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誰だよ! 史上最強、最悪の魔王とか言ったのは?

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「おい! 史上最強で最悪の魔王とやらは、どこいった?」


 目の前の若く美しい女性を睨みつけながら、勇者と呼ばれし男がつぶやいた。
 なんなんだこれは?と、彼の頭の中は「?」が飛び交っている。
 だが、それも致し方が無いと思う。
 今、勇者と呼ばれる男の目の前には灰色の修道服をまとい、首からぶら下げた太陽のモチーフを握りしめ、プルプルと小刻みに震えている女性がいる。

『かわいい……』そんな事を思っているとは知らないであろう目の前の女性は、震える身体を小さく丸めるようにうずくまり、膝を付き懇願してくるのだ。


「どうか、どうかここの魔人の皆さんをお助けください。私はどうなってもかまいません。私の首で気がすみのでしたら、お好きなように刎ねてください。
 ですが、ここの魔人の皆さんは決して悪い人では無いのです。
 ですからどうか、どうか、お慈悲を!!」

 石畳の床の上に直についた膝は冷たく痛いだろうに。自分の命と引き換えにしても、魔人を助けたいと願う女性の頼みを聞かないわけにはいかない。

 だって、勇者だもの。

「ほら、立てよ」

 そう言って勇者は女性の腕を取ると強引に引き寄せ、その場に立たせた。

「なんか理由がありそうだな。とりあえず、話してみろ」

 話し合いをしてくれるのか?と、驚き呆気に取られて女性は周りを見渡す。
 二人の周りには、勇者によって傷つけられた魔人が転がっている。
 命までは取られていないようだが、深手を負っている者ばかりだ。
 女性はその中の一人に視線を向けると、その魔人はゆっくりと頷いた。
 魔人の許可は下りた。そう確信した女性は、ゆっくりと語り始めたのだった。

「私はかつて、ある国を守る神殿に仕えておりました。幼少の頃、気が付けば癒しの力が備わっていたようで、貧しい農家の娘でしかなかった私はそのまま神殿に身をおくことになりました」

「え? 癒しって。じゃあ、あんた聖女様?」

「は、い。皆様にはそう呼ばれていました」

「……。ああ、なんか思い出した。王子と婚約してたけど、追放された人?」

「っ! はい。お恥ずかしながら、たぶんそれだと思います」

「ああ……、そう。それは、まあ。大変だったねえ」

「いえ、それほど、でも?」

 勇者は変な方向に話が向きかけているような気がしていたが、「ま、いっか」と、疑問を捨てることにし、頭をボリボリかきながら言った。
「なんか、話しが込み入ってきて長くなりそうな気がするんだけど、どっか座って話そうか?」と答えると、女性と目配せをしていた魔人があらぬ方向に曲がった足を引きずりながら近づいて来た。
 勇者は右手に持っていた剣を握り直し、その切っ先を魔人に向ける。
「違います。この魔人さんはここの管理者さんなのです。敵意はありません。
 彼はきっと私達を部屋に案内してくれるつもりだったのです。ね、そうですよね?」

 とっさに庇うように前へ出た女性に言われた魔人は、「はい。お部屋にご案内いたします。よろしいでしょうか?」と、ひれ伏すかのごとく頭を下げた。
「それを信じろってか? ま、いいや。
 もし、一瞬でも変な真似をしたらこの剣がお前の腹に風穴を開けるからな」
「はい。承知しております」

 頭を下げた魔人を先頭に、三人は奥の部屋へと歩いて行くのだった。


 ここは魔人が居を構える、かつて人間たちが神殿と呼んでいた場所。
 石でできた建物は華美さはないが頑丈にできており、多くの魔人が寝泊まりするには丁度良い広さだった。
 国境の境に位置するこの地で神を祀っていた痕跡は今は無く、人々が手を合わせ祈りを捧げた神の形は粉々に砕かれ、石ころへと変わっていた。
 その石ころをジャリリと踏みしめながら歩く音に交じり、ズズ、ズズと引きずるような音がする。前を歩く魔人の足がぐにゃりと曲がり、引きずっている音だった。
 勇者は何事もないかのように後ろを歩いていたが、聖女は我慢しきれなくなったのか、勇者の前に立ちふさがった。

