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3話.冒険者体験をする騎士

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ルナと会ってから数日後、私は、故郷から数キロ離れた大都市セントラルフィリアのギルドを訪れていた。
「はじめまして、俺がギルド、セントラルフィリア支部のギルドマスター、カジットだ。叛逆騎士のリア・エリーゼ・ヴァイロンだな。貴族から目を付けられて心配かもしれないが、心配するな。貴族だろうと我々の運営にはいっさい口出しさせん。どんな背景を持つ奴だろうと働けるのが、冒険者の良い所だからな」
ギルドマスターのカジットと名乗る男は筋骨隆々とした体格に、立派な口髭のあるダンディーな男だった。
「はぁ、ありがとうございます?けど、なんですか?叛逆騎士って」
「あれ、君の二つ名じゃないのか?この前貴族が来た時にそう呼んでたぞ」
貴族が何をしに来たのやら。
どうせ嫌がらせに私を働かせるなと口を出してきた、といったところだろう。

「叛逆騎士は止めてください」
「そうか、すまんな。けど俺はかっこいいと思うぞ。貴族はさぞかし君のことを嫌ってるんだろうが、俺たち平民は皆君に好意的だ。
貴族に逆らってまで俺たち平民を助けてくれたヒーローだってな」
「そ、そうですか」
褒められるのは悪い気はしないが、何とも複雑な気持ちだ。
ルナ様がおっしゃっていた通り、私は間違いなく正しいことをしてそのことを誇るべきだ、というのも分かるのだが、まだ心の整理がつかない。

そもそも私は何故こんなところにいるのか。
この前、ルナ様と話したことを思い出す。



「冒険者?なぜ私が?」
「貴族に対する抑止力として権力に支配されない冒険者チームを作りたいのです。ギルドはなるだけ権力に左右されない運営をしてるんだけど、それでも限界があって貴族のいいように動かされちゃう。だから、今回のような明らかな貴族の暴走があったとき、それを阻止するためのね。その点リアちゃんみたいなに強くて正義の心を持った騎士様なんて丁度いい適任なの」
「なるほど、え?」
呼ばれ方が変わったわ。

「あ、リアちゃんって呼んじゃいましたね。この前も言いましたが、私、皆と気軽に接し合える王女になりたいんです。だからいいですよね?」
「それは構いませんが、冒険者はちょっと、あまりいいイメージがないというか」
私たち騎士は、冒険者に対してある種差別意識を持っている。平民やそれ以下の犯罪者が就く野蛮な職業だと。

「う~ん、冒険者も国の治安を守る大事な職業なんですけどねぇ。むしろ、騎士みたいな余計なしがらみもありませんし、今のリアちゃんに向いてると思いますよ。それに初めから決めつけて視野が狭くなってしまうのは良くないですね。まずはお仕事体験から始めてみませんか?私が近くの冒険者ギルドに話をつけておきますから。なんであろうと挑戦してみる事が大事ですよ」

ルナ様は人差し指を立てて、そうおっしゃった。

「分かりました。ルナ様の頼みなら、やってみます」

私としてもこの前の事件以来、世間のことに無知でいるべきではないことを悟った。
少し気は引けるが。

そうして、私は今ここにいる。

「あの!リア・エリーゼ・ヴァイロンさんですよね」
ギルドマスター、カジットと話していると一人の少年が話しかけてきた。
「そうだけど君は?」
「あ、僕、アルマ村出身なんです。貴方が救ってくれた。あの村には両親も妹も住んでいて、
だから、ぼくの故郷を救ってくれてありがとうございます!!」
「…」
少年は深々と頭を下げてきた。

「ここセントラルフィリアはアルマ村から近いからなぁ。うちのギルドの冒険者はあの村出身ってやつも少なくねぇんだ。そいつらもみんな君に感謝していたぞ」
「そう…ですか」
私が救えなかった人の中にこの人たちの親族がいたらどう思うだろうか。

正直考えても仕方ないことだし、ネガティブになりすぎだと自分でも思うが、ふと想像した。

良くないな。今は冒険者の体験に集中しよう。

「丁度いい。少年、確かこれからモンスター討伐に行くんだったな。リア君は今日冒険者の仕事を見学しに来ていてな、付き添いで一緒に連れて行ってくれても構わないだろうか?」
「えっ!?僕は構わないですけど、でもリアさんはいいんですか?僕たちまだかけ出しで、スライムとかタランチュラとかアルミラージュくらいしか討伐できないですよ?」

