愛しい口づけを

蒼あかり

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穏やかな日差しがこぼれる庭で、初老の男性が花壇の隅に立つガゼボに座っていた。

手には読書用の本を持ち、組んだ足の上にはひざ掛けがかけられている。
テーブルの上には彼が好きな紅茶が注がれていたが、すでに冷めきっていた。

庭では幼い子供たちがボール遊びをして、楽しそうな声が聞こえる。
それに合わせて親たちの和やかな声が重なりあうように流れてくる。
心地よい風が頬をなで、暖かい日差しとともに眠気を誘う。

本を持つ手が膝の上におかれ、しばらくするとその手が本とともに膝から落ちる。
一緒にひざ掛けもずれ落ち、彼の頭も自然としなだれる。

彼の様子に気が付いた初老の女性がそばに歩み寄り、彼の手から落ちた本とひざ掛けを拾い上げる。
本をテーブルの上の置き、ひざ掛けを掛けなおそうと膝から落ちた彼の手を取り、


『あなた・・・』


声にならない言葉が美しい口元からもれる。
彼女は崩れ落ちるように彼の元に膝をついた。
彼の手を握りしめ、もう片方の手を彼の頬にあてる。
彼の頬から唇に指をなぞり、腕をつたい両の手で彼の手を握りしめ、その甲にくちびるを押し当てる。

優しく、愛しい口づけを。

愛おしむように何度も握り返し、何度も、何度も、くちびるを落とす。

「あなた、すぐにわたくしも参ります。
 心から愛しています。
 ありがとう。」

彼の顔はまるで微笑むように優しい顔をしていた。
彼女もまた初めて恋をした少女のようにはにかみ、彼の手を握りしめたまま、彼の膝に頬を横たえた。



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