「お願いします。彼の足を治してあげてもいいでしょうか?」

 勇者は『はて?』と首をかしげてみせた。

「治す? その、なんか変な方向に曲がった足を? どうやって?」

「はい。私の癒しの力を使えば、簡単に」

「え? 簡単に? マジで?」

「はい。お見せいたします」

 聖女は言うが早いか、魔人に向かって手をかざした。瞳を閉じ念じ始めた彼女の手は光り輝き始め、信じられない曲がり方をした魔人の足は『グルン』と元通りに戻っていた。

「え? ちょっ、待って。今のなに? 何やったの。どうやったのさ、ねえ!」

 勇者は驚きを隠すことなく、聖女の肩を掴み揺らし始めた。
 鍛え抜かれた勇者の腕力で、聖女の首はグラングラン揺れ「あ、あの、ちょっ……」と、声を出すも聞こえていないようだった。
 これはマズイと思った魔人が慌てて止めに入り、「勇者様。聖女様の首が、首がぁぁぁあ!!」と喚いたことで正気を取り戻した勇者は、慌てて手を離した。

「す、すまない。大丈夫か?」

 ゴホゴホ、ケホと咳き込んだ聖女は、魔人に支えられながらなんとか耐えていた。

「ハ、ハイ。ダイジョウブ、デ、ス」

 首を抑えているがなんとか自分の足で立っている。勇者はそれを見て大丈夫と判断したようだった。


「おまえ、すげえな。聖女の力ってなに、本物なんだ?」

「ほ、本物かどうかはわかりませんが、傷や病を治すことが出来るようです」

「へえ、すげえな。そんな神業を持つあんたを、王子様はむざむざ手放したのか? 案外馬鹿なんだな」


 勇者の言葉に何と言って答えて良いかわからない聖女は、苦笑いを浮かべながら無言でうつむいた。
 びっくりするような曲がり方をした足を治してもらった魔人は、慣れているのだろうか? さして驚くことも無く、聖女に頭を下げると黙って歩き始めるのだった。





 この国の国境沿いには魔の森が存在する。魔のものがうごめく森を抜けると、そこには魔人たちの住まう国が存在する。
 魔人たちは人間と近い容姿をしているが、その力は比べ物にならないほどで、魔力を持った彼らは人間が想像もできないことをいとも簡単に出来てしまう。
 簡単に言えば、超人。うん、そんな感じ……。
 ただ、見た目が非常に醜悪で、人間の五感を非常に不快にさせるのだった。
 魔物と呼ばれる獣の形をしたものたちは、知能が低いこともあり度々人間界に下りては悪さをしたりもするが、魔人に関しては人間に危害を加えることは無かった。
 魔の森を境にして、人間と魔物の境界はしっかりと隔たれているので、関わりにならなければ問題はなかったのだ。
 それが近年、魔物が持つ力を欲しがる人間が増え、魔物ハンターと呼ばれる人間たちが魔の森に入り込むようになった。 
 彼らも魔獣だけを狩り去って行けば良いのだが、弱いはずの人間が逆に魔人の国に入り込み悪さをするようになった。
 魔人たちも最初は見逃していたのだが、段々とエスカレートする仕業と数の多さについにキレ、人間界に仕返しをと考え始めていた。


