10 / 27
~10~
しおりを挟む手紙の返事が来ないアリシアを心配して、王都にあるバルジット家のタウンハウスに仕事帰りに立ち寄ったレイモンド。
ただの行き違い、もしくは少し体調を崩しているくらいだろうと思っていたのだが、執事から聞かされた事実は大きく違っていた。
アリシアはバルジット家の領地に行ったのではなく『修道院』に入ったと聞かされた。
なぜ?なぜだ?と執事に詰め寄るレイモンドに、執事は涙交じりに答えた。
「どうかお嬢様を。アリシア様をお救いください」と。
アリシアは最初から領地に籠るつもりはなかったのだ。
アーサーは必ず来る。どんな方法を使っても、必ずアリシアの元へ手を伸ばして来る。
その手から逃げるためにはこうするしかなかったのだと。
それほどにアーサーから逃れたかったのだとも。
「もちろん侯爵殿も承知のことなのだろうが。それにしても、ここまでする前にどうにかすることは?国王に相談するとか、方法はなかったのですか?」
執事は首を横に振り、
「すべて、出来ることは……。全てされております」
レイモンドは侯爵に会いたいと願い出たが、その日は出かけており侯爵は不在であった。どこの修道院かは執事にはわからないらしい。彼も後で話を聞いただけだ。
それからしばらく侯爵家に通うが中々会うことが叶わない。
そんな時、王宮内で偶然侯爵を見かけた。きっと、しつこいと思われ避けられていると思っていたが、向こうの方から声をかけられ逆に驚いてしまった。
「副隊長殿。いつも我が邸にお越しいただき、申し訳ありません。中々都合が合わずにおりまして」
「いえ、私の方こそいつも勝手にお邪魔して申し訳なく思っておりました。侯爵にどうしてもお聞きしたいことがございます。」
レイモンドの言葉に、苦笑いを浮かべながら
「わかっております。しかしながら、ここは些か風通しが良すぎるようでございますね」
そう言ってちらりと周りを見やった。
「あなた様の質問に私がお答えできることはありません。今はただ、そっとしておいて欲しいと、それだけでございます。全て納得した上での行動です。そこに後悔はないと、そういうことです。副隊長殿もどうかご自身の身を案じ、つつがなくお過ごしください」
バルジット侯爵は、レイモンドの答えを待たずにその場を後にした。
まるで、これ以上は関わるなと。彼の背中がそう語っているようだった。
どうすることもできないとわかっていても、じっとしていられずに騎士隊に戻りデリックに相談することにした。
話を聞いたデリックは腕を組み、目を瞑ったまま一言も話さない。
「私はどうすれば良いのでしょう?」
レイモンドの問いにもデリックは答えてはくれない。
時間だけが過ぎていく中、やっと口を開いたデリックは、
「諦める努力は、無駄にはならんだろう」レイモンドが一番聞きたくない言葉を吐いた。
「隊長は、私に彼女を諦めろと?」
「……それを彼女が望んでるってことだろう?」
「っな!!」
「お前に何も言わず消えたのはそういうことだろうが? 本当は黙っていくつもりだったんだろう? でも、最後にお前に会って名前を呼んでくれと頼んだと、それが答えだよ。
最後の思い出に名を呼んでもらいたかったんだろう? 彼女も覚悟の上でお前に会ったんだ。だったら、お前も覚悟を決めるしかないだろうが!! それが彼女の答えなんだから。
しかも、父親である侯爵自身からも釘を刺されたんだ。これ以上首を突っ込んだら、それこそお縄になるぞ」
「そんな、こと。覚悟なんて俺は出来てないし、したくない。このまま諦めることなんて出来るわけ、ない……」
「だったら最後まで悪あがきするしかないさ。周りに叩かれても、侯爵家から煙たがられても、探し続けるしかない。それに、ばれたらあの殿下が黙っているわけもないからな。お前自身どうなるかもわからん。それでも良いなら腹をくくって求め続けるしかないさ」
レイモンドはデリックの言葉に何かが吹っ切れた気がした。
騎士に就いた時点でこの命、国の為に託すつもりでいた。それがアリシアに代わっただけのこと。悩むことなどもう無い。
己の心のままに、アリシアを全力で探すだけだ。
全力で探してみせる!
0
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
呪われた侯爵は猫好き伯爵令嬢を溺愛する?
葉柚
恋愛
アンジェリカは、貧乏伯爵家のご令嬢。
適齢期なのに、あまりの猫好きのために婚約者候補より猫を優先するために、なかなか婚約者が決まらずにいた。
そんな中、国王陛下の命令で侯爵と婚約することになったのだが。
この侯爵、見目はいいのに、呪い持っているという噂。
アンジェリカはそんな侯爵の呪いを解いて幸せな結婚をすることができるのか……。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
この裏切りは、君を守るため
島崎 紗都子
恋愛
幼なじみであるファンローゼとコンツェットは、隣国エスツェリアの侵略の手から逃れようと亡命を決意する。「二人で幸せになろう。僕が君を守るから」しかし逃亡中、敵軍に追いつめられ二人は無残にも引き裂かれてしまう。架空ヨーロッパを舞台にした恋と陰謀 ロマンティック冒険活劇!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる