつけたのだった。
「誰だ!!」
中にいた見張りであろう男は、うたた寝から飛び起きると慌てて木戸を開け外に出て来た。そこを脇に隠れていた源助が飛び出し、男の後ろ首めがけて手刀を入れる。男は「うっ」とうめき声をあげ、その場にしゃがみ込んだ。
一瞬の怯みを源助は逃さない。さらに男の脇腹に蹴りを入れると、そのままみぞおちを蹴り上げ、男を伸し倒したのだった。
気を失った男の襟元を掴み柱まで引きずっていくと、男の帯をほどきその根元にくくりつけた。
これで当分は足止めができる。早く、早く鈴さんを見つけなければと、急ぎ奥寺の奥へと向かうのだった。
廃寺になり随分経つのだろう、ご本尊にあたるであろう仏像はその形だけは維持していたが、埃をまといかつての栄華は微塵も感じない有様だった。
仏像の脇にくぐり戸のような物があり、源助はそこを覗いて見た。
腰を屈め中を覗くと、そこに女性らしい足が見えた。
『っ!』思わず声を上げそうになるが、袖口で口を覆いなんとか声を殺す。
身を低くし中に入ると、そこには捜していた鈴の姿があった。
鈴の元に駆け寄り、生気の抜けたようなその鼻と口元に手をかざす。微かではあるが呼吸を感じる事ができた。
『良かった。生きてる、良かった』と、大きく息を吐き安堵するのだった。
生死だけが気がかりで、やっと安心したのも束の間。少しだけ冷静さを取り戻し彼女の姿に目を落とすと、それは明らかに乱された後だった。
気を失い、抵抗の出来ない小娘に無体なことをしたことは誰の目にも明らかだった。口惜しさと憤り、そして守り切れなかった自分の情けなさが込み上げ、気が付けば彼の頬に涙がつたっていた。
「鈴さん、すまねえ。間に合わんかった……、すまねえ。すずさん、すず……」
気を失い横たわる鈴の元で、源助は泣きながら謝り続けた。
十年以上も前、何よりも大事だと思っていた妹、鈴を守り切れなかった。
自分が何も知らないところで、知らない場所で、たった一人命を散らしてしまった妹、鈴。
その妹と境遇の似た娘と知り合い、これも妹が引き合わせてくれたのだろうとさえ思うようになっていた、目の前の鈴。
妹の身代わりのように思い始め、自分の残りの人生をかけ守りたいと、そう思っていたのに。
ここでもまた守り切ることができなかった。
だが、この状況下で命が助かっただけでも儲けものだと、そう自分に言い聞かせる。過去に守れなかった妹への罪を懴悔しつつ、目の前に横たわる鈴への誓いを新たに立てた。
「一生、守り抜く」と……。
「鈴さん、少しばかり苦しいかもしれねえが、我慢してくださいよ」
そう言うと、源助は鈴を肩に担ぎ上げ、廃寺を後にした。
とにかく鈴が心配で、頭がうまく回らない。
こんなことは今までに一度として無かった。鈴が自分を置いて消えることなど、思いもつかなかった。
「捨てられた」と、銀次はポツリと呟きその身を振るわせた。
「しっかりしろ! 鈴さんがおめえを捨てるとは思えねえ。
いいか、落ち着いて聞くんだ。彼女はたぶん、かどわかしにあったんだと思う」
「かどわかし?」
「ああ。鈴さん自身が恨みを買うとは考えにくい。なら、あんただ。
あんたの過去の行いで、思い当たることは山ほどあるんじゃねえのかい?」
思ってもいなかった言葉に銀次は「はっ」とする。
可能性は十分にある。なぜなら、自分は元おかめ盗賊の一味なのだから。
今もこの町に太一たちが潜んでいる可能性が高い以上、あいつらが鈴を連れ去ったと考えるのが妥当かもしれない。
なぜそんな簡単なことが思いつかなかったのかと、銀次は自分を責めた。
「なあ、銀次さんよぉ。悩むのは後にしてくれや。今は鈴さんの無事を確かめるのが先決だ。そうだろう?
