かつて最弱だった魔獣4匹は、最強の頂きまで上り詰めたので同窓会をするようです。

カモミール

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2章:セントフィリアの冒険

35話.古城の防衛線①:強襲

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龍王オルゴラズベリーがクラーケンを吹き飛ばし、
スライム王セレーネが都市セントフィリアと同盟を結んだちょうど1日前。

魔獣四王が旅立ち、そして再集結したその地にて事件が起ころうとしていた。




◇◇

広い荒野。

その中央に古城は建っていた。

荒野の外には森が広がり、そこから馬車に乗り4、5時間でやっとセントラルフィリアという都市につく塩梅だ。

何故こんなところに城が建設されたのか。

恐らく敵軍からの奇襲を警戒して、というのが答えなのだろうなと蜘蛛の魔獣、紫苑シオンは考えた。

この立地なら古城の見張り台から敵軍が全て見渡せる。だから奇襲対策は万全。

おまけに森を抜けて荒野からこの古城に辿り着くにはかなり距離がある。そこで矢などの飛び道具で攻撃すれば敵兵がここにたどり着くまでにかなり戦力を減らせると言う寸法だろう。

この城の主がいなくなったのは、立地的に食料の調達等で不備が生じ立ち退いたのか。
それとも破壊の跡があることから、単純に戦で負けたのかそれは定かではないが。

なんにせよ、それを想像する事に意味はない。
重要なのは、この地が今私たちにとって都合の良い場所と言うことだから。

今古城の周りには、私の主である真蜘羅様の部下を含めた魔獣四王の配下たちが一堂に集まって寝食を共にしている。

といっても、私たちは魔獣。城に一緒に住むわけではなく、外で睡眠を取ったり、たまに森に狩りに行って食料を調達したり過ごし方はいろいろだ。

ただ問題もあるようで、もともと敵対していた魔獣同士、ちょくちょく言い争いになったり、中には喧嘩を始めるものもいる。

そんな敵同士の軍がなぜ同じ場所で共同生活をするようになったのかというと、
それは私たちの主のわがままが原因だ。

あれは、1週間前だったか。
私の主、真蜘羅様が急に魔獣四王同士で同窓会を始めると言い出したのだ。

私は魔獣四王同士は仲が悪いと思っていたから、この発言には心底驚いたものだ。

実際、真蜘羅様は同じ魔獣四王フェルミナとよく争っていた。

例外として、魔獣四王セレーネとは仲が良く、真蜘羅様もセレーネの事は好ましく思っていたようだったが。

何でも聞けば、魔獣四王同士は幼なじみだったそうだとか。
その時初めて知ったことだ。

そうだったのなら、教えてくれたらよかったのに。

私の主、真蜘羅はいつも私を振り回す。


聞けば、他の魔獣四王の配下たちも今回の招集は寝耳に水だったようで、困惑しつつも護衛として付いてきたようだ。


「そこどきなさい!」
「は?ふざけんな、そこは俺の場所だ」

言い争いが聞こえた。
声の方を見ると、フェルミナ配下の鳥の魔獣と真蜘羅の配下の蜘蛛の魔獣とが言い争いをしているようだ。

またか。
心の声でうんざりした気持ちを吐き出しながら、仲裁すべく、私は彼らの下へ歩く。

「あ、あの!やめてください。喧嘩するのは」
ああ、相手に話しかけるとき、おどおどしたような口調になってしまうのは、私の悪い癖だ。

直したいのだが、そう簡単にはいかない。
もっとも真蜘羅は、私もそういったところをなぜか気に入っているようだが。

「し、紫苑様、申し訳ありません」
蜘蛛の魔獣は私の配下でもある。
素直に頭を下げてくれた。だが、うまくいかないのはフェルミナの配下の方だった。

「なんですか?あなた。オドオドして。蜘蛛ごときがデカい顔をするから注意したまでです。あなたも実力で排除したっていいんですよ」
「いや、それは…」
困ったなぁと内心紫苑は思った。
戦闘行為は真蜘羅からきつく止められている

その時
「そ・こ・ま・でぇー!!」

空から少女が降ってきた。
しかも羽の生えた少女。

だが、その羽は赤い炎を纏っていた。 
そのレアな特性。
間違いなく高ランクの魔獣。

少女はさっきまで揉めていた鳥の魔獣の上に着地する。

ぐぇっ!、と喘ぎながら鳥の魔獣は地べたに這いつくばる。

「だめっすよぉ~。フェルミナ様の品位を損ねるような真似はぁ。口調が優雅ならそれでいいってもんじゃないの。私たち配下の質はフェルミナ様の評価を左右するんだから、みっともないことしちゃだめっす」

