かつて最弱だった魔獣4匹は、最強の頂きまで上り詰めたので同窓会をするようです。

カモミール

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2章:セントフィリアの冒険

44話. 釣り

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※リア視点です。


「釣りぃ!?いや無理でしょ。あのクラーケンよ」
「いやぁ。大丈夫でしょ。ちょうどいい餌もあるし」

私たちがクラーケンを討伐するというと、
魔獣四王達はなんと釣りをするのだという。

初めは冗談か何かの隠語だと思った。
目の前の状況を見るまでは。

「ひ、ひぁぁあ!た、助けてぇ。い、命だけはぁ」
「おい!暴れるな」
3人の男たちが逃げようと大暴れしているが、
龍王オルゴラズベリーと思われる少女が、軽く3人を抑えている。

腕が足りない分はドラゴンと思しき尻尾を使っていた。

やっぱり龍王で間違いないわね。

「オル~。糸つけるから動かさんといてな」
奥では蜘蛛王・真蜘羅と思われる怪物が釣り糸を使っていた。

相当なMPをかけて作っている糸だ。あれならクラーケンが元の大きさでも切れないだろう。もっともあの巨大だったら引き上げられるやつなどがいるはずはないが。

「流石にこのまま入れたら溺死しちゃうから幕作っとくね」
スライム王セレーネは中に空気のある水の幕を作っていた。男たちを中心に球状の薄い水の幕を作り、中に水が入ってくるのを防ぐ仕組みだ。

スライムの肉体を操作する芸当だろうが、そんなことができるスライムがいるなんて聞いたことはないし何気にヤバいことしてる。

「私の分の餌なくないかしら?」
そして、怪鳥王フェルミナまで乗り気なようだ。

「なんでよ!?」

フェルミナはフェルミとして私の前に現れた時はもっと常識のあるお姉さんだと思っていたのに。

なんだか悲しくなってくるわ。

今朝目が覚めて同行した領主の息子、ロイド・エル・ハートブルク君。
彼も目の前の地獄絵図を見てかなり引いてるわね。

「カイルさん!?なんですかこれ!?民にこんな真似を」

側でただ見ているだけの領主を問い詰める。

「ん?ああ。いいんだよ。彼らは民ではない。私のかわいいロイドを誘拐した罪人だ。死罪は確定。それを今回魔獣四王である彼らの申し出でクラーケンへの餌として使うことにしたんだ」
代わりに無期懲役まで罪を軽くしてやった、と領主であるカイルは付け足した。
その口調は軽快だったが、どこか怒りもこもっているようだった。
息子を攫われて怒り浸透なのはわからないでもないけど。

「で、ですがいくら罪人でもやりすぎなのでは」
「そ、そうだ。いくら俺たちがが罪人だからといって。クラーケンに喰われるくらいなら死罪の方がマシだ」
罪人3人が私の言葉に乗っかって必死に何か言っているが、無視する。こいつら自身には同情の余地はない。

「あー、大丈夫や。死にはせんよ。そこは気をつけるから。ただ恐怖は半端ないかもしれんけど」
「だそうだ」
「そ、そんなぁ」
顔を歪ませ、小太りの男とスーツの男2人は顔を歪ませがっくしと肩を落とす

はぁ、とため息をつく。
領主に罰の一環と言われたら返す言葉もない。ただもし彼らが死んだりしたら、仮にも同盟を結ぶ相手である魔獣四王は信頼ならないということになるのではないかと思った。

「「「うわぁああああああああああああああああああ」」」
絶叫しながら誘拐犯3人は海の中へ放り投げられた。


あーあ、可哀相に。彼らの不幸はここに魔獣四王がいたことかしら。
これだから悪いことはできないわね。

「あー、引いちゃったかしら?」
その時、話しかけてきたのはフェルミナだった。
「…そりゃね」
「不愛想ね。やっぱり私嫌われた?」
「…」

私は返答しない。

沈黙が流れた。正直フェルミナのことはそこまで怒っていない。

なぜなら、相手の出自立場のみで敵味方を区別することは、私が最も嫌いな騎士の悪習だからだ。
彼女が善意で助けてくれたことは分かっているし、少なくとも今私たちを害する気はないのだろう。
彼女の立場なら正体を隠さなければならないことも分かる。

ただ、短い時間ながらも肩を並べていた仲間だと思っていた相手が、自分を欺いていたことがなんとなく気に入らないだけだ。

私は自分の過去も気持ちも全部洗いざらい話したのに。

「ごめんなさい」
「え?」
「あなたに私の正体を黙っていたこと。こんなことなら早く打ち明けちゃえばよかったわね」
「別に。謝る必要もないわ。本当に私の気持ちの整理がついてないだけだから。結局私って根が真面目なのよ。騎士らしくね」
「自分で真面目っていう?」
「言うわよ。私、そのせいで家を追い出されたようなものだし」
「…反応に困るわよ」
「で、そんな真面目な私だから突然信頼してた人が魔獣でした、なんて言われたら困惑しちゃうのも分かるでしょう?」
すると、フェルミナはため息をついた。
「魔獣と人間が分かり合える世界を作りたい。それと魔族もね」
「え?」
いきなりフェルミナが信じられない発言をした。
思わず絶句する。
魔獣と人間が分かりあう。そんなことできる筈がない。魔獣は古来より人間の敵。そして、人間は魔獣の餌だ。魔族も生まれながらに人間に対し侵略を繰り返している。この3種は言わば絶対に交わらない水と油だ。
いや、魔獣と魔族ならまだ可能性があるかもしれない。その場合人間にとっては最悪だが。

「こいつ正気かって思った?私も思った。あはは」
「ど、どういうこと??」
「これ、私の目的じゃなくてあなたの主様の理想の世界よ」
「え?」
「昔ルナ王女から聞いたことなのよ」
「え、えええええええ!?うそ、うそうそ、そんなはず」
思わず叫んでしまう。だってルナ様には何年も前からつかえてきたけど、そんなこと聞いたことも。

「あなたに言ってないのだとしたら、それは立場を考えてのことじゃないかしら。魔獣と共存なんて王女様が言い出したら大問題だしね」
言われてみればルナ様は今まで人間に多大な害を為す魔獣以外倒そうとはしなかった。
あの方の考えは底知れないし、それくらい考えていても不思議じゃない。
「あの方なら頭ごなしに嘘って言えないわね。確かに」
「あはは。けど私は応援してるし、できると信じてる。あなたと私が一時でも仲良くできたみたいに、人間と魔獣でもお互い分かり合うことができるもの」
「フェルミナ。あなたとルナ様の関係って」
「ただの親友よ。夜遅くまで一緒に本を読んで語らい合うような普通のね」
その時、フェルミナが垂らしていた釣り糸が下がった。
「ねぇ、ひいてない?」
もしかして、クラーケン?
「よっと」
フェルミナが竿を引くと、そこには革製のブーツとワカメが絡まったゴミがかかっていた。
「…」
フェルミナが苦い顔をする。

思わず声に出して笑ってしまった。

どうやら魔獣の王でも全てが万能というわけではないらしい。


「クラーケンって人間以外も食べるのよね。私も釣るわ。どっちが釣れるか勝負ね。フェルちゃん」
「リア…のぞむところよ」

余談だが、その後フェルミナが好きな初代勇者の英雄譚の話が、リアのお気に入りの話でもあったことが発覚し、2人は夜通しで語り続けた。そのこともあって、2人の中に残っていた僅かな蟠りも完全になくなったのだった。





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読んでくださりありがとうございます。

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また、短編『魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。』
を投稿したので、よければ、そちらも見てみてください。





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