少年が名前を挙げた魔獣は3匹とも最弱ランクの魔獣達だった。
私達騎士も訓練の一環で魔獣狩りをすることはよくある。

私のモンスター討伐記録は最高でAランクだ。
そのランクの上にはSランクの魔獣しかいない。

だから、その程度のモンスター討伐じゃ、私のレベルに合ってない、けど。
「いいわよ。今回は見学のつもりだし」
まずは冒険者の心得を学ぼうと考え、私は承諾した。

「分かりました。じゃあ僕のパーティを紹介します」

そうして、少年のパーティを紹介してもらった。

少年の名前はユウというらしく、職業は剣士だそうだ。あと2人のメンバーがいて、片方は回復系の魔法使い、いわゆるヒーラーの女の子、ケイン。

そしてもう片方は攻撃系統の魔法を使う魔法使いの男の子、クラインだった。

3人とも私が騎士だと知り、尊敬の念を示してくれた。それがどうにもやりにくかった。

ここじゃ私の方が新参なんだけどな。

紹介が済んだら早速魔獣討伐に私たちは出かけた。
しかし、私はそこでいきなり冒険者と騎士の考え方の違いを目の当たりにすることになる。

ユウ達はなんと、現場に着くとまず先に罠を張り出したのだ。
それは、正々堂々という精神に則った騎士の視点からすると信じられないことだった。

「君たち!?何やってるの?」
「え?ああ罠を張ってるんですよ。落とし穴です。これで魔獣を誘導して落として一気に狩るんですよ」
何でもないことのようにユウは言う。

その後スライムの集団を見つけ、クライン君が魔法で遠距離攻撃をした。

そして攻撃を受け、怒って追いかけてきたモンスターを誘導し、そいつらを全員落とし穴に落として、一斉に魔法攻撃で討伐したのだ。

これが冒険者の戦い方。

確かに相手は魔獣だが、それでも騎士の教育を受けてきた私からすれば、恥ずべき戦法でしかなかった。

昔の私ならこの時点で見切りをつけ、帰っていただろう。そんな恥知らずな戦法ができるかと。

けど、それでも成果はちゃんと出てるのよね。
この前の作戦で、自分の正義を完璧に貫き通せなかったからこそ思う。

正直ユウくん達の実力はまだスライムですら大軍だと倒せないレベルだろう。

けれど、こうやって工夫することでちゃんと討伐ができている。

その後もユウ達は別の搦め手を使ってモンスターを狩っていく。

ルナ様は私に言っていた。
「自分を変えるにはまずは受け入れるところから、です♪」
と。

正直冒険者の戦い方は私にとって受け入れ難いものだ。
けど、今私に必要なことはルナ様が言う通り、新しい私の道を見つけ出すこと。

そのためなら、どんな価値観も否定しないで見極めてやる。

私はそう決意した。



休憩中ユウ達が仕掛けた落とし穴から、仕留めそこねたスライムが1匹、ヒーラーの女の子、ケインに飛びかかった。

危ない!!
私は剣で一振り、そのスライムを真っ二つにした。
「ふぅ、危なかったわね」

振り向くと、尻もちをついたケインの目線がなぜか輝いて見えた。

「あ、ありがとうございます。カッコいい。あっ、ごめんなさい。お姉様って呼んでいいですか」
あれ?
「すごい。なんて鮮やかな剣技」
ユウくんからも何か羨望の目を向けられている気がする。
「お見事です」
クライン君は真顔で拍手をしてくれている。君は冷めてるのね。

ユウくん達から学びたいのに、その彼らが私に注目しちゃってるんだけど。

やっぱりこの子達、ちょっとやりにくいわ。


そうして、その後もモンスターを狩り続け、その日は終わったのだった。
ユウ君たちのパーティは少しやりにくいけど、でも彼らの冒険者としての考え方には私に足りない何かがある気がする。

そう思うと少しだけ前向きになれたのだった。



それから4日、私はユウ君のパーティに付き添い続けた。

その中で気づいたことがあった。
私はユウ君たちのやり方は卑怯だと思っていた。
確かにそれは間違ってないかもしれないが、決して悪いことではなかったのだ。

それは彼らが実力不足を補ってミッションをクリアするための狡猾さであり、工夫と努力の証なのだ。

ユウ君に聞いたことがあった。
「君たちはなんで真っ向から戦わないの?」
「やっぱり、リアさんから見たら、僕たちの戦い方って卑怯に見えますよね?」
「こんな聞き方してごめんね。けど知りたいの。君たちがどんな冒険をしているのか。
そこにきっと私が知らない、私に足りてないものがあるから」
「…リアさん」
ユウ君は少し考え込んだ後話してくれた。
「僕たちがここで倒してる魔獣って強くなるとアルマ村を襲うことも珍しくないんです。
大抵その前に討伐されるんですけどね。けど襲撃があることもたまにはある。
僕はまだ実力不足ですけど、だからって何もしないなんてできない。
あの村には、僕の妹も親もおばあちゃんもいる。だから、どんな手をつかってでも一匹でも多く魔獣を狩るんです。
例え弱くても」

正直、その時ユウ君の気迫に一瞬ゾッとした。
それを語るユウくんの目には本気の覚悟があった。


ユウ君はまだ私より全然弱いけど、その覚悟の重さに気圧された。

きっとそれが私に足りないことだったんだ。
奇麗な騎士の剣じゃ決してたどり着けない強さ。

そうして、その言葉通りどんな手段を使っても魔獣を倒していくユウ君のパーティを見て思った。

彼らは自由なんだ。意思を貫き通すためにどんな手段でも使う貪欲さ。

これが冒険者。

気づいたら、私は冒険者の生き方を受け入れていた。
触発されたと言ってもいいかもしれない。

この生き方の中に私に足りなかったものがある。
その確信が深まった。

追放されてからずっと暗闇だった先の道が、ようやく灯りで照らされたような、そんな健やかな気分だった。



だがそれから数日後、事件は起こる。私と騎士の世界を完全に隔絶させる事件が。





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