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 手紙の返事が来ないアリシアを心配して、王都にあるバルジット家のタウンハウスに仕事帰りに立ち寄ったレイモンド。
 ただの行き違い、もしくは少し体調を崩しているくらいだろうと思っていたのだが、執事から聞かされた事実は大きく違っていた。
 

 アリシアはバルジット家の領地に行ったのではなく『修道院』に入ったと聞かされた。


 なぜ?なぜだ?と執事に詰め寄るレイモンドに、執事は涙交じりに答えた。
「どうかお嬢様を。アリシア様をお救いください」と。


 アリシアは最初から領地に籠るつもりはなかったのだ。
 アーサーは必ず来る。どんな方法を使っても、必ずアリシアの元へ手を伸ばして来る。
 その手から逃げるためにはこうするしかなかったのだと。
 それほどにアーサーから逃れたかったのだとも。

「もちろん侯爵殿も承知のことなのだろうが。それにしても、ここまでする前にどうにかすることは?国王に相談するとか、方法はなかったのですか?」

執事は首を横に振り、
「すべて、出来ることは……。全てされております」

 レイモンドは侯爵に会いたいと願い出たが、その日は出かけており侯爵は不在であった。どこの修道院かは執事にはわからないらしい。彼も後で話を聞いただけだ。
 それからしばらく侯爵家に通うが中々会うことが叶わない。
 そんな時、王宮内で偶然侯爵を見かけた。きっと、しつこいと思われ避けられていると思っていたが、向こうの方から声をかけられ逆に驚いてしまった。

「副隊長殿。いつも我が邸にお越しいただき、申し訳ありません。中々都合が合わずにおりまして」
「いえ、私の方こそいつも勝手にお邪魔して申し訳なく思っておりました。侯爵にどうしてもお聞きしたいことがございます。」

 レイモンドの言葉に、苦笑いを浮かべながら
「わかっております。しかしながら、ここは些か風通しが良すぎるようでございますね」
 そう言ってちらりと周りを見やった。

「あなた様の質問に私がお答えできることはありません。今はただ、そっとしておいて欲しいと、それだけでございます。全て納得した上での行動です。そこに後悔はないと、そういうことです。副隊長殿もどうかご自身の身を案じ、つつがなくお過ごしください」

 バルジット侯爵は、レイモンドの答えを待たずにその場を後にした。
 まるで、これ以上は関わるなと。彼の背中がそう語っているようだった。



 どうすることもできないとわかっていても、じっとしていられずに騎士隊に戻りデリックに相談することにした。

 話を聞いたデリックは腕を組み、目を瞑ったまま一言も話さない。
 「私はどうすれば良いのでしょう?」
 レイモンドの問いにもデリックは答えてはくれない。

 時間だけが過ぎていく中、やっと口を開いたデリックは、
「諦める努力は、無駄にはならんだろう」レイモンドが一番聞きたくない言葉を吐いた。

「隊長は、私に彼女を諦めろと?」
「……それを彼女が望んでるってことだろう?」

「っな!!」
「お前に何も言わず消えたのはそういうことだろうが? 本当は黙っていくつもりだったんだろう? でも、最後にお前に会って名前を呼んでくれと頼んだと、それが答えだよ。
最後の思い出に名を呼んでもらいたかったんだろう? 彼女も覚悟の上でお前に会ったんだ。だったら、お前も覚悟を決めるしかないだろうが!! それが彼女の答えなんだから。
 しかも、父親である侯爵自身からも釘を刺されたんだ。これ以上首を突っ込んだら、それこそお縄になるぞ」

「そんな、こと。覚悟なんて俺は出来てないし、したくない。このまま諦めることなんて出来るわけ、ない……」
「だったら最後まで悪あがきするしかないさ。周りに叩かれても、侯爵家から煙たがられても、探し続けるしかない。それに、ばれたらあの殿下が黙っているわけもないからな。お前自身どうなるかもわからん。それでも良いなら腹をくくって求め続けるしかないさ」

 レイモンドはデリックの言葉に何かが吹っ切れた気がした。
 騎士に就いた時点でこの命、国の為に託すつもりでいた。それがアリシアに代わっただけのこと。悩むことなどもう無い。

 己の心のままに、アリシアを全力で探すだけだ。

 全力で探してみせる!


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