 そしてここ最近は特に、魔の森に人間を置き去りにする事態が激増し始めた。
 何の力もない人間は、魔の森に住む魔物の餌になってしまうのは必然。
 無残な姿を見つけた魔人は当初、誤って迷い込んだ旅人かなにかだと思った。
 だが、瀕死の者を見つけ聞いた話では、断罪のためにここに捨てられたのだと言う。
 二度と帰って来られないようにするためには、この場所がうってつけなのだと。
 人間はなんと恐ろしい生き物なのかと、魔人たちは恐ろしい身形で心を痛めた。
 そう、見た目はともかく、心根は優しい者たちなのだ。
 それからというもの、魔人たちは定期的に魔の森を散策し、さ迷う者を見つけては保護をし、この国とは反対の他国に送り届けてやっていたのだ。
 

 そして、見つけた聖女。

 彼女は魔物に襲われそうになっていたところを魔人に助けてもらった。その際に傷ついた箇所を、お礼にと一瞬で治してくれた。それを見た魔人たちは、聖女だ、聖女様だと狂喜乱舞し、それからというものかつての神殿で彼女を保護しつつその恩恵を受けていたのだ。

「聖女は昔からその力を他国に取られぬようにと、王族の方と結婚をする習わしがあるのだそうです。
 私は、たまたま年齢の近い王子様と婚約をすることになりましたが、私が神殿を出ることはありませんでしたし、年に一度だけ建国記念日に行われる祝賀会に出る為にお城へ行き、そこで王子様と会うだけでした。
 それが昨年の祝賀会で突然、新しい聖女が見つかったからと婚約をなかったことにされたのです。それだけならむしろ嬉しいことなのですが、初めてお会いした新しい聖女の方を私が虐めたと言われて、それで追放されることになったのです。
 私は、何のことかわからぬままに馬車に乗せられ、気が付けば魔物の森に放り込まれてしまいまして。魔物に襲われそうなところを、ここの魔人の皆様に助けていただいたのです」

「聖女様は我々の姿を見ても怖がることもなく、傷や病を治してくださいました。
 我々にとって命の恩人なのです」

「いいえ。命を助けてもらったのは私の方です。あの時助けていただかなければ、今頃は魔物のお腹の中でした」

 この聖女、顔に似合わず結構グロイことを平気な顔して口にするんだな。と、勇者は心の中で思う。


「ま、話しはわかった。お前さんが可哀そうなのも、魔人にも言い分があるのもわかった。だけど腑に落ちないのは、俺が魔王退治を頼まれた理由だ。
 俺は王様に呼び出されて『史上最強で最悪の魔王』が悪さをしているから倒して来いって言われたんだ。
 で? その魔王とやらはどこにいるんだ? お前たち魔人が崇め奉る魔王とやらは?」

 勇者は向かいに座る聖女と、その後ろに立つ魔人を交互に視線を動かす。
 そんな勇者の視線を受けつつ、魔人が口を開いた。

「今、あなたの目の前で座っていらっしゃるお方です」

「……、は?」

「ですから、今ここにいらっしゃる聖女様のことでございます」

 きょとんとした顔で、目をパチクリする勇者は突然大きな声で笑い出した。

「がははは!! いや、それはない。彼女が魔王でないことくらい馬鹿な俺でもわかるぞ。なあ、聖女殿」

「は、はい。私もわかります」

「だよな? おい、俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよ」

 すっくと立ち上がり、魔人の元に歩み寄る勇者を見て聖女は慌ててその前に立ちふさがる。それを制するように魔人が手を伸ばし、聖女の動きを止めた。

「聖女様、よろしいのです。
 勇者様、あなたがおっしゃる魔王など、初めからいないのです。ここ魔人の国は、魔王などいなくとも健全で平和な国だったのですから」

 勇者は魔人の言うことがよくわからなかった。
 平和なことは何よりだ。だが、国である以上、いや大勢が集まれば自然にそれをまとめるリーダーは必要になるだろう。人々はそれを王様と呼ぶんじゃないのか?と。


「じゃあ、誰がこの魔の国をまとめていたんだ?」

「まとめるまでもなく、ここの魔人は皆おだやかで、心根の優しいものばかり。争いごとなどおきたことがありませんでしたから。考えたこともありませんでした。
 ですがまとめると言うか、食料だったり物資を配布したりという作業のことを言うのでしたら、この私がやっておりました」

