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2章:セントフィリアの冒険
46話.祭り 中編
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※オル目線です。
「らっしゃいっす。セントラルフィリア新名物たこ焼きっすよ~。ややっ!そこにいるのはオル様じゃないっすか」
大声でたこ焼きの宣伝をしている店に直行すると、そこには、何故かたこ焼きを店で売ってるバーナードと紫苑の姿があった。
バーナードはフェルミナの、紫苑はマクラの部下だ。
「おー、お前たち、こんなとこで何やってんだ?」
バーナードも紫苑も魔獣四王の右腕。大幹部とさえ言える。そんな彼女たちがエプロン姿でたこ焼きを焼いている光景はとても不自然に感じた。
思わず首をかしげる。
オルの疑問を察知したのだろう。
バーナードは陽気な態度でその疑問に答えた。
「楽しそうだったから出店してみたっすよ。屋台を回るのも面白そうかなって思いましたけど、この機会に親睦を深めようと思って、ね」
バーナードはウインクして紫苑の方に目配せする。
「あ、はい。そうですね。はぁ、嫌だって言ったのに。こんな大勢人がいるところでなんで私が」
嬉しそうなバーナードに対して紫苑は渋々付き合っているということがその顔から伺えた。
怨念のようになにやらぶつぶつとつぶやいている。
「まぁまぁ、そう言わず。たこ焼きの発祥地は紫苑ちゃんの国じゃないっすか」
「まぁそりゃそうですけど、私の国だとマクラ様の部下はみんな作れて当たり前ですし」
紫苑は返答しながらも、クルクルとピックを回し、慣れた手つきでたこ焼きをひっくり返す。
たこ焼きの方を見もせずにだ。
その手捌きで、誰かがたこ焼きを作るところを初めて見るオルでも、紫苑がたこ焼き作りにおいて卓越した技術を持っていることが分かった。
だが、紫苑はこう見えてマクラの国No.2の立場だ。彼女がプロ中のプロでも不思議はない。
もっとも、国を運営する側が作れる必要があるのかという疑問はあるが、オルにはどうでもいいことだった。
それより問題は紫苑の隣で、紫苑に近い動きでたこ焼きを作っているバーナードの方だった。
「あ、あの、バーナードちゃんがそんなに上手なの…おかしくないですか?」
おどおどした態度で紫苑が聞く。
確かに言われてみれば不思議だ。マクラとフェルミナは仲が悪い。まぁ、喧嘩するほど仲がいいタイプで内心ではお互い仲良しなのではないかとオルは思っているが、それでも表立って交流するような関係ではないだろう。故にどうやってたこ焼き作りの技術を身につけたのか、オルは疑問に思った。
「え?そりゃあ、推しの国の名物料理なんて、作れて当たり前じゃないっすかぁ~。マクラ様のファンなら当然っす」
その返答にオルと紫苑の目が思わず点になる。
「え、えっと、一応たこ焼きの作成方法は秘密の筈なんですけど」
「あっ」
バーナードが思わず手を押さえた。
沈黙が流れた。オルもなんとなくバーナードがどうやってたこ焼きの技術を身につけたか分かったからだ。
「ナーちゃん、あんたまさか」
この沈黙を破ったのは、この会話新たな参入者マクラだ。
後ろで一部始終を聞いていたのだろう。
「ごめんなさいっす。一時期魔獣四王の皆さんを追っかけしてた時期があって、あの時は見境なく色んな国に侵入してたっす。その時に見て学んだというか…」
「あ、そうなんやね。まるでストーカーみたいやね。警備は厳重にしてる筈なんやけど」
流石のマクラも今回ばかりは引いたようだ。
「安心してください。漏れたらまずい情報とかは一切探ってないっすよ。ただ私はマクラ様のかっこいいところを生で見たかっただけなんです」
バーナードの迫真の言葉に真蜘羅でさえ気押されたようだった。
こいつヤベー奴だったのか、という空気が真蜘羅、オル、紫苑の3人の間に流れ、再び沈黙。
取り返しのつかないような空気に収集をつけたのは、さらに後からきたフェルミナだった。
「はいはい。そこまで」
パンパンと手を叩いてフェルミナが言う。
「この子は普段からこうだから。気にしてたらキリないわよー」