今のおめえさんじゃ、人探しは無理だ。役に立たん。
俺は元岡っ引きだ。人探しは得意なんだよ。だから、知ってることを全部教えてくれ。どんな些細なことでも構わねえ。あの子を助ける為だ。
頼む、早く教えてくれ!!」
銀次の肩を掴み、必死の形相で頼み込む源助を前に、涙で塗れた顔を拭いもせずに話し始めた。
おかめ盗賊はあの後、塵尻になり逃げ回っていること。
源助の妹を殺したのは太一と言う兄貴分であり、その太一が今世間をにぎわせている黒狼らしいということ。
そしてつい先日、その太一をこの町で見かけたこと。
太一は自分たちを恨み、仕返しに来ているのではないかと思うと。
だが、与市のことは最後まで言葉にはしなかった。それだけは銀次にとって、守り抜きたいものであり、せめてもの恩返しのつもりでもいたのだった。
大体の話を聞いた源助は思考を巡らす。
方々の町々を探し回る中で一番にすることは、空家や廃屋、森や林と言った隠家に出来る場所を見つけ出し、捜しまわることだった。
この滝見里に来た時も、古着屋にいる鈴に縫い直しを頼んだ後、町中を探し気になる箇所はいくつか見つけていた。
その時には人の気配は無かったが、その後隠れ家にした可能性もある。
銀次を連れて行ってもいいが、こういうことは独りのほうが動きやすい。
慣れぬものを連れ歩き、相手に知られれば逃げられてしまう。
「銀次さん、俺はいくつか気になる箇所があるから探してみるが、あんたは仲間の所に行って知らせるといい。
相手はもう、あんたらを泳がすつもりはねえらしいからな。
鈴さんはたぶん、あんたらをおびき寄せる人質だ。
あんたたちにとって、あの子がその役目を果たせるかはわからんが、助けてもらえるんなら手伝ってもらえばいい。
わかったら、早く行ってこい!」
ああ、この男は全てお見通しだった。と、銀次は泣き顔を更にくちゃくちゃにして頭を下げた。
与市のためにと黙っていたところで、すでに調べ上げていたのだろう。
それでいて、鈴のためにと待っていてくれたのだ。
すぐにでもお上に垂れこめば事足りるだろうに、妹の仇が打てるのに。
そうしなかったのは、鈴のためなのだ。
理解した銀次は、泣きながら与市の元へと走り出した。
源助の言う通りだ。気が動転し、冷静ではいられない今の銀次では、確かに足手まといになるだろう。
この先、自分の身がどうなろうとも、今はただ鈴を見つけることが先決なのだと、そう自分に言い聞かせ走り続けるのだった。
与市の店へと着いた銀次は、鈴がいなくなったことを告げた。
そして、源助との一件も全て話して聞かせた。
その上で、鈴を助けて欲しいと懇願するのだった。
「あいつの恨みが本物なら、妹は五体満足ではいられんかもしれん。
だが、その男が言うように人質として見ているなら、命までは取らんだろう。
弥吉。すまんが、おめえは銀次と一緒に探しに行ってくれ。今のこいつは正気じゃねえ。ちいとばかし手伝ってやってくれや」
「へい」
弥吉は項垂れる銀次の肩に手をおき、「でえじょうぶだ。絶対に見つけてやる」と、励ました。
「俺と権八はここで太一を待つとするぜ。あいつのことだ、絶対に渡りをつけてくるはずだ。そいつを待ってみるさ」
与市の言葉に権八は頷き、銀次たちを店の外まで見送るのだった。
「もし、妹を見つけてもここには戻るな。銀次はそのままそばにいてやれ。
弥吉はその後、まっすぐに長松の所に使いに出てくれるか。
そのまま二人で、宮浦で待っていてくれ。必ず行くから、頼んだぞ」
権八の言葉に二人は頷き、店を後にするのだった。
銀次たちを見送った後、権八は店の中へと戻り「行きやした」と報告をする。
「そうか。おめえには最後まで苦労をかけるな。すまねえ」
客用の木椅子に座ったままの与市の目は、もう見えてはいない。
光がわかる程度にまで視力が落ちた分、人の動きや察しは敏感になっていた。
感覚が研ぎ澄まされ、聴覚も臭覚も冴えわたるようになった。
「やっこさんたちも、そろそろお出ましかな。権八、頼んだぜ」
