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1話.勇者死す

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周囲は溶岩とマグマの死の世界。
おそらく、魔王の仕業だろう。

そして俺は、いや俺たちはその魔王と一騎討ちを挑んでいた。

ここはまさに人類の最終防衛ライン。

俺たちが負けたら、人類は滅ぶ。

責任感とか重圧やべぇ。だけど、とんでもないやばい時だってのにどこか高揚していた。

俺はずっとこんなふうに世界の命運をかけるようなとんでもない状況で、世界を救う、そんなドキドキの大冒険がしたかったんだ。

「行こう!一緒に」
「おう!行くぞ、ソフィ!」

俺とソフィーは一斉に動き出す。
ソフィーは俺の幼馴染だ。子供の時からいつか魔王と戦って世界を救うっていう俺の夢物語を信じてくれた。
そして、ともに修行して、ここまでついてきてくれた。

本当に最高の相棒だ。
そして、今じゃ憧れの好きな人だ。

この戦いが終わったら…結婚を申し込んでみるかな。

誰よりもお互いを知ってる俺たちの剣の連動は、誰にも止められない。


ソフィと俺は二人で魔王に剣をぶつけ合う。危ない攻撃はお互いが防ぎ合う。だから、俺たち迷わず突撃できる。

渾身の英雄の一撃をぶち込んでやる。

カーン
「俺が勇者だ」

カーンカーンカーン

朝の起床の鐘が鳴り響く。

「……………なんだ、夢かぁ」

ふわ~あとあくびをして立ち上がる。
この夢はよくみる、今となっちゃ最悪の悪夢だ。

「…何が"共についてきてくれた"だ。ついて行けなかったのは俺の方だっつーの。なぁ、ソフィ」

今や勇者となって世界中の注目の的になっている幼馴染の顔を思い出した。

勇者が幼馴染?
そういう俺は誰だって?

名前はレオ。
職業は農民
使える魔法はウォーターレベル1。ジョウロの水撒き程度の出力で水を放出できる。農民の魔法。
能力値は平均34
(攻撃力、俊敏性、防御耐久力など。一般的平均は20。少し高めだぞ)

どこにだっている村人Aだ。



◇◇


俺の一日は簡単だ。
村で畑を耕やす。
あとは夜に酒を飲んで終わりだ。

収穫した苗を売るなど面倒なことは全部親に任せている。

ソフィが勇者として旅立ったあの日。
あれから3年が経った。

俺がソフィについて行かなかった理由は、大したことじゃない。単に才能に恵まれなかっただけだ。

英雄になりたかった。
けど、俺はそこら辺にいる凡人だった。
今じゃ両親の下でちょっと労働をしているだけの飲んだくれさ。

ただ、勇者に大成した幼馴染がいるというコネを持っているだけの。

そもそもコネなんて大層なものでもないか。

向こうは勇者になって、数々の輝かしい武勇伝を残してるんだ。

きっと今頃さぞかし偉い貴族さまや神官さまなんかとお友達になって俺のことなんて忘れてるころだろうよ。

そうそう、俺の習慣の話に戻るが、もう一つだけ、毎日の習慣があったんだ。


村の中央にある会館の掲示板。
そこに世界情勢の記事が張り出されている。

朝起きたら、そこに行き勇者の動向を確認すること。それが、もう3年間続いている俺の習慣だ。
勇者の動向が掲示される頻度は大体1週間に1度ほど。

だがそれはあくまで目安で、時には1か月ほど長い間勇者動向が更新されないこともあった。
1度更新されてから、次にいつ更新されるかは公開されていない情報なのだ。

ソフィ率いる勇者パーティは、いまでは魔王討伐の最有力候補として、世界中から注目されている。
王都じゃ毎日情報が掲載されているというのに、ここは田舎だなとつくづく思う。

それでも、俺はこの3年間欠かすことなく、この会館に足を運んでいる。

会館に行くと、掲示板に多くの人が集まっていた。

珍しいなと思う。
村びとたちは基本的に日々の暮らしで精いっぱいだ。

世情に興味がある人は少ない。
ここにこんなに人が集まっていたのは、この村の出身であるソフィが勇者の称号を王様から正式に授与された時ぐらいか。
それと、ソフィがその勇者の称号を得てから、2年くらいした時。
魔王の右腕だとかいう大将軍グランディアとかいうやつをソフィが倒した時も話題になってたっけ。

なんにしても、ソフィのことを知っている村びとたちの前に顔を出すのは、憂鬱でしかない。

比べられている気がするからだ。被害妄想かもしれないが、実際のところは分からない。
幼いころは共に王都へ行き、勇者になろうと鍛え合っていた仲だ。

狭い村だ。
その関係を村びと全員が知っていた。

勇者になったソフィと今だに独り立ちできず親の元で働き、その前は引きこもってすらいた俺。

比べられたら、惨めでしかない。

勇者の掲示内容を見たら、すぐに帰ろうとコソコソと掲示板に近づく。

すると、1人の男が、大声を出しながら近づいてきた。手には掲示版に張られているのと同じ紙を握りしめていた。
「お~い!レオくーん。大変だ。大変なんだよ」

その男はこの会館の職員だった。
3年も通ったのだ。職員とは全員顔見知りだった。

「ソフィちゃんが、ソフィちゃんが」

職員の男は慌てていて、何がおこったかは分からなかったが、彼の態度に嫌な予感を覚える。

男が手渡してきた紙を奪うように強引に受け取り、その内容を見て、俺は目を見開く。
絶句して言葉がでなかった。



その見出しには、”勇者ソフィ、魔王に敗れ死亡”という文字が大きく書かれていたのだった。







ソフィが、勇者が死んだ。
俺が最もあこがれで、目標で、近づきたくて、好きだった勇者が死んだのだ。
これが飲まずにいられるか!

普段から飲みなれた、村のまずい酒を口にする。

今までは、ソフィが何か功績を上げた時、何だかやるせなくなって、こうやって
後先考えずに飲んでたっけ。

でも、今回は今までとは違う。もう何の希望も見いだせない気分だ。
時計は夜10時を指していた。
何も手がつかず、ただ、時計がカチ、コチと音を立てていた。
明日の仕事は…
もういいか。

ソフィが死んだってことは魔王が世界を滅ぼすんだろ。

じゃあ、明日俺は死んでるかもな。魔王に殺されて。はは。
どうでもいい。心底どうでもいい。
こんなことなら、1度くらい好きって伝えても。

昔、まだソフィと俺が対等だったあの頃に。

そのまま、酒に飲まれるように、俺は眠りに落ちた。
その夜、俺は懐かしい夢をみた。勇者と…ソフィと出会った日の夢だ。






____


短期連載始めました。
よろしくお願いします。


今後の参考に、感想もらえたら嬉しいです。

よろしくお願いします。


次の投稿は2024/3/24の14時予定です。


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