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3章:動く世界とやりたいことをする魔獣四王
番外編:バカンス
しおりを挟むそれは、セントラルフィリアを出立する少し前の物語。
オルが気まぐれでどこかに遊びに行きたいと駄々をこね始め、カイルから無人島のプライベートビーチがあることを教えてもらった。
それは、エルハートブルク家が代々所有してきた無人島。
といってもその役割は娯楽用。
せいぜいが、いざというときの避難場所といったところだ。
ロイドも行きたいと希望したが、セントラルフィリアの領主の息子である彼が、1人で行くのも危険だ。
そこで、ロイドの護衛としてリアを連れて、他にセレーネ、マクラ、フェルミナ、オルを含めた6人でそのプライベートビーチに行くことになった。
船で2時間ほどのところに、その島はあった。
だが、ちょうどその島が見えてきたところで問題が起きる。
Aランクの魔獣・フィッシャークラブに襲われて船が大破してしまったのだ。
海中から舟底への一撃はさすがの魔獣四王でも自由の騎士団でも察知できず、そのまま船は海へと沈んでいった。
「にゃろ~」
怒ったオルが水中に飛び込み、フィッシャークラブに跳び膝蹴りを喰らわせる。
フェルミナが人化の術をとき、怪鳥形態になって全員を無人島まで運んだ。
オルもドラゴンの翼を展開して、遅れて無人島に着陸した。
手には泡を吹いたフィッシャークラブを引きずって持ってきていた。
そう言うわけで、私たちは絶海の孤島で遭難してしまったのだ。
「どうしよう~~オル!やばいんじゃないか!?」
ロイドは大いに慌てる。
飛んで帰ろうにも方角が分からない。
食料もない。
「落ち着け。ロイ」
なぜかオルはふんぞり返って得意げに言っていた。
「こう言う時はセレーネに頼めばなんとかなる」
結局私任せかよ。
ちょっと呆れてため息をつきつく。
「ま、なんとかなるでしょ!」
私は明るい声で言った。
「私とマクラはここに残るから、みんなは森の探索をお願い」
私の指示にしたがい、皆準備を始める。
とは言え、この奥に何があるのか、微妙に興味があった私は、分身体を動向させることにした。
こうして、各自が行動を開始する。
砂浜を探索しながら、私はある作成を実行する。
一方森の捜索隊の方は、特に変わったものを見つける事なく、森の中を歩いていた。
「それって分身ってやつなのかしら?」
リアが私に聞いてきた。
リア・エリーゼ・ヴァイロン。
自由の騎士団という最高位の冒険者ランクに所属する彼女でも、分身するなんてレアな魔獣には会ったことがないのかもなと思う。
「そうだよ」
私は顔の一部をスライム体に変化させる。
液体の中に、1つ眼球が浮かんでいた。
「それって」
「うん、分身っていうより分裂かな。私のスライム液体ボディを分裂させて、片方の目を放り込んでるの。マクラのは糸分身かな。糸で自分の体を作ってるけど、結局糸だから、目は見えてない。ただ、糸で音を拾って周りを探知、あと糸をつたって音を飛ばして会話できる」
「驚いたわ。あなたたちの能力ってすごく応用がきくのね」
リアが感心したように言った。
「私たちは、魔獣の中でも単純な能力しか持ってない部類なのよ。だから、成長しても単純なことしかできてないのは変わらずなの。でもその分リアの言うように応用は効くのよね」
フェルミナが補足するように言う。
「セレちゃん、我は目みえんからおぶって~」
後ろでマクラが露骨にかまってアピールをしてきた。
周囲の感知はできてるだろうし、無視しておいた。
やがて、森の奥までいくと何体か魔獣が襲ってきた。
ランクはBってとこかな
魔獣はロイド君を襲ってきたが、寸前でオルが止める。
何私の友だちに手ェ出してんだ、とオルは睨みつけ、魔獣たちは服従のポーズを取る。
だが、私たちは襲ってきたものに容赦はしない。
今晩の夕食は彼らのお肉だな。
探索を終え、ビーチに戻る。
「なんとかなりそうだよー」
私の能天気な発言にロイドは、怪訝な顔をした。
フォローをしようと思い、言う。
「まぁ、大丈夫だって。それより遊ぼう」
次にやるのは、海水浴だ。
水着、ビーチパラソル、椅子などの道具は全部マクラが糸で作ってくれた。
「ちょっときついわよ」
水着を着、胸に手を当ててフェルミナが言う。
オルとリアが憎々しげにフェルミナを睨み、ロイド君は目を逸らし、マクラはクスクス笑っていた。
何がきついのかは、あえて言うまい。
その後改めて水着を新調し、私たちは泳ぐ。
ドラゴンの姿に戻ったオルの上で日光浴をしていたが、人の姿に戻った拍子にオルの水着が破裂してしまい、またロイド君が目を背けるような微笑ましい一幕があった。
マクラとフェルミナとリアはビーチバレーやビーチフラッグで勝負をしていた。
私はというと、海水に肉体を混じらせて、プカプカと浮いていた。冷えていて中々に気持ちがいい。恍惚とした笑みを浮かべる。まさにこれこそが真の海水浴ではないだろうか。
夜になった。
船を襲ったフィッシャークラブや島でとったB級魔獣の肉。他にも野草や木の実や海野で釣った魚でキャンプファイヤーだ。
オルがブレスで火を起こしてくれる。
ちょうどいい感じの火加減にするにはだいぶ苦労したが。
採れたて新鮮、何よりフェルミナが肉や魚をうまく捌いてくれたので、超うまかった。
そうして、浜辺にあったコテージでぐっすりと寝る。
そこは、旅行した時ようにあらかじめ作られていた施設で、中々に快適だった。
そして、次の日。
「じゃ、帰ろうか!ゴミはもうないね?」
点呼をとり、全員がいることを確認した私は、帰る準備をしていた。
「え!?帰れなくなったんじゃ!?」
ロイド君が驚いた顔で言う。
リアも同様に驚いていた。
「ああ、それなら大丈夫だよ。昨日この浜辺で帰りの方角は調べといたから。ほら」
私はマクラの方を見る。
マクラはニヤリと笑い、指から糸を出した。
「この糸を長ーく長ーく伸ばしてね。その先っちょに私のスライムの液体をくっつけたんだ。その中には、ほら」
私も実演として、腕を液体に変える。その中には目玉が浮いていた。
「これで、セントラルフィリアが見つかるまで探したってわけ。私も望遠鏡レベルまで視力の調整はできるし」
こうして呆気に取られるロイド君とリアちゃんを背に乗せて、フェルミナとオルは空を飛ぶ。
フェルミナの背には私とマクラ
オルの背にはリアちゃんとロイド君が乗っていた。
「は~~、楽しかったねぇ」
私は伸びをして言った。
「どうなる事かとは思ったけどね。でもあなたたち頼もしすぎてピンチになるイメージがぜんぜん浮かばないわね。遭難したのにこんなあっさり帰れるのなんてあなたたちくらいじゃない?」
リアの言葉に全員が笑う。
こうして、私たちの楽しいバカンスは終わったのだった。
_________________
今日は番外編です。
1か月近くもあけてしまいごめなさい。
言い訳になってしまいますが、新作を書くのに思ったより時間がかかってしまいました。
そんなわけで「勇者の隣に住んでいただけの村人の話。」連載中です。
短期連載ですがよかったらどうぞ。
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