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王太子だって恋がしたい ~アルバート編~
~その7~
しおりを挟む宮殿内にある、ソフィアの部屋。
今この部屋には、普段なら似つかわしくないような顔ぶれが揃っていた。
アルバートとソフィアが並んで座り、その向かいに侍女マリアが。
そして、部屋の入り口には護衛のルドルフが立ち、なぜかマルクスがお茶を入れている。
なぜ側近であられる、あのお方がお給仕を? 私の仕事では? マリアは不思議な思いでマルクスを見つめていた。
何の迷いもなくお茶を入れるその姿は堂に入ったもので、普段から慣れている様子が見て取れる。しかも、とても美しい所作で、マリアはしばしうっとりと見とれてしまった。
それを見た三人は『やはり』と、確信を持った。
マルクスによって入れられたお茶はとても美味しく、嬉しそうに顔をほころばせて飲むマリア。後で入れ方を教えてもらおうと思いながら、自分ではこんなに美味しく入れられないかもしれないなぁ。と、がっかりとした顔でお茶を飲む。
そんな彼女の百面相を見ながら三人はまたしても『恋する乙女』の顔色に、何とかしてやらなければと、決意を新たにした。
少し落ち着いたところでソフィアが声をかける
「マリア、少し聞きたいことがあるの。いいかしら?」
なんだろう、こんなに改まって。と、思いながら
「はい、姫様。なんでございましょう?」
「あのね? 実はね。マリアは、その。恋をしたこととかはあるかしら?」
他人のことなのに、頬を赤らめるソフィアを可愛いと思いながら、隣に座るアルバートがにやつく。
「はぁ、恋ですか? そうですね、あると思いますが」
「そうなの? 恋を知っているのね?」
食らいつく勢いで聞き返すソフィアに、驚いたように上半身だけ後退るマリア。
そこにアルバートが助け舟をだす。
「マリア嬢、ご令嬢にこんな質問をするのは気が引けるのだが。今、慕っている人物がいるのではなだろうか?」
「え? 今でございますか? いえ、そのような方はおりませんが」
なんでそんな質問をされるのかわからないと言ったような顔をして、澱むことなく答える姿は、嘘をついている風にはとても見えない。
「マリア。本当の事を言って、誰もあなたを責めたりしないわ。人を好きになるって尊いことだし、素敵なことだもの」
「はい、姫様のおそばに仕えてわかりました。恋は女性を綺麗にすると言いますが、姫様はセナン国に来られてから益々お綺麗になられましたもの。やはり、愛する王太子殿下のおそばにいられるって、スゴイことなんですね」
ニコニコと何の屈託もなく答えるマリアに、ソフィアの方が顔を赤らめ身を縮め、恥ずかしそうに俯いた。
「マリア嬢」
向かい合わせに座る三人の脇から、マルクスが声をかける。
その声に合わせたように、一斉に視線がマルクスに注がれる。
「単刀直入にお聞きします。あなたは、この私に恋をしているのでしょうか?」
「「「「!」」」」
三人+ルドルフまで驚きの顔でマルクスを見つめ、思った。
『もう少し、言い方ってものがあるだろうに』
『やっぱり、こいつは氷だ』
『そんな、ハッキリ言わなくても』
(さあ、誰の言葉でしょうか?)
「あの、もう一度お聞きしてもよろしいですか?」
マリアの問いに、『え? もう一度聞くの? ある意味スゴイな』と、三人は思った。
「聞こえにくかったでしょうか? それは申し訳ありません。では……
マリア嬢は、この私のことを好きなのでしょうか?」
ああ、なんかさっきよりもストレートな気がする。と、三人は言葉を失った。
いくら侍女とはいえ、うら若き乙女。もう少し、気を遣った言葉選びをして欲しい、仕事じゃないんだから。と、 言いたい思いを飲み込んだ。
マリアはマルクスの顔を正面から見据えハッキリと答えた。
「いえ、好きではありません」
そう『好きではない』のか。そうだよね、わかってる……って、
「「「え?」」」
三人は驚きの声をあげた。
落ち着いて話をしてみれば、皆が納得できる内容だった。
そもそもは、かつてのすれ違いが生んだ結果。それでも、今は皆が幸せになっている。
宮に仕える者が下世話な噂話などすること自体が問題だとアルバートは怒り出すが、それも自分たちが蒔いた種だ。
ならば自分たちが幸せになることで、巻いた種を刈ればいい。
自分達ならそれが出来る。と、見えない自信をのぞかせた。
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