 勇者は考える。
 魔人がおだやかで、優しい? いや、それはない、それは。

「俺が知る限り、魔人とは魔獣のように凶暴で人間を襲うと聞いている。違うのか?」

 魔人は聖女と視線を合わせると、互いにうなずき合い口を開いた。

「勇者様がそのお話をいつ、どこで、誰に聞いたのかはわかりませんが。それでしたら、勇者様は魔人が人を襲う姿をご覧になったことはおありですか?
 魔獣のように人間を襲い、家畜に牙を剥き、人間界を荒らすような。そんな行為をその目でご覧になられたことが?」

 そして勇者はまたしても、考える。
 そう言えば話しに聞くだけで、見たことは無い。それも噂だけで、実際に見たとか襲われたと言う話を直接聞いたことがないことに気付く。

「見たことは、無い。……な」

「それが答えなのです」

 魔人は直立不動で答えた。

「なら! だったら、どうしてそんな噂が立つんだ? 魔人は狂暴だとか、邪悪だって。
 しかも、史上最強、最悪の魔王って、一体なんなんだ?」

「それは、王子様たちが私の事を消そうと。そう思ってのことなのだと思います。
 それほどに私は憎まれているのです。きっと」

 俯き気味に、寂しそうな表情で答える聖女。
 いや、それはなんだ?どういうことだと勇者は考える。考えて、考えて、考えた答えが「王様が嘘を吐いてるってことか?」だった。
 聖女と魔人は顔を合せ黙って頷いた。それを見た勇者はまたしても考える。

「聖女を憎む理由がわからない。魔物の森に捨てたのならそれで良いじゃないか」と。
 聖女が捨てられた後も、何人もの人間が魔物の森に捨てられた。そんな者たちを救い、聖女が手当をした後で逆の隣国に逃がしてやった。そういった者達が聖女の存在を隣国で口にし、そして素晴らしい方だと崇め奉る。
 そんな話が周り回って聖女を捨てた国にも流れ着き、そして聖女が生きながらえていると知ってしまったのだ。
 聖女の力は絶大で、一国を沈めるほどの力を持っている。
 だが、聖女と呼ばれし女性はその力を使うつもりなどなかった。元々そんな力に興味も無いし、むしろ煩わしいとすら思っていたほどだから。
 助けられた人間に、一緒に復讐しようと耳打ちされたこともあった。だが、魔人たちの元で暮らす日々は静かで穏やかな日々だった。この生活を捨ててまで復讐する気などさらさらなく、聖女は今のままで十分だとそれを断り続けていた。

「私の持つ聖女の力で復讐されることを、他国にさらわれこの力を使われることを恐れているのでしょう。そんなつもりなど毛頭ないのですが」

「他国がおまえをさらいに来たのか?」

「何度かそのような者達が魔物の森に来たことはありました。ですが、そういった者を助けるつもりはありませんので、見て見ないふりをしています」

 しれっと言い出した魔物の言葉に勇者は少し身震いをした。
 それはイコール魔獣に襲われるという事。なるほど、彼らは今頃魔獣の腹の中かと、そんな残忍さもあるのだなと納得してみた。