「へい、お任せください」
二人は誰もいない店内で、身じろぎもせずに今や遅しと待ち構えるのだった。
銀次と弥吉が町中を走りまわり、鈴を探し回っていた頃。
源助はあたりをつけた空家を回っていた。
意外と町中の喧騒に紛れ、中心部に近い所を隠れ家にする場合も多い。
だが、今回はそうじゃないだろうと踏んだ。
人質が居る以上、暴れて騒がれてはマズイ。きっと、町はずれに近い所だろうと考え、町人に紛れるようにして空家を探し始めた。
それは三件目の事だった。
草藪に覆われた小道を抜けた所にある、廃寺。
背丈ほどに伸びた雑草に覆われ、鬱蒼としている。人の目を誤魔化すには丁度良い場所だ。源助はゆっくりと、なるべく草を揺らさぬように踏み入って行く。
進んで行くと、廃寺の屋根が見え始めた。さらに歩調を緩め近づいていく。
すると、墓石も倒れ荒らされた墓地が現れ、視界が開けてくる。
廃寺の裏手に周り隙間から覗き込むと、若い男の影が見えた。
柱によりかかりうたた寝をしているようだった。
『ここに違いねえ』と、さらに気を張り直した。
源助は大きめの石を掴むと、閉ざされた木戸の脇に立った。そして、掴んだ石を木戸に向かって思い切り投げつけたのだった。
「誰だ!!」
中にいた見張りであろう男は、うたた寝から飛び起きると慌てて木戸を開け外に出て来た。そこを脇に隠れていた源助が飛び出し、男の後ろ首めがけて手刀を入れる。男は「うっ」とうめき声をあげ、その場にしゃがみ込んだ。
一瞬の怯みを源助は逃さない。さらに男の脇腹に蹴りを入れると、そのままみぞおちを蹴り上げ、男を伸し倒したのだった。
気を失った男の襟元を掴み柱まで引きずっていくと、男の帯をほどきその根元にくくりつけた。
これで当分は足止めができる。早く、早く鈴さんを見つけなければと、急ぎ奥寺の奥へと向かうのだった。
廃寺になり随分経つのだろう、ご本尊にあたるであろう仏像はその形だけは維持していたが、埃をまといかつての栄華は微塵も感じない有様だった。
仏像の脇にくぐり戸のような物があり、源助はそこを覗いて見た。
腰を屈め中を覗くと、そこに女性らしい足が見えた。
『っ!』思わず声を上げそうになるが、袖口で口を覆いなんとか声を殺す。
身を低くし中に入ると、そこには捜していた鈴の姿があった。
鈴の元に駆け寄り、生気の抜けたようなその鼻と口元に手をかざす。微かではあるが呼吸を感じる事ができた。
『良かった。生きてる、良かった』と、大きく息を吐き安堵するのだった。
生死だけが気がかりで、やっと安心したのも束の間。少しだけ冷静さを取り戻し彼女の姿に目を落とすと、それは明らかに乱された後だった。
気を失い、抵抗の出来ない小娘に無体なことをしたことは誰の目にも明らかだった。口惜しさと憤り、そして守り切れなかった自分の情けなさが込み上げ、気が付けば彼の頬に涙がつたっていた。
「鈴さん、すまねえ。間に合わんかった……、すまねえ。すずさん、すず……」
気を失い横たわる鈴の元で、源助は泣きながら謝り続けた。
十年以上も前、何よりも大事だと思っていた妹、鈴を守り切れなかった。
自分が何も知らないところで、知らない場所で、たった一人命を散らしてしまった妹、鈴。
その妹と境遇の似た娘と知り合い、これも妹が引き合わせてくれたのだろうとさえ思うようになっていた、目の前の鈴。
妹の身代わりのように思い始め、自分の残りの人生をかけ守りたいと、そう思っていたのに。
ここでもまた守り切ることができなかった。
だが、この状況下で命が助かっただけでも儲けものだと、そう自分に言い聞かせる。過去に守れなかった妹への罪を懴悔しつつ、目の前に横たわる鈴への誓いを新たに立てた。
「一生、守り抜く」と……。
「鈴さん、少しばかり苦しいかもしれねえが、我慢してくださいよ」
そう言うと、源助は鈴を肩に担ぎ上げ、廃寺を後にした。
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