「でもフェルちゃん、ナーちゃんは我をストーキングをしてたんやで」
「あんたもセレーネのストーカーでしょ。ほら、修行時代に。似たもの同士じゃない」
うぐぐ、とマクラは押し黙る。
いやお前もしてたんかーい!、とオルは心の中で突っ込みを入れた。
確かにマクラがセレーネのことを親友としてとても好きだったことは知っていたが、そんなことまでしていとは。
あ
「大丈夫よ。この子の熱は本物だから。マクラが困るようなことはしないわよ」
「うーん、まぁ、それならいいんやけど」
不承不承といった感じでマクラは納得したと頷いた。
「ま、まぁとにかく私は皆さんが大好きってことっすよ。これからもよろしくっす」
バーナードは手を合わせて、話をまとめたと言わんばかりに皆に言った。
「ね!紫苑ちゃん!」
そして、紫苑に肩に手を回した。
紫苑はとても嫌そうにげんなりとした顔をしていた。
その顔にはやばい奴に目をつけられたと書いてあるようだった。
「あ、オルさんサインください」
最後にバーナードはオルに振り返り、陽気に言った。
「いやだ」
オルはなんか怖いと思い、即断った。
□□
※セレーネ目線です。
それからも祭りは続く。
セレーネは、ポーション職人の少女、アリアナと話をつけ、元の場所に戻っていた。
魔獣四王は共に行動していたが、その楽しみ方は各者各様だった。
マクラは店自体にはさほど興味がなく、私と共にイベントを回れることに心躍らせているようだった。
真蜘羅は古城での戦いから帰ってきてから明らかに私への態度が変わった。
前より好意のアプローチが積極的になったのだ。
私の腕を掴んで歩こうとしたり、顔を合わす度にハグをしようとしたり、なんなら唐突にキスをしようとしたりと明らかに友人としての一線からはかけ離れている。
あれではマクラの気持ちなんて誰からも丸わかりだ。
対して私はマクラの行為に応える気はない。マクラのアプローチを冗談として軽く流している。
好かれるのは当然悪い気はしないが、恋愛関係はごめんだ。
時には液体化まで使ってかわしている。
初めはその変化に驚いたが、ここ数日マクラのエスカレートした奇行はずっと続いていたため、皆もう慣れて気にも止めていない。
一方、フェルミナは人間の街の催しものということに興奮して、色んなお店を真剣に見て回っていた。
純粋に祭りそのものを楽しんでいることを踏まえるとマクラとは正反対と言える。
中でも一番楽しそうにしていたのが書店だ。
途中、警備として街を巡回していたリアと合流した時があったが、その時は物語論争で誰が1番かっこいい英雄かという議論で白熱していた。
2人はかなり熱中していたようで、マニアニックな会話を雄弁に語り続ける2人の圧に押され、本屋から周囲の客達が離れて行ってしまっていた。最終的には店主に怒られている始末だ。
最強の魔獣と最高の冒険者が正座で怒られている姿は、彼女達の正体を知っているもの達からすれば、さぞ珍しく面白い光景に見えたことだろう。
そして、オルもまた、2人とは違う視点で祭りを楽しんでいた。彼女が主に回った店は飲食店だ。
もし、この街に来たばかりのオルならば、そこしか回らなかっただろう。
そして、街中の食物を全て食べ尽くしていたかもしれない。
しかし、この祭りはセントラルフィリアの再起の狼煙を意味する。
故にオルがそんな事をしては、祭りは台無しになってしまうだろう。
昔のオルならば、そんな事は決して気にも留めなかったのは間違いない。
だが、この街でオルには友達ができた。
彼は領主の息子で、この祭りの立役者でもある人物だ。
そんな彼がこの祭りの成功を祈っているのだ。
邪魔をするわけにはいかない。
そんなわけで、オルは決して暴食に走ることはなかった。満たされるためではなく、楽しむための食事。そんな食べ方をしたのは初めてだろうが、オルにとって決して苦行でなかったのは、彼女の表情を見ればよく分かった。
「楽しそうね。オル」
フェルミナがオルに話しかけた。
「みんなで準備した祭りだからな。楽しまなきゃもったいないだろ」
オルは美味しそうにたこ焼きを頬張りながら応える。
かつて孤高のドラゴンだったオルからは考えられない言葉だった。
「そうね。その通りだわ」