派手な登場に驚いたが、どうやらこの娘も争いを諫めにきたようだ。ひとまずは安心。

「あなたは?」

「おやぁ?あなた。真蜘羅様のところの右腕。ナンバー2の紫苑さんじゃないっすかぁ!私ですよぉ。私。フェルミナ様の右腕、あなたと同じくナンバー2でコルニクスランド統括。バーナードです!!」

ああ、そういえば真蜘羅様とフェルミナが戦ってた時に見かけたことがあったな。

思えばあんな珍しい炎の翼を持ったやつなんてこいつ位しかいないか。

「あ、ああ、お久しぶりです。と言っても私たちこうやって面と向かって話し合うのははじめてでしたよね。改めまして大女郎街の長、真蜘羅様の右腕、紫苑です」

「こちらこそよろしくっす!シオンちゃんっ!」
「あ、はい」

グイグイ来るな。バーナードさん。
苦手なタイプだ。

「私、シオンちゃんとは一度じっくりお話してみたかったんです。まったく、各陣営ナンバー2にはご挨拶に伺っているというのに、シオンさんだけ見つけられなくて困ってたんですよ。影薄すぎっすよぉ」

「あはは、よく言われます」
愛想笑いで小さい声で返答する。

普段の戦いから推察できるが、裏表がないのがこの子の性格なんだろう。
悪意がないのはなんとなくわかるが、少し傷ついたよ。

落ち込みモードに入ろうとした私に影がかかる。
見ると、目の前に一人の背の高い男が立っていた。

もちろんここにいるということは人化の魔法を使っている魔獣だろう。
多分正体はスライムだ。

「私もご挨拶いいですか?スライム王国の幹部、マナフと申します。我が主、セレーネ様があなた達の主、真蜘羅様とフェルミナ様に大変お世話になっているようで。ここの防衛の要は私たちです。よろしくお願いします。シオン氏、バーナード氏」

魔獣らしくないビジネスのような硬い口調でその男は言う。
「あはは、そんな硬くならなくても。それに、防衛って言ってもこの大軍勢を襲ってくる奴なんていないと思うし」
「いえ、私はセレーネ様の命令を完遂するだけですので」

端的にその男は言う。
いざという時は私たち主力に協力してほしいという事なのだろう。

真面目そうな人だなぁ。仲良くできなさそう。

内心紫苑は思う。

当の魔獣四王たちはここから最も近い港町、セントラルフィリアに美味しいものを食べてくると言って出かけてしまった。

真蜘羅は、
「ここの守りは頼んだで。あ、あとこれはセレちゃんからの注文なんやけど、一匹の魔獣も欠けることなく守り切ってや。あと、相手が人間だった場合は生け捕りでな」
と呑気なことを言って行ってしまった。

防衛を一匹の犠牲も出さずに、しかも生け捕りとはなんという無茶な。
思わずため息が出る。

まぁさっきも言ったけど襲撃なんてないと思うし、いいけどね。

「それと、彼にも伝えなければ」
マナフと名乗るスライムが言う。

彼の目線の先には、一人の男がいた。
ワインを片手に、優雅にくつろいでいるようだ。

執事服を着た黒髪の男。真っ黒な眼球にその中心で光る瞳孔。

あの目の特徴から考えるとあいつは悪魔だろうか。

聞いたことがある。
魔獣四王の一角、龍王オルゴラズベリーには1人しか配下を持たない。

ただしその配下はとてつもなく狂暴で、手が付けられず、
魔獣四王が従える配下の中では最も厄介な存在だと。

確か名前は…

「ディアボロスと申します」

背後から突然聞こえた声に、思わず振り向く。
そこには、先程まで視線の先でワインを飲んでいたはずの男が立っていた。

一体いつの間に!

他の2匹、バーナードとマナフも驚いているようだ。

「驚かしてしまい申し訳ありません。魔獣四王の忠臣が集まっていたようですので、私もご挨拶をと。魔獣四王、オルゴラズベリー様の身の回りのお世話を担当しております。以後お見知りおきを」

「え、ええ。こちらこそ」

簡単な挨拶を交わし、ディアボロスは去っていった。

「とんでもないのがいますねぇ。あれはやばいっすよ」
バーナードが言う。

私も同意見だ。ディアボロスが私たちの前に現れた時、その魔力から得体のしれない怖さを感じた。

「ですが、頼りにはなります」
冷静な口調でマナフが言う。

ま、確かに敵対する事はないんだし、過剰に警戒する事もないか。
安堵の吐息をつく。

だが、私たちの主、魔獣四王の面々が帰ってくるまで平和に過ごすという私の望みは叶わないようだった。

数分後、その場にいた全員が感じる、先のディアボロスとは違った狂気。

まっすぐで純粋なまるで獣のような殺気が私たちを襲った。

しかも、この魔力

「…人間」

一番会敵したくない種族が私たちに奇襲を仕掛けてきたのだった。










__________________________________________

読んでくださり、ありがとうございます。

次回投稿は6月23日(金)の20時からになります。



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