かつて最弱だった魔獣4匹は、最強の頂きまで上り詰めたので同窓会をするようです。

カモミール

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3章:動く世界とやりたいことをする魔獣四王

50話.人間にテイムされたスライム

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龍王と怪鳥王。
2匹の怪物の戦いは、怪鳥王の勝利で幕を下ろした。

だが、その余波は凄まじく、吹き飛ばされて死ぬのではないかと思うほどだった。

「はぁ~、す、凄かった~」

この世の頂点の戦い、それを目の当たりにして素直な感想を口に出す。

彼女は魔獣四王の一角、スライム王セレーネが連れてきた万の軍勢。その中の1匹の雑兵スライムにすぎなかった。

ただし、その正体は人間のテイマーが従え、スパイとして潜り込んだスライムだ。

名をスピナといった。

スピナは、主人である人間のテイマーに情報を送るため、先程の戦いを整理すべく、起こったことを順番に思い出していく。

えっと、まずこの戦いは魔獣四王の遊戯的感覚で始まったってことかな。

人間の国の奴らは勘違いしてそうだけど。

それと・・・

チラリと王であるセレーネの方を見る。
彼女の後ろには、1人の女が張り付くようにセレーネの背中を掴み、ふるえて縮こまっていた。

確か、セレーネが連れてきたポーション職人。名前をアリアナとか言ったっけ。

龍王と怪鳥王が戦っている間、ずっとひぇぇぇー、だのぎゃああー、だの盛大にリアクションしてた女だ。

何でも役に立つからというので連れてきたらしかったが、鈍臭そうだし、本当か疑問だ。
いきなりこんな場面に立ち会わされたことには同情するが。

あとは、龍王と怪鳥王の力関係ね。



決着がつき地面に仰向けになっているオルは、人化の術を再び自身にかける。

龍の体はたちまち縮んでいき、人間の少女の姿へと変貌する。

「あー!まだ勝てないかぁ」

フェルミナも同様に、人化の術を自身にかけ、人の姿に戻った。
「いやでも危なかったわよ。あー手が痛い」

フェルミナが手を上げると、手が痙攣しているのが分かった。
一部の人間には武神とさえ言われるフェルミナが、拳のぶつけ合いでそうなるあたり、龍王の攻撃は相当な威力があった
ことが伺える。

でも結果をみれば。

「オルゴラズベリー様よりフェルミナ様の方が強いってこと?」

「フフ、分かってないですね。そう単純な話ではないですよ」

スピナは独り言でいったつもりだったが、返答が返ってくる。
隣を見ると、驚きと怖さで思わずヒッと小さな悲鳴をだしてしまう。

隣にいたのは、龍王の側近にして唯一の部下の悪魔、ディアボロスだった。

龍王オルゴラズベリーの部下は彼一人しかおらず、どのような人物か知っている人はこの場には龍王本人しかいないだろう。

執事服に黒い髪と黒く染まった角膜の真ん中で光る瞳孔。
その容姿や態度から正直怖いというのが本音だ。

「そ、それはどういう」
「このまま見てれば分かりますよ」

それだけ言って彼は正面を見る。もうこれ以上こちらに絡む気はないようだ。

次はフェルミナ様VS真蜘羅様だ。

フェルミナ様の方を見ると、フェルミナ様の勝利に湧き上がる自分の部下たちを治めているところだった。

どうにも、魔獣四王の間には不思議な仲間意識があるようで、自分が勝ったからといって、
「フェルミナ様の前では龍王など所詮敵ではない」
などのオルゴラズベリー様を下げる発言は気に食わないらしい。

そのように発言した部下にフェルミナはチョップで制裁を加えていっている。

それぞれのナワバリで睨みを効かせ合っている関係だと思ったのに、こうしてみると全然違うように思えた。

「アリアナちゃん、あれ渡してあげて」
「あっはい」

セレーネ様に言われ、アリアナが転ぶのではないかと思うよたよたした動きで、フェルミナ様に向かっていく。
そして、バックから回復用の緑のポーションを取り出し、渡した。

「あら、ありがと」
フェルミナ様はポーションを受け取ると、爽やかな笑顔でお礼を言い、アリアナの頭を撫でた。
その笑顔と仕草はまるで聖女のようだった。

「あ、ど、どうも」
顔をあからめ、アワアワしながらアリアナは言った。
あんな美人さんにあんな笑顔で言われたら、自分だって胸を貫かれたように魅了されてしまうだろうと、謎の自信があった。

怪鳥王フェルミナ様は、聖女のごとき容姿と振る舞いで相手を魅了する、気を付けるべしと自分の心のメモに記す。

「フェルミナ様!素敵っす」

フェルミナ様の右腕であるバーナード嬢も魅了されていた。
そのバーナードを軽くあしらい、フェルミナ様は少し離れた広間で待っていた真蜘羅様に視線を送る。

「さーて、フェルミナちゃん。準備はええか?」

真っ白な布に蜘蛛の巣の紋様が描かれた着物を着た真蜘羅様は、準備運動として、手のひらを前にして腕を前に伸ばすストレッチをしていた。

「ええ、回復はばっちり。あの子、なかなかいいポーション職人ね」

対象の体力が多ければ多いほど、その体力を全快させるには、より質のいいポーションを使わなければいけない。
いくらセレーネ様が最高級の材料を渡していたとはいえ、それを完璧に調合したアリアナとかいう娘は、
かなり優秀であることが伺えた。

「へー」
そのことに対し、あまり興味がなさそうに真蜘羅様は返事をする。

「それじゃ、昔みたいに翼をもがれて這いつくばる準備はできたってことやね」
「相変わらず憎たらしい子ね。今日こそ張り倒して地面のシミにしてあげるわ」

フェルミナ言葉遣いが突然暴力的に変貌したことにスピナは驚く。
普段は、優しくきれいな言葉遣いの彼女がだ。

「やっぱり魔獣四王の関係は険悪?いや、分からないわ」
そうして困惑するスピナを他所に、2戦目の死闘が始まったのだった。









_____________
あけましておめでとうございます。

去年から、投稿を始めた本作ですが、とうとう50話まで到達しました。
普段いろいろなものを継続できずに止めてしまう事が多い人間なので、今回は頑張ったんじゃないかなと
思います。

趣味の範疇で楽しみながら書いてる面も大きいので、そんなに大したことではないかもしれないですが。

といっても投稿頻度が、かなり間が空いてしまった時期もあったため、そこは反省点です。

今年の目標としては、投稿頻度を上げていく、執筆速度を上げるなどでしょうか。
新しい小説(短編、長編含む)もどんどん投稿できるようにしていきたいと考えています。

今年もよろしくお願いします。

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