短く、簡素な言葉で返答したフェルミナの顔には、我が子の成長を喜ぶ母親のような優しい笑顔があった。
私も同じ気持ちだ、とセレーネは思う。いつかこんな光景を、気持ちをルナと分かち合うことができたら。
この場にいない王女のことが鮮明に思い出される。
あの事件をきっかけに、2人の生きる道はかけ離れたものになってしまった。再び交わる事はもうないのかもしれない。
それでも。
「いつか、本当の意味で魔族と魔獣、そして人間が分かり合える日が来ます。必ず実現してみせる。だから、またいつか」
別れ際の最後の言葉。それ以降、彼女と会ったのは数度だけ。スライムの国の王として、面会をした時だけだ。その時も、お忍びでセレスティアという偽名と偽りの身分を語り、事務的な話し合いをしただけ。
もうまともに会うことはできないかもしれない。だが、それでも彼女の想いだけでも叶えたい。ただ願わくば、また5人で集まって夢のように楽しかった時間をもう一度。
そのために足掻いているのだ。
セレーネもまた、魔獣の王。欲望に従順な魔獣達の頂点に立つ存在なのだから。
※※
楽しかった祭りも終わりの時が来た。
セントラルフィリアを一望できる崖から魔獣四王は街を見下ろす。
下には、祭りが一通り終わって片付けをしている人たちが見える。
太陽が水平線に沈みかかり、夕焼けの赤い光が反射して四人を照らした。
「楽しかったなー」
「そうやね。セレちゃんとも楽しい時間を過ごせたし、我的にも満足やね」
「そうだねー。2人がそう思ってくれたならこの街に来たてよかったよ」
「そうね。ところでセレーネ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかしら。私達が集結したその意味を」
オル、マクラ、セレーネが祭りの感想を話し合っていた時、フェルミナが流れるように自然に話題を転換して問いかけた。
魔獣四王全員が気にしながらも聞けないでいた、今回の魔獣四王が同窓会をしたその目的。
その核心を。
__________________________
2か月も投稿開いてしまい申し訳ないです。
読んでくださりありがとうございます。
面白かったら感想、お気に入り登録お願いします。
「らっしゃいっす。セントラルフィリア新名物たこ焼きっすよ~。ややっ!そこにいるのはオル様じゃないっすか」
大声でたこ焼きの宣伝をしている店に直行すると、そこには、何故かたこ焼きを店で売ってるバーナードと紫苑の姿があった。
バーナードはフェルミナの、紫苑はマクラの部下だ。
「おー、お前たち、こんなとこで何やってんだ?」
バーナードも紫苑も魔獣四王の右腕。大幹部とさえ言える。そんな彼女たちがエプロン姿でたこ焼きを焼いている光景はとても不自然に感じた。
思わず首をかしげる。
オルの疑問を察知したのだろう。
バーナードは陽気な態度でその疑問に答えた。
「楽しそうだったから出店してみたっすよ。屋台を回るのも面白そうかなって思いましたけど、この機会に親睦を深めようと思って、ね」
バーナードはウインクして紫苑の方に目配せする。
「あ、はい。そうですね。はぁ、嫌だって言ったのに。こんな大勢人がいるところでなんで私が」
嬉しそうなバーナードに対して紫苑は渋々付き合っているということがその顔から伺えた。
怨念のようになにやらぶつぶつとつぶやいている。
「まぁまぁ、そう言わず。たこ焼きの発祥地は紫苑ちゃんの国じゃないっすか」
「まぁそりゃそうですけど、私の国だとマクラ様の部下はみんな作れて当たり前ですし」
紫苑は返答しながらも、クルクルとピックを回し、慣れた手つきでたこ焼きをひっくり返す。
たこ焼きの方を見もせずにだ。
その手捌きで、誰かがたこ焼きを作るところを初めて見るオルでも、紫苑がたこ焼き作りにおいて卓越した技術を持っていることが分かった。
だが、紫苑はこう見えてマクラの国No.2の立場だ。彼女がプロ中のプロでも不思議はない。
もっとも、国を運営する側が作れる必要があるのかという疑問はあるが、オルにはどうでもいいことだった。
それより問題は紫苑の隣で、紫苑に近い動きでたこ焼きを作っているバーナードの方だった。
「あ、あの、バーナードちゃんがそんなに上手なの…おかしくないですか?」
