かつて最弱だった魔獣4匹は、最強の頂きまで上り詰めたので同窓会をするようです。

カモミール

文字の大きさ
上 下
71 / 74
3章:動く世界とやりたいことをする魔獣四王

65話.怒り

しおりを挟む


強烈な閃光がその部屋を包んだ。

本来は爆炎が地下牢どころか古城とその周囲を吹き飛ばし、魔獣四王の軍に甚大な被害が出ていたはずだった。

そうならなかったのは…

「おーい。みんな無事か~」

その声の方に地下牢にいた全員が目を向ける。

ちょっと目を動かしただけで、なぜ自分が無事だったのか、おそらくその場にいた全員が気づいたはずだ。

ゼリー状の青い液体が、部屋中を満たしていたのだから。

「よかった」

そう安心したように言い終わると、透き通った青いスライムの体は、バッチャっと
液体のように崩れ落ちた。

「セレちゃん!!」

我は急いでセレちゃんのもとに駆け寄った。


地下牢は水で満たされ、その中心には、小さなスライムがぐったりとへたり込んでいた。

凄まじい爆発だった。

蜘蛛の王・真蜘羅は全てを見ていた。

セレーネは、爆発源のすぐそばにいた真蜘羅を突き飛ばし、そのスライムの体でミリーナを部屋ごと
包み込んだのだ。

結果、爆発の衝撃は全てセレーネが背負うことになり、その場にいたものは助かったのだ。

爆発の威力を考えると、おそらくセレーネが自分を犠牲にしてくれなければ、その場にいた人間たちは全員消し飛んでいた。ルナちゃんも

それどころか、我やフェルちゃんも死にはしないまでも、かなりの深手を負っていただろう。

比較的無事で済むのは、フィジカルが一番強いオルくらいか。


特に我は至近距離にいたから…
心の中で思い、ギリッと歯ぎしりをする。

辺りを見たが、ミリーナの姿はどこにもなかった。あれが自爆で消滅するとも思えない。
まんまと逃げられたのだ。

「セレーネ!大丈夫!?」

フェルミナもこちらに駆け寄ってきた。

セレーネは、人化の術で人の姿に戻ると、指でVサインを作って歯を見せて微笑んだ。

「はぁ、よかった」
フェルミナはほっと息を撫でおろす。

「ミリーナのやつも相当の深手を負ったはずだし、痛み分けってところね」
こっちは全員無事そうだし、とフェルミナは呟く。

「痛み分け?本気で言っとるんか?」

ギュッと優しく動けないでいるセレちゃんを抱きしめる。

「え?」
フェルミナはこちらを振り返る。

「セレちゃんをこんな目にあわせたんや。絶殺しに決まってるやろ」


昔から、セレちゃんは変わってない。
いつだって自分を犠牲にしてでも、大事な人を救おうとする。

自分がその中の1人でしかないことは、ちょっとモヤモヤするけど、それはこの際いい。

セレちゃんは変わってなくても、我は変わった。

今は自分の衝動を実現するだけの力がある。

我の大事な人を傷つける奴は、誰だろうと我の糸で絡みとって、地獄をみせたる。

蜘蛛の王らしく、執念深く周到に底意地悪くな。




◇◇


「はぁ、はぁ」


限界まで霊を纏い、そいつらにダメージを押し付けた大自爆。

それが、あの程度の被害で終わるなんて。

私も無事ではすまなかった。
全身が裂傷に火傷でボロボロだ。

ただでさえ、セレーネの”ワールドマジック”でズタボロだったのに。


遠くまで来て小さくなった古城を見る。

「にはは、ほんとにとんでも強くなったんだ」

まさか、あの爆発の威力をほぼ相殺するなんて。

今回でかなりの霊を失ってしまった。

もっと強い奴を補充しなくては。

その時、自分の眼前に立つ存在がいた。

「はぁ、はぁ、何のようですか。ネメシスさま」
「ずいぶん手ひどくやられたようだな。ミリーナ」

私の目の前に立つご主人さまは、私がやられているというのに、面白そうに言ったのだった。


「やれやれ、あなた様の為に死地に赴いた忠臣にねぎらいの言葉はないんですか?」
「おいおい、俺たちにそんなぬるい馴れ合いはいらんだろう。死んだら死んだでそれまでだったってことだ。俺もお前も」
「はいはい、分かってますよ。死の皇帝さま」



「それで、どうだった?セレーネは」
「間違いなく使ってますよ。未来視の超感覚。ネメシスさまから受け継いだってことですかねぇ」

「ほう、興味深いな。渡したつもりはなかったんだが」

「それで、そっちはどうでした?」
「ああ、面白いことを言っていたよ。奴らは、4匹ですでに俺を超えているらしい」

「プッ、本気ですかぁ?」
「さぁ、知らんな。だがどっちが道化かは2か月後に分かるだろう」

「決戦の日ですか。勝てるわけないでしょうに」

「そうとも限らんぞ。少し気になることもあるしな」
「え?」

それは、魔獣四王たちが勝つ可能性を感じたということだろうか。

首を振る。

そんなことはありえない。
目の前の存在に勝てる者など絶対に現れはしないのだから。

だが、ネメシスさまはどんな相手でも侮らない、なんてダサいことを言うような人ではない。
自分に届かない存在など相手にもしない。

そのネメシスさまが、勝利を断言しないなんて。

「おい」

思考の海に入っていると、ネメシスさまの呼ぶ声に引き戻された。

「あ、はい。なんでしょうか」

「疲れているらしいな。少し休むといい。俺も次の計画をまとめる時間が欲しいしな」

「次、ですか?」

「ああ、詳細はあとで語るとして…手始めに」

「魔族領を侵略する」

そう小さく、邪悪な笑みを浮かべてネメシスさまは言った。


その笑みが伝播したように、ミリーナも嬉しそうに笑うのだった。




















しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...