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しおりを挟むロベルトからの手紙の返事は7日経っても来なかった。
そんな時、父から話があると執務室へ呼ばれる。中には父と、母もいた。
何事かと少し緊張して入ると、父から大事な話があると告げられる。
「セイラ、お前に縁談の話がきている」
「私に、ですか?」
「ああ、お前にだ。今までのことも全て納得済での話らしい。それも好条件でな」
「好条件?で、そのお相手は?」
「ガーラント辺境伯だ」
「ガーラント・・・さま?でも、あの方は随分と・・・」
「ああ、私よりも年を取っておられる。だが、あの方は若くに夫人を亡くされ、ずっと独身を貫かれてきた。だから側室でも妾でもない、正妻としてお前を望んでくれている。
しかも、お前のことは全て承知していると。持参金も何もいらない。身ひとつで良いとおっしゃっておられるんだ」
「そうですか・・・それはまた好条件ですわね」
「セイラ、お断りしても良いのですよ。何も無理をすることはないのだから。
もうしばらくゆっくりしたらいいのよ。ね?」
母が労わるようにセイラに声をかける。
しかし、このままでいていいわけがないことも十分に理解している。
貴族の娘として産まれた以上、わがままを言えないことも。
ましてや婚約破棄をされ、あげく社交界で悪評がささやかれたような娘にまともな縁談が来るはずのないことも、セイラ自身十分にわかっていた。
「セイラ、その・・・最近クレイン公爵家の子息とは?あまり会ってはいないようだか?」
父の言葉にギクリと肩を揺らし、
「ロベルト様とは・・・そうですね。随分お会いしていません。お手紙の返事も滞っております。
元々身分違いなのです。醜聞持ちの私では不釣合いなお方ですし」
俯き視線を逸らす娘に、かける言葉を見つけることができなかった。
「お父様、この話お受けください。
今の私のような女を嫁にもらってくださるというのです。この機会を逃したら一生嫁にも行かず、この家の厄介者になるか、修道院に行くしかない身です。
売れるうちに売っておいた方が良いというものですわ。
どうか、なるべく高く売ってくださいませ。
私はそんな安い女ではないと、知らしめてください!」
そう言ってセイラは立ち上がり、部屋を後にした。
自室に戻りソファーに座ると、途端に涙が溢れてきた。
そうか、ずっと泣きたかったんだ。と気が付く。
とめどなく流れる涙を拭うこともせず、ただ、ただ、嗚咽をこらえ泣いた。
なにがいけなかったのだろう?
どこで間違えたのだろう?
どうすればよかったのだろう?
レインハルドとの婚約がそもそもいけなかったのだろうか?
その気の無い男を金で買うような真似をしたのがいけなかったのか?
あの日アローラを連れて行かなければ良かったのだろうか?
そうすれば、今頃レインハルドと二人笑っていられたのだろうか?
ロベルトに出会ってしまったことが歯車を狂わせてしまったのだろうか? 未来の見えない、幸せになることは叶わない人を好きになった自分がいけなったのか?
どんなに考えても答えは見つからない。
今頃、どこかの夜会では自分を蔑み、非難の言葉で笑われているに違いない。
婚約者を取られた女。それも親友に。
しかも、その親友を虐げていたらしい女。
性根の腐った悪女のような娘。
どこに行っても後ろ指をさされるなら、いっそ人目に付かない辺境地に嫁げば良いのだと、思った。
社交界に未練などない。綺麗なドレスも光り輝く宝石も、腐りきった自分にはもう似合わない。
こんな娘でも望んでもらえるだけ幸せなのだ。
ならば自分の父親よりも年上の男に嫁ぎ、その方の余生を共に過ごしたのち修道院にでも入り、慎ましく生きられればいい。
誰にも迷惑をかけず、ひっそりと嫁ごう・・・もし許されるのならば。
多くを望んだわけではなかった。ただ、普通の令嬢としての幸せが掴めればと。
ただ、幸せになりたかっただけなのに。それだけなのに。
どんなに待ち望んでも届かない、ロベルトからの返事。
会いたい人への想いが身を焦がしそうになる。
もう届かないだろう、この想いが消えてくれる日は来るのだろうか?
ソファーの上で身を縮め、いっそ消えて無くなりたいと思いながら瞳を閉じる。
涙の跡を頬の上に残したまま、泣き疲れ眠るのだった。
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