おどおどした態度で紫苑が聞く。
確かに言われてみれば不思議だ。マクラとフェルミナは仲が悪い。まぁ、喧嘩するほど仲がいいタイプで内心ではお互い仲良しなのではないかとオルは思っているが、それでも表立って交流するような関係ではないだろう。故にどうやってたこ焼き作りの技術を身につけたのか、オルは疑問に思った。
「え?そりゃあ、推しの国の名物料理なんて、作れて当たり前じゃないっすかぁ~。マクラ様のファンなら当然っす」
その返答にオルと紫苑の目が思わず点になる。
「え、えっと、一応たこ焼きの作成方法は秘密の筈なんですけど」
「あっ」
バーナードが思わず手を押さえた。
沈黙が流れた。オルもなんとなくバーナードがどうやってたこ焼きの技術を身につけたか分かったからだ。
「ナーちゃん、あんたまさか」
この沈黙を破ったのは、この会話新たな参入者マクラだ。
後ろで一部始終を聞いていたのだろう。
「ごめんなさいっす。一時期魔獣四王の皆さんを追っかけしてた時期があって、あの時は見境なく色んな国に侵入してたっす。その時に見て学んだというか…」
「あ、そうなんやね。まるでストーカーみたいやね。警備は厳重にしてる筈なんやけど」
流石のマクラも今回ばかりは引いたようだ。
「安心してください。漏れたらまずい情報とかは一切探ってないっすよ。ただ私はマクラ様のかっこいいところを生で見たかっただけなんです」
バーナードの迫真の言葉に真蜘羅でさえ気押されたようだった。
こいつヤベー奴だったのか、という空気が真蜘羅、オル、紫苑の3人の間に流れ、再び沈黙。
取り返しのつかないような空気に収集をつけたのは、さらに後からきたフェルミナだった。
「はいはい。そこまで」
パンパンと手を叩いてフェルミナが言う。
「この子は普段からこうだから。気にしてたらキリないわよー」
「でもフェルちゃん、ナーちゃんは我をストーキングをしてたんやで」
「あんたもセレーネのストーカーでしょ。ほら、修行時代に。似たもの同士じゃない」
うぐぐ、とマクラは押し黙る。
いやお前もしてたんかーい!、とオルは心の中で突っ込みを入れた。
確かにマクラがセレーネのことを親友としてとても好きだったことは知っていたが、そんなことまでしていとは。
あ
「大丈夫よ。この子の熱は本物だから。マクラが困るようなことはしないわよ」
「うーん、まぁ、それならいいんやけど」
不承不承といった感じでマクラは納得したと頷いた。
「ま、まぁとにかく私は皆さんが大好きってことっすよ。これからもよろしくっす」
バーナードは手を合わせて、話をまとめたと言わんばかりに皆に言った。
「ね!紫苑ちゃん!」
そして、紫苑に肩に手を回した。
紫苑はとても嫌そうにげんなりとした顔をしていた。
その顔にはやばい奴に目をつけられたと書いてあるようだった。
「あ、オルさんサインください」
最後にバーナードはオルに振り返り、陽気に言った。
「いやだ」
オルはなんか怖いと思い、即断った。
□□
※セレーネ目線です。
それからも祭りは続く。
セレーネは、ポーション職人の少女、アリアナと話をつけ、元の場所に戻っていた。
魔獣四王は共に行動していたが、その楽しみ方は各者各様だった。
マクラは店自体にはさほど興味がなく、私と共にイベントを回れることに心躍らせているようだった。
真蜘羅は古城での戦いから帰ってきてから明らかに私への態度が変わった。
前より好意のアプローチが積極的になったのだ。
私の腕を掴んで歩こうとしたり、顔を合わす度にハグをしようとしたり、なんなら唐突にキスをしようとしたりと明らかに友人としての一線からはかけ離れている。
あれではマクラの気持ちなんて誰からも丸わかりだ。
対して私はマクラの行為に応える気はない。マクラのアプローチを冗談として軽く流している。
好かれるのは当然悪い気はしないが、恋愛関係はごめんだ。
時には液体化まで使ってかわしている。
初めはその変化に驚いたが、ここ数日マクラのエスカレートした奇行はずっと続いていたため、皆もう慣れて気にも止めていない。
一方、フェルミナは人間の街の催しものということに興奮して、色んなお店を真剣に見て回っていた。
