聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり

文字の大きさ
上 下
6 / 13

~6~

しおりを挟む

次の日から、ティアナは朝の祈りに行くことをやめた。
クリストファーに自分の存在を思い出させる事ができた。ならば、次は聖女だ。

ティアナは王子の婚約者になってからと言うもの、社交の場へは女王に相談し許可を得たものだけにしか参加をしてこなかった。
貴族間によくある派閥などに巻き込まれることがないよう、王家をたてるつもりでの行動だったが、侯爵家としての付き合いもある。婚約者とは言え、まだ嫁いだわけではないのだから。指示を出されたわけでは無いのだし、これからは存分に参加しようと思った。

ティアナはずっと避け続けていた夜会に参加することにした。
まずは噂好きな貴族家での夜会。もちろん、クリストファーはいない。
婚約者がいながら、パートナーを伴わずに一人きりでの参加。
きっと注目を浴びるだろう。今から楽しみだと、心が躍るようだった。


夜会当日。事前に参加の返事を送ると、申し訳ないほどの謝礼の返事が届いた。
王子の婚約者として、ほとんど社交の場に顔を出さなかったティアナ。
その彼女が久しぶりに夜会に参加する。周りは当然、クリストファー殿下を伴ってのことと思っていただろう。
しかし、実際はティアナ一人だけ。エスコート役もつけずの参加である。
予想通り注目を浴びるも、ティアナに気遣って誰も声をかけるものはいない。

主催者である公爵がティアナに近づき挨拶をする

「これは、スプリング侯爵令嬢様。今宵は我が家の夜会にご参加いただき、誠にありがとうございます」

「まあ、ワイマン公爵様。ご丁寧にありがとうございます。
今夜は私ひとりの参加で申し訳ございません。殿下は何やらお忙しいらしく、私ひとりでの参加になってしまいましたの。お詫びいたしますわ」

そう言いながら寂しそうに俯き、扇子で口元を隠した。
きっと周りの者達は、クリストファーは婚約者を放っておいて、今頃聖女と一緒にいるに違いないと、ここにいる皆がそう思ったことだろう。

夜会の間もティアナはわざとらしいくらい、明るく振る舞った。それは痛々しいほどに。
たとえ一人で参加したところで、ティアナにダンスを申し込む者などいない。
王子の婚約者である。恐れ多くて声をかけるものなどいないが、主催者であるワイマン公爵が義理で声をかけてくれた。

「せっかくのお申し出ですが、殿下のいないところではお受けしないことにしておりますの。申し訳ありません」

ティアナの言葉に「ほぉ」と声が漏れ聞こえる。

第一王子の婚約者はその人の前以外で、その人の許可が無ければ異性の手は取らない。
そんな噂がまことしやかに流れるのに、時間はかからなかった。
クリストファーを愛するあまりたとえその指先であろうと、手袋越しにも肌を触れさすことはないのだ。そんなティアナは、貞実な婚約者として名を知らしめるようになっていく。


夜会だけでなく、茶会にも顔を出すようになる。
女性ばかりの茶会。当然、色々な噂話が飛び交う中、今までは自分の事も言われてきたことは重々承知している。
それをこれからは、自分の口で広げるのだ。婚約者であるクリストファーから相手にされない可哀そうな婚約者であると。聖女にその地位を奪われた哀れな婚約者。
聖女とは言え平民に気持ちを奪われるほどの、魅力のない娘と噂されようとかまわない。
クリストファーが心変わりをした事実が全てなのだから。
彼の中で聖女に比べ自分に魅力がないことなど、自分が一番よく知っている。それは、どの令嬢も同じこと。
か弱く、儚い庇護欲を駆り立てる聖女に、その容姿で太刀打ちできる令嬢などこの国にはいないだろう。
それほどまでにクリストファーにとっては、あの聖女が大事なのだろうことも十分わかっている。


 何が違うのだろう? 何がダメだったんだろう? 
 ティアナはここ最近、そんなことばかりを考えていた。心の隙間を埋めるものは、そんな自分自身への叱咤の思いでしか埋まることはなかった。


 次第にティアナへの擁護の言葉が噂として流れ始めた。それと同時に王子に捨てられた惨めな侯爵令嬢を演じているとの言葉も。
 それで良かった。むしろ自分への擁護などいらない。婚約者を、聖女とは言え平民に奪われた情けない令嬢、その言葉を待っていたのだ。



「ティアナ。ここ最近、夜会や茶会に顔を出しすぎじゃないかしら? もう少し休んでも良いのよ? 女王様も無理に出ることはないと仰っていたでしょう?」

 ある日、ティアナの母が声をかける。最近のティアナの噂が耳に入り、心配になったのだろう。たとえどのような境遇に置かれていたとしても、彼女はまだ王子の婚約者だ。
 王家との婚姻。何か言える立場にはないが、それでも娘の名に、家の名に傷がつかないように心配してのことだった。
 そんな言葉を聞いても、もはやティアナの心には何も響かない。
 むしろ、家の名に傷をつける不出来な娘と疎んじているのだろう。そんな風に歪んだとらえ方しかできなくなっていた。それに気が付き、もう自分は心まで醜く成り下がってしまったと実感してしまった。

「お母さま、心配をかけてしまってごめんなさい。私はもう殿下の婚約者でいることはできないと思います。今後の身の振り方をお父様とも相談をしなければいけませんね」
「ティアナ、そんなこと……」

「不出来な娘でごめんなさい」

 そう言うと、小さく口角を上げやっとの思いで笑った。ひどく醜い笑い顔だったろうと思が、ティアナに今できる精一杯の笑顔だった。

 それを見て母はかける言葉が見つからなかった。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

あなたが婚約破棄したいと言うから、聖女を代替わりしたんですよ?思い通りにならなくて残念でしたね

相馬香子
恋愛
わたくし、シャーミィは婚約者である第一王子のラクンボ様に、婚約破棄を要求されました。 新たに公爵令嬢のロデクシーナ様を婚約者に迎えたいそうです。 あなたのことは大嫌いだから構いませんが、わたくしこの国の聖女ですよ?聖女は王族に嫁ぐというこの国の慣例があるので、婚約破棄をするには聖女の代替わりが必要ですが? は?もたもたせずにとっととやれと? ・・・もげろ!

大恋愛の後始末

mios
恋愛
シェイラの婚約者マートンの姉、ジュリエットは、恋多き女として有名だった。そして、恥知らずだった。悲願の末に射止めた大公子息ライアンとの婚姻式の当日に庭師と駆け落ちするぐらいには。 彼女は恋愛至上主義で、自由をこよなく愛していた。由緒正しき大公家にはそぐわないことは百も承知だったのに、周りはそのことを理解できていなかった。 マートンとシェイラの婚約は解消となった。大公家に莫大な慰謝料を支払わなければならず、爵位を返上しても支払えるかという程だったからだ。

婚約破棄から聖女~今さら戻れと言われても後の祭りです

青の雀
恋愛
第1話 婚約破棄された伯爵令嬢は、領地に帰り聖女の力を発揮する。聖女を嫁に欲しい破棄した侯爵、王家が縁談を申し込むも拒否される。地団太を踏むも後の祭りです。

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...