「で、勇者である俺に聖女を殺るように命じたわけか」

 聖女も魔人もうつむいたまま返事はしなかったが、それが答えなのだろう。

「なるほどね、そういうことか。
 で? どうしたい? その答えによっては俺の動きも変わってくるんだが」

「え? どうとは? 私を倒しに来られたのですよね?」

「まあ、そのつもりだったし、そう命じられてもいた。だがお前たちが嘘をついてるとは思えないし、そもそも復讐しようとも思っていないんだろう?」

「はい、それはもちろん」

「だったら、聖女を含めお前たちをどうこうする意味がない。報酬も後払いで貰ってないしな。お前たちの話を聞いたらなんか、報酬もあてにならない気がしてきたし」

「では、助けていただけるのですか?」

「助けるも何も、これまで通りの暮らしができるならそれでいいんだろう? だったら、俺がすることは無いよな」

「「ありがとうございます」」


 聖女は立ち上がり、魔人とともに深々と頭を下げた。
 二人はそれで満足だった。勇者が魔王を仕留めたと国王の元に戻れば、全て丸く収まると思っていた。時間はかかっても聖女の噂も立ち消え、隣国からの使いの者も来なくなるだろう。そうすれば犠牲になる者も次第にいなくなるはず。
 それで良い。それで良いと心から思っていた。





 その後、勇者の許可を得て聖女は魔人たちに癒しの力を使いその傷を治した
 一国を潰す力を持つ聖女は、魔人の国を一気に修復したために、一瞬眩暈を起こしたがそれだけだ。その力を目の前で見た勇者は心から驚いた。そして、欲してしまった。

「お前たちの思いはわかった。これから先は俺がかたをつける番だ。
 俺に魔王討伐を依頼した者に会いに行く。大丈夫だ、上手くやる。心配はいらない」

 勇者の言葉に聖女も魔人も「ほっ」と胸を撫でおろした。
 これで安心して暮らすことが出来ると、そう思っていた。


「俺が俺の役目を果たした後、ここに戻って来てもいいだろうか?」

 突然の言葉に聖女も魔人たちも驚きで声を失った。

 あれから勇者をもてなしながら、人となりを知った。
 勇者も人の子。たとえ魔獣といえども無下に命を散らしたいわけではない。
 ましてや、一緒に寝食を共にした数日間で魔人たちが本当に大人しく、心根の清い生き物だと知った。知ってしまったのだ。
 知ってしまったらもう己の心に嘘はつけない。正直者の勇者にとって、己が信じる者が全て。その姿、容姿は関係ない。清らかな心を持つ者こそが正義であり、それが真実。
 そう思ってしまったら、後には引けない。
 

 だって勇者だもの。


 勇者の言葉の意味を誠に理解した魔人は黙って頷いた。
 そして、その真実を知らない呑気な聖女は「まあ、そうですか。いつでも歓迎いたします。どうか気をつけてくださいね」と、満面の笑顔で答えるのだった。







 それから数か月。

 とある国が、たった一人の男によって滅ばされてしまった。
 と言っても滅ぼされたのは王族の者のみであり、その国の民は皆無事だったという。
 たった一晩でかたを付けられた王城には、次代の者が高き椅子に君臨したそうだ。
 誰の仕業なのか……それは誰も知らない。知らないことになっている。
 そんな噂話が耳の良い魔人に聞こえ始めたが、それは彼らの中だけに留めることにした。聖女には何の罪もないのだから。
 聖女にはこの地で、心穏やかに過ごして欲しい。そう心から思う魔人たちだった。


 その後、史上最強、最悪の魔王は勇者が討伐したとの話しとともに、聖女も魔獣の手にかかったとの噂が近隣の国に流れ始めた。
 そして、魔の森に人が投げ捨てられることは無くなった。
 昔のように人間と魔人の国との境界線はハッキリと区切られ、互いの領分を犯すことは無くなり、聖女の憂いも、魔人たちの苦慮も必要なくなったのだった。




「今頃勇者様はどうされているかしら。上手くいっているといいわね」

 そうつぶやく聖女に「大丈夫ですよ、彼ならきっと」そう答える魔人。

「そうよね、大丈夫よね。また旅に出られる時に、ここに寄ってくださるといいわね」


 毎日の祈りとともに、勇者の身の安全も祈り続けている聖女。
 そんな彼女には聞こえない足音を感じ取る魔人たち。
 早く、早くと急く気持ちを抑えつつ、勇者を待ち続けるのだった。






「聖女殿! 元気でいるか!?」


 聞き覚えのある、待ちに待ったその声に聖女は祈りも忘れ駆け出していた。







~ 完 ~





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