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しおりを挟むセイラがレインハルドの存在を初めて知ったのは、ある夜会のことだった。
偶然見かけた夜会の席で、最初は見目麗しい自分好みの顔立ちだと思った。
でも、それだけだった。
自分から声をかけたり、何か行動を起こすようなことはしない。
憧れ。ただ、それだけだった。
何度か夜会で見かけるようになり、自分と共通の友人がいることもわかった。
でも、行動に起こすことはしない。ただ、見ていられるだけでよかった。
ある夜会でのこと。老齢の貴婦人が階段で足を踏み外しそうになったところを咄嗟に抱きかかえ、助けるレインハルドの姿を見た。
優しい人なのだと思った。
またある夜会で、グラスを落とす失態をしたメイドの手伝いをする姿も見た。
本来であれば、貴族はそんなことをしてはならない。それでも、咄嗟に手が出たのだろう。
身分に関係なく手助けのできる、寛大な人なのだと感じた。
そんな些細なことがいくつも重なり、自然にレインハルドへの想いが募っていった。
会えるのは夜会の席だけ。セイラは友を連れ立ち、レインハルドが出そうな夜会に足繁く通うのだった。
それでも貴族の娘として産まれた以上、恋をしたところで自由に結婚できるはずもないことはわかっていた。
だから、自分の想いに蓋をしていた。開けてしまわぬように厳重に鍵をして。
誰にも気づかれないように。
誰にも悟られないように。
ある日のこと、父と一緒に馬車から降りる青年がいた。
セイラは目を疑った。今、目の前に想い人がいるのだから。
彼は優しくほほ笑んでくれた。セイラの胸は止まるかと思うほど高鳴った。
レインハルドのミラー侯爵家は、領地こそ広いがこれといった産業も特産品があるわけでもなく、領民の多くは農業を担っていた。
しかし、昨年の干ばつで作物は大部分が不作。しかも今年に入ってからの大雨で領地の川が氾濫し、多大なる被害を被った。
このままでは立ち行かなくなると思ったミラー侯爵が、支援の要請をしてきたのだ。
セイラの父親はその支援の要請を受ける代わりに、ただ金の工面だけではなくこれから先の為、後継者である息子の教育を買って出たのである。
しばらくレインハルドを伴って互いの領地を回り、領地経営や農業経営について指南した。
度々ルドー家へ連れ帰り、一緒にお茶をしたり晩餐を囲んだりした。
そのたびにセイラの胸は飛び出さんばかりに跳ね上がり、その日の夜は眠れない時を過ごすのだった。
娘の気持ちにいち早く気が付いたのは母親だった。
そして、父ルドー侯爵もまた娘の変化に気がついていた。
もとより、娘セイラの結婚相手としての指導であった。
これから先、親戚関係を結ぶからこその教育。
しかし、肝心のセイラの気持ちがレインハルドに向かないのであれば、この話を結ばせるつもりは毛頭なかった。
大事な娘であるセイラが幸せになること。それこそが親としての望みであったから。
しばらく領地経営を学ばせた頃、父が娘に問いかける。
「レインハルドのことを、どう思っている?」
娘は言葉が出てこなかった。
心の奥に固く蓋をして鍵をかけた「それ」を引っ張り出す勇気がなかった。
無言の娘になお父親は問う。
「レインハルドのことが好きか?」
娘は・・・涙をこぼした。
そんな娘を母親が「良かった」と、優しく抱きしめた。
その後、セイラとレインハルドの婚約の話がまとまることになる。
セイラはただただ、嬉しかった。
レインハルドもセイラを受け入れ、大事にしてくれた。
側から見れば政略結婚に見えるだろう。レインハルドのミラー家からしたら正しくそうなのかもしれない。
しかしセイラのルドー家からしたら、娘の愛を実らせた純粋な恋愛結婚であると思っていた。
幸せだった。
幸せになると、
なれると思っていた。
そのはずだったのに・・・
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