純粋に祭りそのものを楽しんでいることを踏まえるとマクラとは正反対と言える。
中でも一番楽しそうにしていたのが書店だ。
途中、警備として街を巡回していたリアと合流した時があったが、その時は物語論争で誰が1番かっこいい英雄かという議論で白熱していた。
2人はかなり熱中していたようで、マニアニックな会話を雄弁に語り続ける2人の圧に押され、本屋から周囲の客達が離れて行ってしまっていた。最終的には店主に怒られている始末だ。
最強の魔獣と最高の冒険者が正座で怒られている姿は、彼女達の正体を知っているもの達からすれば、さぞ珍しく面白い光景に見えたことだろう。
そして、オルもまた、2人とは違う視点で祭りを楽しんでいた。彼女が主に回った店は飲食店だ。
もし、この街に来たばかりのオルならば、そこしか回らなかっただろう。
そして、街中の食物を全て食べ尽くしていたかもしれない。
しかし、この祭りはセントラルフィリアの再起の狼煙を意味する。
故にオルがそんな事をしては、祭りは台無しになってしまうだろう。
昔のオルならば、そんな事は決して気にも留めなかったのは間違いない。
だが、この街でオルには友達ができた。
彼は領主の息子で、この祭りの立役者でもある人物だ。
そんな彼がこの祭りの成功を祈っているのだ。
邪魔をするわけにはいかない。
そんなわけで、オルは決して暴食に走ることはなかった。満たされるためではなく、楽しむための食事。そんな食べ方をしたのは初めてだろうが、オルにとって決して苦行でなかったのは、彼女の表情を見ればよく分かった。
「楽しそうね。オル」
フェルミナがオルに話しかけた。
「みんなで準備した祭りだからな。楽しまなきゃもったいないだろ」
オルは美味しそうにたこ焼きを頬張りながら応える。
かつて孤高のドラゴンだったオルからは考えられない言葉だった。
「そうね。その通りだわ」
短く、簡素な言葉で返答したフェルミナの顔には、我が子の成長を喜ぶ母親のような優しい笑顔があった。
私も同じ気持ちだ、とセレーネは思う。いつかこんな光景を、気持ちをルナと分かち合うことができたら。
この場にいない王女のことが鮮明に思い出される。
あの事件をきっかけに、2人の生きる道はかけ離れたものになってしまった。再び交わる事はもうないのかもしれない。
それでも。
「いつか、本当の意味で魔族と魔獣、そして人間が分かり合える日が来ます。必ず実現してみせる。だから、またいつか」
別れ際の最後の言葉。それ以降、彼女と会ったのは数度だけ。スライムの国の王として、面会をした時だけだ。その時も、お忍びでセレスティアという偽名と偽りの身分を語り、事務的な話し合いをしただけ。
もうまともに会うことはできないかもしれない。だが、それでも彼女の想いだけでも叶えたい。ただ願わくば、また5人で集まって夢のように楽しかった時間をもう一度。
そのために足掻いているのだ。
セレーネもまた、魔獣の王。欲望に従順な魔獣達の頂点に立つ存在なのだから。
※※
楽しかった祭りも終わりの時が来た。
セントラルフィリアを一望できる崖から魔獣四王は街を見下ろす。
下には、祭りが一通り終わって片付けをしている人たちが見える。
太陽が水平線に沈みかかり、夕焼けの赤い光が反射して四人を照らした。
「楽しかったなー」
「そうやね。セレちゃんとも楽しい時間を過ごせたし、我的にも満足やね」
「そうだねー。2人がそう思ってくれたならこの街に来たてよかったよ」
「そうね。ところでセレーネ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかしら。私達が集結したその意味を」
オル、マクラ、セレーネが祭りの感想を話し合っていた時、フェルミナが流れるように自然に話題を転換して問いかけた。
魔獣四王全員が気にしながらも聞けないでいた、今回の魔獣四王が同窓会をしたその目的。
その核心を。
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2か月も投稿開いてしまい申し訳ないです。
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