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次の日、今度はロベルトがルドー家を訪ねてきた。
生憎、父ルドー侯爵は出かけていたため、セイラが一人で会うことになる。

「ロベルト様。わざわざお越しいただきまして、ありがとうございます」
「昨日レインハルドが訪ねて来たと聞いたものだから。乗りかかった船と言ったでしょう?何かお手伝いできることがあれば?とね」
悪戯っ子のような顔をしてニコリとほほ笑んだ。

二人は向かい合いソファーに腰かけると執事の淹れてくれたお茶を前にした。

「その後、具合はいかがです?」

「ええ。お陰様で何ともありませんわ。元来、丈夫に出来ておりますので。
ご心配いただきまして、ありがとうございます」

「それは良かった。実は心配しておったのです。
なにせ、ご令嬢をこの腕に抱きかかえるなどという役得を得た者としては、自分のせいでもっと具合が悪くなっても困ると思いまして」

「なっ!そんな・・・役得なんて。ホントに失礼な方ですわ」
セイラは頬を赤く染め、ロベルトを睨みつける

「ははは。それでこそセイラ嬢です。その元気があればもう大丈夫ですね。
今度こそ、安心しました」

ロベルトは心底安堵したような笑顔を浮かべ、優しくセイラを見つめた。
そんな風に男性から見つめられたことのないセイラは、ただただ顔を赤らめ俯くしかなかった。

コホン!と後ろで咳払いが聞こえる。
未婚の男女が同じ部屋に二人きりでいるわけにはいかないと、執事のトーマスが壁際に控えていたのだ。

「いや、これは失礼。執事殿を心配させるつもりはなかったんだが。失礼した」

セイラは赤らめた顔を手でパタパタと仰ぎながら
「で?昨日の事を聞きたいと。それでわざわざ足をお運びになったのでしょう?」

「セイラ嬢は本当に話がわかる。そこらのご令嬢とは違って気を遣うことがなくて一緒にいて居心地がいい」

セイラは益々顔を赤らめ「もう、そういうのは結構ですから」と、視線を逸らす。
ロベルトも穏やかな笑顔をセイラに向けるのだった。

「結論から申せば、婚約を解消することとなりました。
ロベルト様には破棄にして慰謝料をとの話もしていただきましたが、私共は解消で十分と思っております」

眉間にしわを寄せ、苦虫を噛み潰したような顔で唸りながら
「うーん、やはりそうですか。ま、所詮他人の私が何かを言う立場にはないから。
セイラ嬢やルドー家がそれで良いとするなら、そうするのが一番良いのだろう」

「ええ、色々とご心配していただきまして、父も恐縮しておりました。
本当にありがとうございます」

「いやいや、おせっかい者の戯れです、お気になさらないでいただきたい。そう侯爵にもお伝えください」

「お心遣い痛みいります」
セイラは頭を深々と下げて礼をする。

「今回このような事になってしまったわけだが、結果としてセイラ嬢は今や婚約者のいない立場になられたわけだ」
お茶をひと口飲むとカップをテーブルに置き、正面からセイラの顔を見つめる。

「ええ、まあそうなりますわね」
セイラは見つめられた視線に少し熱いをものを感じ、胸がトクンと跳ねた。

「ここにも一人婚約者のいない、寂しい男がおります。
もしよろしければ、今後もお誘いをしても良いだろうか?」

ロベルトの懇願にセイラは少し驚いたような目をするも、すぐに淑女の顔に戻し
「今は、あまり人前には出たくないのです。ですから、どうか他のご令嬢をお誘いください」

ロベルトは、なるほどと顎に手を添え少し考えると
「人目に付かない所なら良いのですね?それなら大丈夫だ。
私自身、人混みは苦手でね。特に夜会などは苦痛でしかない。
そうだなぁ、定期的にこうしてお茶の時間を設けながら、どこか人の少ない所にでかけましょう。山へ遠乗りもしたいし、湖などで釣りも楽しい。釣った魚を焼いて食べるのも意外に美味いものだ。ぜひ、あなたにも食べさせたい・・・」

「ちょっ、ちょっと待ってください。そう、早口でまくしたてられても・・・
なんですか?その誘いはもう決定事項なのですか?」
困ったように慌てふためくセイラに

「ははは。決定事項かと聞かれれば、私の中ではすでにプランが出来上がっている。
セイラ嬢もこれから忙しくなる。覚悟された方が良い」
そう言って豪快に笑うのだった。


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